進藤武史と本条花凜 前編 side:進藤武史
いつも通りの時間に学校に来て、部活の朝練をしてから朝のホームルームが始まる時間ギリギリに教室に入る。
夏休みが始まる前から、このような生活だ。
だから、朝のホームルームが始まるまでの時間に友達と話す時ことは基本的にはない。
しかし、今日、2学期の始業式の日は部活の朝練がなかった。
何となくいつもの癖で早めの時間に起きてしまった俺は、朝ごはんをいつもよりゆっくり食べてからゆっくり自転車を漕いで学校に向かった。
それでも、朝のホームルームが始まる1時間前に学校に着いてしまった。
(さすがにこの時間は誰もいないよな……)
俺はそう思いながら生徒玄関で外履きを靴ロッカーに入れ、内履きに履き替える。
内履きは、買ってまだ約5ヶ月しか経ってないのに随分使い込まれたような姿になっている。多分、室内体育を頑張りすぎたせいかもしれないと思った。
朝早い時間の校舎は朝練をしている部活が1つもないからだろうか、とても静かだ。
俺の足音が廊下に響いている。
明るいのに、少し不気味に思えた。
自教室が見えてくると、扉が閉まっているのに気づいた。だから、教室内の様子はわからない。そもそも扉の鍵が空いているのかさえわからない。
俺は扉に手をかけ、ゆっくりと扉を右にスライドさせる。
カラカラカラと、音を立てながら扉が空いた。どうやら鍵は閉まっていなかったらしい。
俺は安堵しながら教室に入ると、1人の生徒がぽつんと席に座っているのを見つけた。
その生徒を見た瞬間、俺は周りの時が止まったかのような衝撃を受けた。
この後ろ姿を俺は知っている。
何度も目で追った後ろ姿だから。
話しかけようか、話しかけるならどう話しかければいいのか、俺は迷う。
彼女は多分、読書に集中している。いきなり話しかけるのも無礼かもしれない。
そもそもあの時から話していないのだ。あの時のことを無かったことにして話しかけるのか、それとも最初に謝るべきか。
わからない。
わからないけれど、早く選択しなければいけない。いつまでも突っ立っていたらおかしな人だ。
そして俺は決断する。
とりあえず、自分の席に座ろう、荷物を置こう。話はそれからだ。
もしかしたら、あっちから話しかけてくれるかもしれないから。
そんな、ありえない奇跡を信じながら俺は自分の席に向かった。
机には少しホコリが被っている。
俺は手で机のホコリを払い除けてからリュックを置いた。放課後の部活もないから今日のリュックはとても軽かった。
リュックから筆箱を取り出してから、チャックを閉め机の脇に置く。
さて、どうしようか。
そう考えながら俺は携帯に手をかけた。画面に表示されているのは今の時刻だけ、メッセージの通知はない。
朝のホームルームまでの時間はまだ50分以上ある。
いっそ誰か来てくれればいいのに、と思っていると、
「お、おはよう」
と、小さな声だがはっきりとそう聞こえた。




