気持ち 前編 side:綾瀬琴葉
「なに?」
いつもと変わらない花凜の顔なのに、酷く冷たく刺さったその一言に私は少したじろいでしまった。
だから、
「見たの?」
私からの言葉も少し強く言ってしまった。
顔も少し怖かったかもしれない。
「何を?」
何を? 何をって、何?
そんなの1つしかないじゃない。
「私"たち"のことを」
しらばっくれた花凜に対して私は少しイラつきをおぼえ、私のことだけではないことを強調して言った。
「見たよ」
先程はしらばっくれたのにも関わらず、"見たよ"という返事はやけにあっさりと言われた。
調子が狂ってしまい、私は少し次の言葉を発するまで時間を要した。
「はぁ……まぁいいか。別に隠すつもりはなかったの。ただ、言うタイミングがなかっただけでね……」
最初のため息は狂った調子をバレないようにするため。
「隠すつもりはなかった」、この発言は嘘だ。
隠せるなら隠したかった。なんなら花凜は1番バレたくない人だった。
よりにもよって、というかなんというか。
しかし見られてしまったのはもうしょうがないことだ。
花凜に対して、バレたくなかったという意図を隠そうと私はそう言った。まぁ、花凜に嘘とか効かないのは知っていたが、念の為というやつだ。
「仲、良かったもんね。いつからなの?」
淡々としている花凜と裏腹に、馴れ初めを聞かれてあの時のことを思い出し、私は少し顔が熱くなってしまった。
あの時のことは、今後絶対に忘れることの出来ない出来事なのだ。
「夏祭りの、あとから」
私がそう言ってから少し時間を空けて花凜は、
「私、応援するね」
と、笑顔でそう言った。
"笑顔で"言ったのだ。
だから私は、
「えっ?」
と、驚いてしまった。
私の予想では花凜だって少しくらいけんちゃんに好意を持っているのかと思っていた。
だから、悲しい顔をするものだと思っていたのだ。
なぜなら私がその立場なら今すぐにでも逃げたいと思うだろうから。
それなのに。
それなのに、彼女は、笑顔で言ったのだ。
「え? だから、応援するねって」
私が驚いたからだろうか、花凜は再び応援する旨を言う。
「あ、ありがとう?」
私の思い過ごしだったのだろうか。
感謝の言葉にもハテナがついてしまうほど私は動揺していた。
「なんでハテナなの? とてもお似合いだと思うけどな」
花凜は変わらず笑顔でそう言う。
ここまで笑顔ならきっと本心なのだろうと、私は思った。
「いや、なんでもないよ。そ、そうかな……ありがとうね」
今度はちゃんと感謝を伝えられた。
私も、笑顔で。
「じゃあ私、行くから」
しかし私は、花凜が生徒玄関の方へ向こうとした僅かな瞬間を見過ごさなかった。
だから反射で、
「ちょっと待って!」
と、私の大きな声が校舎内に再び響いた。
このまま行かせるわけにはいかなかった。
さっきまで笑顔だったのに、その僅かな瞬間だけは、悲しそうな顔をしていたのだから。




