夏休みの宿題 中編
勉強会は淡々としていた。
というのも、俺の考えではただ本条のやった夏休みの宿題を写すだけだと思っていたのだが、本条は俺がわからないところを1から教える気でいたらしかったのだ。
初めは少し気が滅入りなかなかやる気が出なかったのだが、本条の教え方がとても分かりやすかったためにだんだんとやる気が出てきて、宿題はすぐに消えていった。
「ちょっと休憩しようか」
本条からそう提案される。
時計を見るととっくに15時を過ぎている。集中しすぎて時間の経過に気づかなかったらしい。
「そうだな」
俺はそう言って、手に持っていたシャーペンをノートの上に置いた。久しぶりにこんなに一生懸命勉強したせいか、それとも本条とのマンツーマンに緊張していたせいか分からないがかなり指に力が入っていたらしく、指は少し痛いしシャーペンの柔らかグリップも歪な形をしていた。
談話スペースはどうやら飲食OKらしい。俺は図書館に来る前に自動販売機で買ったお茶を一気に飲んだ。
ぬるくなっても麦茶は美味しいが、結露でペットボトルが水だらけになっており少し気分が悪くなった。
「私、クッキー焼いてきたの」
不意に、本条はそう言って蓋のついたプラスチック製のパックを取り出した。
「……」
俺は急な出来事に驚いて、反応ができなかった。
「た、食べる?」
反応できなかった俺を見て少し自信を失ったのか、本条が首をかしげながらそう言った。
「も、もちろん食べるよ!ありがとう」
クッキーの見た目は綺麗なきつね色の中に黒いものが点在していた。チョコチップだろうか、何はともあれパックの蓋を開けた瞬間、甘い良い匂いが香ってきた。
勉強をしていたから脳が甘いものを欲していて、唾がどんどん出てくる。
「じゃあ早速、いただきます」
俺はクッキーを1つ、手で掴み口に入れた。
口に入れた瞬間、甘い匂いが鼻腔をくすぐりひとつ噛むとパリッといい音が鳴る。さらにチョコチップが口内の体温で溶け、チョコの甘みと合わさる。
正直、俺は甘いものがあまり得意ではなかった。だから不安だったのだが、どうやら疲れのおかげで苦なく食べれそうだ。
甘みがじんわりと染みていくのが分かる。これならすぐに疲れがなくなりそうだ。
「うまい!」
クッキーを1つ食べ終わった後、俺は本条の方を見てそう言った。
本条の強ばっていた顔に安堵の表情が見て取れた。
「よかったぁ……自分で食べてみて問題ないってわかっていても、いざ人に食べてもらうとなると不安で……」
ふぅ、と本条は1つ息を吐いた。
「本当に美味しいよ、ありがとう。俺もなんか持ってくればよかったな……」
そういう所、気が利かないんだろうなと思った。
「ううん、私が勝手に持ってきただけだから大丈夫だよ。遠慮しないでどんどん食べていいからね」
本条に勧められるがままに俺はクッキーを食べ始めた。
クッキーを食べながら俺は、本条は料理が上手であることを知れて少し嬉しい気持ちを感じていた。
本条のことをまた一つ、知ることができたからだ。
まだまだ本条のことで知らないことはたくさんある。基本中の基本である、好きな食べ物と嫌いな食べ物すら知らないのだ。
だからこうやって、ゆっくりでもいいから一つずつ知っていくこときっと意味があるのだ。
多分、それがまた、俺自身の本音へと繋がっていく気がするから。




