祭り 後編 ⑤
……気まずい。
正直、かなり気まずい。
左から本条、俺、琴葉の順で並んで歩いており、どこか空気が重たいからなにか会話をしようと思ってはいるのだが、なかなか出来ずにいた。
本条はさっきから一言も話さず、ただ真っ直ぐ歩いている。暗いからよく見えないが、多分ずっと下を向いたままで歩いていると思う。
琴葉はと言うと、特に変わった様子もなく歩いている。……見たところ変わった様子がないだけだが。
でも、さっきから俺の右手が何かに握られている。もちろん、俺の右側にいる琴葉の手だ。
駅で武史と淳を見送ってから少し歩いたあたりで、急に琴葉が俺の手を握ってきた。
俺はびっくりしてすぐに振りほどこうとしたが、振りほどかなければいけない理由がないし、逆に振りほどこうとしたら怒られる気がして受け入れている。
どうしたんだ、と琴葉に聞こうと思ったが隣に本条がいるからなかなか話しづらいのだ。そもそも、琴葉に聞いても繋いで当然とか言われそうだ。だって付き合っているのだから。
だからまぁ、そのまんまでいる。
暗いし、角度的に本条には見えないだろうし。……別に隠すつもりはないのだ。どうせいつかバレるのだから。でもまぁ、恥ずかしい。
初めてのことだから、いまいち勝手がわからない。
ただ分かるのは、誰かに話そうとすると心臓の鼓動が早くなることだ。なぜだか無性に恥ずかしくなる。たとえそれが、〝嘘〟だったとしても。
惚気話は置いといて、今はこの状況をどうするかだ。やはり俺が、何か話しを切り出すしかないだろう。
俺は覚悟を決め、口を開いた。
「祭り、楽しかったな」
「楽しかったね」
俺の問いかけに対して、琴葉はすぐに返答をくれた。とりあえず、反応があったことに対して俺は安堵した。
しかし、
「そう……だね……」
と、小さい声で本条が答えた。
さっきから本当にずっとこの調子だ。このまま適当な雑談をしても、本条の返答は変わらないだろう。
埒が明かないから、俺は意を決して本条に事の本題を聞くことにした。
「本条、どうしたんだ? さっきから様子がおかしいけど」
「ううん、なんでもないから。大丈夫」
と、すぐに本条はそう言った。
暗くてよく見えなかったが、本条は俺の方をちゃんと見ながら言っていた。
その顔はどこか寂しそうな、今にも泣いてしまいそうな顔だった。
「そっか……」
その顔を見て俺はこれ以上深く聞いてはいけないと悟った。ただ、確実に何かがあったとわかった。
なにか話そうと考えていると、本条が、
「じゃあ私、こっちだから」
と、言った。
気づいたら、もう分かれ道に着いていた。
「あ、ああ。またな」
歩いていた時間があっという間だったから俺は少し驚いてしまい、返答に動揺の色が出てしまう。
「花凛、またね」
琴葉はそう言って右手を振っている。
知らぬ間に俺の右手は解放されていた。
「またね」
そう、本条はまた小さい声で右手を少しだけ振りながら言う。
そして本条は闇に吸い込まれているかのように、暗い住宅街へと消えていった。
俺はその姿をただじっと見つめていた。
何も出来なかったと後悔している訳では無い。
1人になりたい時の気持ちを俺も知っているから、似たようなものを本条から感じていたのだ。




