気持ち 前編 side:本条花凜
「なに?」
私はいつもと同じような顔と口調でそう言う。
多分、いつもと変わらないはずだ。心臓が高鳴っていた余韻でまだ少し鼓動が早く、完璧に落ち着いたとは言えないが。
「見たの?」
綾瀬さんはいつもより鋭い視線で私を見ながら言う。
「何を?」
何を。そんなの1つしかないのにも関わらず、私はしらばっくれてしまった。
「私"たち"のことを」
綾瀬さんは少しだけ"たち"に力を込めそう言う。
「見たよ」
何も隠さず私は答えた。
見たことに対して、本当に偶然で悪気があった訳では無いのだ。
ただ、見てしまったことは事実だから。
「はぁ……まぁいいか。別に隠すつもりはなかったの。ただ、言うタイミングがなかっただけでね……」
苦笑いしながら綾瀬さんは言う。
多分、嘘を言っていない。
まぁここで嘘をついてもいずれはわかることだ。それにどちらにしても2人の仲がいい事実は変わらない。
「仲、良かったもんね。いつからなの?」
斉藤くんと話すようになってから斉藤くんのことをよく見るようになったけど、斉藤くんと綾瀬さんは本当によく一緒にいる。
だから正直、いつから付き合っているのか分からないから私はこの質問をした。
もしかしたら高校に入る前からかもしれないから。
「夏祭りの、あとから」
少し恥じらいながら綾瀬さんは言った。
夏祭りの後。あの長かったトイレの時だろうか。
まぁとりあえず、
「私、応援するね」
と、私は言った。
私の気持ちがどうにしろ2人は付き合っているのだ。
応援するしかない。
しかし綾瀬さんの反応は、
「えっ?」
驚いていた。
「え? だから、応援するねって」
何か変なことでも言ったのだろうか。
私は繰り返し言う。
「あ、ありがとう?」
しかし綾瀬さんの反応はイマイチだ。
「なんでハテナなの? とてもお似合いだと思うけどな」
普段からとても仲良いし。
変な事言っていないと思うけれど。
「いや、なんでもないよ。そ、そうかな……ありがとうね」
ようやく綾瀬さんは納得したような表情を見せた。
よく分からないけれど、何も無いなら大丈夫だろう。
「じゃあ私、行くから」
話も一段落したからと思い、私はそう言った。
まぁ正直、1人で落ち着きたい時間が欲しいと思ったのだ。いろいろと、私の中で整理したいし。
私は綾瀬さんに背を向け、生徒玄関に向かおうとすると、
「ちょっと待って!」
綾瀬さんの大きな声が校舎内に再び響いた。




