さぼり
「よいしょっと」
そう言いながら琴葉は、俺の隣に座ってきた。
誰もいない教室は酷く広く感じられるというのに、俺たちの距離はとても狭い。
「琴葉って別の軍なのになんで俺がグラウンドにいないって気づいたんだ?」
俺はそう言いながら琴葉の頭に着けているハチマキを見る。
ハチマキの色は白。ちなみに俺のハチマキは俺の机の上に置いてある。色は赤だ。
軍分けは俺だけひとりぼっちになってしまった。
いつものメンバー、琴葉と本条と武史と淳は白軍で俺は赤軍。
俺のクラスの赤軍で俺が知っている人は一応いるのだがあまり話したことがなく、正直気まずい。
体育祭を抜け出した原因の3割ほどこれが理由だ。
「そんなの、けんちゃんのこと見てたからに決まってるじゃん。すごーくつまらなそうにしてたからもしかしたらって思ったら案の定だったよ」
ニコニコと笑いながら琴葉はそう言う。
なんでもお見通しというわけか、と俺は幼馴染であることを呪った。まぁ、今は付き合っているのだけど。
「ねぇ、学校でこういうことしてるとなんだかいつも以上に照れくさいね」
笑顔は変わらず、少し赤みがかった顔で琴葉は言う。
「いや、こういうことをしているのは琴葉だからな?」
俺は知らぬ間に繋がれている自分の右手を見ながらそう言った。
しっかりと、恋人繋ぎだ。
「そう言いながらもちゃんと繋いでくれるけんちゃん、私好きだよ?」
琴葉は首をこてんと傾げながらも、俺の方をしっかり見てそう言う。
急にそういうことを言われると、調子が狂う。
「……そりゃどーも」
明らかに照れ隠しとわかるような返事を俺はしてしまった。
その会話以降は、2人とも何も話さずただ静寂の空間の中過ごしていた。
何もせず、座っているだけなのにどこが満足感を感じる。それが琴葉と一緒だからなのか、それとも体育祭をさぼっている背徳感からなのかはわからない。
けれど、正直、理由なんてどうでもよかった。
ただただ今のこの時間が、照れくさい表現をすると、幸せに感じていた。……琴葉なんて知らぬ間に俺の右肩に頭預けて寝てるし。
最近あまり長い電話をしてないのに、疲れが溜まっているのだろうか。
寝ているというのに、琴葉の左手は俺の右手をしっかりと握っている。
俺と琴葉が付き合ってからそろそろ1ヶ月が経つ。
正直、琴葉に対する気持ちに変化は無い。好き、だけどそれは幼馴染に対しての好き、だ。
でも、その気持ちがこれから変化するかもしれない。異性としての好きになるかもしれない。
だからまだ、分からないのだ。
別れるべきなのか、付き合い続けてもいいのかが。




