気持ち 後編 side:本条花凜
「ちょっと待って!」
「……なに?」
あまりにも突然の大きな音で私は驚き、振り向くのに時間がかかった。
私が振り向いてくれると思わなかったのか、綾瀬さんの顔は呆然としている。
「……あ、えっと、花凜って何か用があって教室に来たんじゃないの?」
慌てながら綾瀬さんはそう言う。
それはまるで本当に聞きたいことを躊躇しているようだった。
私が教室に来た目的。それは持ってくるのを忘れたハンカチを取りに来るためだ。
けれど、今教室に戻る気は全くなかった。
なぜなら、教室には斉藤くんがいるのだから。
「もう、大丈夫だから」
薄い笑顔で私はそう言う。
もう大丈夫。
ハンカチも、それ以外も。
「そっ……か」
私の笑顔を見て何かを察したのか、綾瀬さんの返事は少し間を空けた返事だった。
「じゃあ、今度こそ……」
もう今度こそ話すことは無いだろう。
私は再び生徒玄関の方を向こうとすると、
「建真のこと!」
綾瀬さんの大声が再び校舎内に響いた。
「……!!」
突然の大声に私は再び驚いた。
いや、大きな音のせいだけでは無いかもしれない。
綾瀬さんの言った内容にも驚いた。
「建真のこと、どう思ってるの……?」
綾瀬さんは恐る恐るそう言った。
あぁ、結局その話になるのかと私は思った。
察したのではなく、その話になるだろうと確信していた。
「斉藤くんは……」
私がそう口にすると、綾瀬さんの顔色がだんだんと暗くなっていくのがはっきり分かった。
不安、なのだろう。
それだけ斉藤くんのことを思っているのだろう。好きなのだろう。
そんな彼女に対して私は……
私は、
「斉藤くんは、ただの友達だよ」
私は言い切った。
ただの友達。ただのクラスメイト。
事実だ。嘘なんてついていない。
「……ご、ごめんね!? 変な事聞いちゃって」
綾瀬さんは慌てふためきながらそう言う。
まぁ、聞かれるだろうと思っていたから気にしていない。
「ううん、大丈夫だよ」
私は薄い笑顔でそう返した。
「じゃ、じゃあまた後でね」
申し訳なさそうな顔をしながら綾瀬さんは言う。
そんな顔しなくても、大丈夫だよ。
私は全然気にしてないから。
「うん」
私は返事をしてから生徒玄関の方へと体の向きを変えた。
ようやく生徒玄関へと歩を進めることが出来る。
ただ、生徒玄関までの約10歩は本当に重い10歩だった。
色んなことを考えながら歩いたその10歩の後に1番強く残っていた感情は、悲しみでも喜びでもなかった。
(私はまた、嘘をつけたんだね)
本音だけの私が、また嘘をつけて喜ぶべきなのかもしれない。私は変わったって嬉しくなるはずだ。
けれど、私に残ったのは、後悔の気持ちだった。




