起床 side:本条花凜
真っ直ぐ、グラウンドへは戻らなかった。いや、戻れなかったが正しいだろうか。
綾瀬さんが教室に戻る後ろ姿が見えたから、私はこっそり教室とは反対側の階段に向かった。
階段を上がって、校舎の端にある教室。
いつもの、図書室へと向かっていた。
図書室の扉には鍵がないから、いつでも入ることが出来る。
私は少し重たい図書室の扉をゆっくりと開けた。扉が古いためギギギ、と音をたてながら扉は開いていく。
図書室の中は、もちろん誰もいない。
誰もいない図書室というのは、何気に初めてだった。
放課後は誰かしら勉強している人や本を読んでいる人、図書委員の人がいる。……まぁそれでも合計人数10人にも満たないが。
私はゆっくり、図書室の奥へと進んでいく。奥の、光が届かない、暗い隅っこへ。
今の私にはお似合いの場所だ。
私は光の当たる場所にいない方がいい、いたらいけない。
私の、斉藤くんへの好意は、きっと光を当ててはいけない。闇に置いておくべきなのだ。
それが私の、答えなのだから。
そう思いながら、私は図書室の隅に辿り着くとゆっくり床に腰を下ろした。そして膝を抱え、頭を沈ませる。
別に間違ったことは何もしていない。
私の気持ちの問題なんだ。
綾瀬さんの気持ちの方が大きかった。
それを見て私は、負けていると本能的に思ってしまった。本物の恋に触れて、私は怖くなったのだ。私の気持ちは恋なんかじゃないって。だから自分の気持ちをないがしろにしてしまった。
だから今、こんなにも後悔しているのだ。
あの時、私も好意を持っていると、張り合えたのなら。
その先にどんな未来が待ち受けているかはわからないが、きっと今よりもすっきりとした気持ちになっていたのだろう。それが本物の恋じゃなかったとしても。斉藤くんは私にとって大事な人だから。
しかし私は、好意をなかったことにしてしまった。
それは嘘なんかじゃなく、本当のことだ。
あの時、あの瞬間、私は自分自身に嘘をつき、そしてそれを真実だと決め付けてしまった。
好意を持っているのに好意を持っていないと嘘をつき、自分の中で本当に好意を持っていないと決めつけた。ただの友達、それだけだって区切ってしまった。
それが。
それが本当に、悔しくて、後悔しているのだ。
私の……私の、斉藤くんへの好意は本物だと思っていたのに。
もう、何もかも分からなくなってしまった。
私はこれからどうしたらいいのか。
答えはわかっている。
これからも普通に、彼らと接していくしかない。それだけ。
昔からわかっていた通り、嘘は本当に醜いものだった。
嘘は嫌いだ。
こんな自分も嫌いだ。
だから私は、やっぱり自分の本音に正直に生きていきたい。
斉藤くんへの思いは、今回のことで曖昧になってしまったからわからない。今後、本音で好きって思うかもしれないし、友達のままがいいと思うかもしれない。
だから、まずはその気持ちを適当なんかじゃなくて、はっきりさせたいのだ。
前から思っていた、斉藤くんを知りたいってやつの延長線だ。
斉藤くんと関わっていればすべてが分かる。
だから、私は斉藤くんに関わり続ける。
それが私の、今の確固たる私の本音だから。




