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建前男子と本音女子  作者: とりけら
高校1年生編
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祭り 後編 ⑥


「私たちも帰ろ」


 ぼーっと本条を見ていた俺は、琴葉の声によって我に返った。


「そうだな」


 そう言って、たちは再び歩き始めた。




「なぁ」


 しばらくしてから、俺は口を開いた。


「ん?」


 琴葉はこちらを向き、首を傾げている。

 俺は前を向きながら、続ける。


「聞いてもいいか?」


「いいよ」


「なんでまた手を繋いでいるんだ?」


 そう言って俺は、俺の右手を見た。

 そこにはしっかりと、琴葉の左手に握らている俺の右手があった。


「だって私たち、付き合ってるんだもん」


 当然かのように琴葉はそう言った。


「そういうものなのか?」


 付き合う、というものは初めてだ。

 だから、何もかもが俺にとっては分からないことで、いちいち聞くのも野暮かと思ったがつい確認してしまう。


「そういうものなの」


 案外、琴葉にあっさり返されてしまった。

 だから俺も、


「そっか」


 あっさり返す他なかった。


「うん」


 なんだか、本当にあっさりしていると思った。

 正直、俺はずっとドキドキしていた。

 女の子と、こんなに長い時間手を繋いだのは初めてだったからだ。その相手が幼馴染であったとしても、やはり緊張はする。


 琴葉の手がこんなに小さかったとは知らなかったし、じんわりと伝わってくる体温が余計に緊張させる。琴葉はドキドキしていないんだろうか。

 琴葉の様子はいつも通りで変わっていない。ここで俺が取り乱してしまったら、琴葉に絶対笑われてしまう。

 だから俺も、平常心を保つしかなかった。


「なぁ」


「今度は何?」


 ……何か話していないと平常心を保てない気がして、俺は琴葉に話しかけた。


「本条、大丈夫だと思うか」


 そう言ってから、お祭りの話題にすればよかったと後悔した。暗い雰囲気になってしまうのは目に見えていたからだ。

 その質問が咄嗟に出てきてしまうほど、俺は本条のことを心配していたのだろうか。


「んー……わからないよ」


 琴葉の返答は、またもあっさりしていた。


「分からないってお前……」


 流石にそれは無いだろ、と呆れていると琴葉は少しだけ強い口調で、


「ねぇ」


と言う。


「どうした?」


 咄嗟に、俺は琴葉の方を向く。

 琴葉と目が合って、少しだけ心臓の鼓動が早くなるのがわかった。


「今、ふたりきりなんだよ?」


 なおも少し強い口調で琴葉は言っている。


「あ、ああ」


 当たり前ことを言われて少し不思議に思った。

 琴葉は続けて、


「ふたりきりなのに、付き合い始めたばかりなのに」


 だんだんと口調が強くなっていく。

 俺の右手を握っている琴葉の左手の力が強くなっている気がする。


「どうした?」


 俺は少し心配になり、なだめようとする。

 しかし、握っている力は弱くなり、口調も優しく、


「他の女の子の話をするのは、妬けちゃうな」


 寂しそうな笑顔でそう言った。


「ご、ごめん」


 謝りながら俺は、あぁそういうことかと納得した。

 確かに今はふたりきりなんだ。ふたりきりのときにしか出来ない話をすべきだったのだ。


「あはは、冗談だよ」


 琴葉は笑いながら言うが、


「そ、そうか」


 俺はそう答えながら、なんだかおちょくられている気がする、と思った。




 雑談をしていると、あっという間に家に着いた。楽しい時間はすぐに終わってしまうというのはこのことだろう。

 俺は琴葉の方を向き、別れを挨拶をしようとすると、琴葉が先に口を開いた。


「ねぇ、今日電話していい?」


 どこか控えめな声で琴葉は言った。

 琴葉らしくない、少し元気の無い声だ。


「どうしたんだ、急に」


 家が隣同士なのだからいつでも話せる。何か用件があるなら電話じゃなくて今話せばいいし、メッセージでもいい。

 電話をする意味がよく分からず、俺は理由を聞いた。


「本当は、」


 俯きながら琴葉は言う。


「本当はこのまま、ずっと一緒にいたいんだけどさ」


 琴葉には失礼だが、琴葉らしくない言葉だった。家が隣同士と言っても、触れ合っていないのだから距離は遠く感じてしまう。

 繋いでいた手を離すのを、躊躇っていたのもそのせいだろう。


「それは、出来ないからさ……」


 そう言って琴葉は顔を上げ、少し潤んだ瞳で俺を見ている。

 正直、電話を断る理由がなかった。だから俺は、


「わかった」


 と、一言で了承すると、


「やったー」


 と、さっきのシリアスな空気はどこへ行ったのかと思うほど元気な声で琴葉はそう言った。

 ……逆にこっちの方が琴葉らしくて俺としてはありがたいんだが。


「窓開けたらすぐ会話出来るけどな」


「それでもいいけど、近所迷惑になっちゃうでしょ」


「まぁ確かに」


 今は少し小声で話しているから大丈夫だが、普通の声で話すと夜は特に響いてしまうのだ。


「それに電話の方が付き合ってるっぽいじゃん」


「そういうものなのか」


「そういうものなの」


 そう言って、琴葉は嬉しそうな顔で笑っていた。

 そんな顔されるとこちらまで少し嬉しくなってしまう。


「じゃあ、また」


「うん、またね」


 琴葉の返答を聞き、家に帰ろうとした瞬間、俺のシャツが引っ張られた。


「どうした?」


 そう言って俺は再び琴葉の方を向く。

 すると琴葉は俯いたまま、


「やっぱり、寂しいなって」


 そう言った。

 先程の笑顔は無理をしていたのだろうかと思えるほどの落差だった。


「またすぐ話せるだろ」


「そうなんだけどさ……」


 うーん……と少し俺は考えてから、

  

「明日、どこか行くか」


 と言った。

 やはり、直接会うしかないだろと思ったのだ。


「……! うん! 行く!」


 それを聞いた琴葉は、俯いていた顔をさっと上げ、満面の笑みで賛成の意を示した。


「じゃあ今度こそ、また後でな」


 電話をする約束を既にしているのだ、明日の予定を決めるのはその時でいいだろう。


「うん! また後で!」


 さっきとはうって変わって、右手を大きく振りながら笑顔で琴葉は家に帰っていった。


「あ、ぬいぐるみ!」


 俺は左手に持っていたこんなに大きいものをすっかり忘れていた。


「ごめん忘れてた」


 そう言って琴葉はぬいぐるみを受け取り、今度こそお別れとなった。

 



 これでいいのだろうか。

 普通に恥ずかしくなって、照れて。これを続けていけば、琴葉のことを好きになれるだろうか。

 答えは分からない。これから先、どうなるかなんてわからない。

 だから俺は考え続けなければいけない。


 最善の選択をするためにも。琴葉を悲しませないためにも。

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