進藤武史と本条花凜 前編 side:本条花凜
いつも通りの時間に学校に来て、朝のホームルームが始まるまで本を読んで過ごす。
学校に早く来る意味は特にない。誰かと話すわけでも、しなければいけないことがあるわけでもない。
ただ、両親が家を出るタイミングに合わせているだけ。
だから、今日が始業式だろうといつもと変わらない日だ。
朝ごはんを食べて、身支度を済ませ、家を出る。
半分ほどしか開いていない学校の正門を通り、誰もいない生徒玄関で外履きから内履きへ履き替える。
どこかが違うとするなら、今日は部活動の朝練がないのだろうか、いつもより静かだ。
やけに足音が響く廊下を歩きながら、誰もいない自教室に入る。
いつもなら自席に座って机の引き出しに教科書やノートを入れるのだが、今日は始業式とテストだけだから筆箱と夏休みの宿題と本しか持ってきていない。
チャックを開いたリュックから本だけを取りだし、チャックを閉め机の脇に置いた。
一応、私も部活に入っている。先輩もいる。
だけど文化系の部活だから朝練というものはないし、そもそも来てもいいし来なくてもいいという自由度が高いから入っているのか不安になる。先輩も幽霊部員が多いらしいし。
それでも確か、部長が文化祭の出し物はすると言っていた気がする。詳しいことは知らないけれど。
だいたい私が学校に着いてから30分後くらいに、人が増えてくる。電車の時間かバスの時間の関係だろうか、ぽつぽつとではなく一気に来る。
そして、朝のホームルームが始まるギリギリに朝練終わりの人たちがやってくる。
それが私たちのクラスの、朝の日常だ。
私自身は、入学したてはずっと読書をしていたが斉藤くんと知り合ってからは少しだけ話すようになった。まぁ、それでもほとんど読書だけど。
今日も変わらず、みんな来るのが遅いのだろうと思っていた。
だから、特に考えていなかったんだ。今日、部活の朝練がないことに。
急に教室の扉が開き、私は読んでいる本から目線を外し、扉の方をちらりと見た。
そしてすぐに、その目線を本に戻した。
多分、彼を見た事を気づかれていないはず。それくらいの速さで目線を変えたから。
扉を開けた人は、進藤くんだった。
彼を見た瞬間、私の心臓の鼓動が高鳴るのを感じた。
そして同時に、あの時のことを思い出す。
それでも、私はゆっくりと静かに深呼吸をした。
もうすでに自分の中で解決した問題だ。だから、大丈夫。
むしろ、自分から話しかけにいけるくらい大丈夫だから。
そんな自信過剰が仇となった。
「お、おはよう」
と、自分でも気づかないうちにそう言っていたのだ。




