昼休み
昼休みになった。
この学校は給食がない。だから生徒達は自宅から弁当を持ってくるか、スーパーかコンビニで昼飯を買うか、学校の購買で買うかの選択を迫られる。
ちなみに学校の購買はちゃんとした弁当を売っているわけではなく、惣菜パンがほとんどだ。
俺はリュックから親が作ってくれた弁当を取り出すと、Aグループの奴らがいる元へ向かおうとする。
基本的に、Aグループのリーダー的存在である進藤武史がいる場所に集まる。武史は、見た目は爽やかなイケメンで人柄が良く、完璧超人と言ってもいい人だ。こいつがカーストトップ中にトップと言っても過言ではない。
そんな俺が武史と知り合えたのは、名簿順で武史が俺の後ろだったからだ。もちろん、俺から話しかけたのではなく、武史から話しかけてきたけれど。まぁ、後ろの席でなくてもすぐに知り合いになっていただろう。
弁当を持って席を立つと、また隣の席の変な人から話しかけられた。
「ちょっと待ちなさいよ」
本条の顔は特に怒っているというわけではなかった。純粋に、諦めない性格なのだろう。
「なんだよ」
俺は真顔で返事をする。
「話は終わってないわ」
「なんの話だ?」
「好きな授業の話よ」
「国語って言ったろ?」
「嘘ついてる顔してたじゃない」
「それは嘘ついてる顔じゃなくて、めんどくさいと思っている顔だ」
「どっちも同じよ。さ、まだまだ質問あるから席に座りなさい。まずはあなたのことを知るのが大事なの」
本条の視線は変わらず真っ直ぐ俺の目を見ている。その視線から、彼女の信念みたいなものがひしひしと感じられた。
しかしそんなことは気にもせず、俺は適当な返答をしている。
「メシの時ぐらい、休憩してもいいんじゃないか?」
「休憩する時間はないわ」
「なんでだよ」
「言ったでしょ、私は嘘が嫌いなの。嘘は無くさなきゃいけないの」
「嘘が嫌いなら、俺に関わらなければいいんじゃないか?」
「もう関わってしまったもの、見過ごせないわ」
ハキハキと喋る声は、さほど大きな声ではなかった。まぁ、周りの喋り声が大きいだけかもしれないが。
彼女の視線からも、声からも伝わってくる"本音"は俺を酷く苛立たせた。もういい加減めんどくさかったのだ。
向こうが折れる気がないなら、こっちから仕掛ける……ではなく折れるしかない。
「わかったから。10分休みは付き合うから、昼休みだけは勘弁してくれ。友達と楽しく飯を食わせてくれ」
「……嘘をついている訳では無いようね。わかったわ、そこまで言うなら昼休みは見逃してあげる」
「それじゃあな」
「10分休み付き合うってこと、忘れないように」
「ああ」
やっと解放された俺は、武史の元へと向かった。しかし、この約束が仇となった。
1週間、土日休みになるまでの全ての10分休みは地獄質問攻めだったのだ。本条から一方的に話しかけられ、俺が適当に返す虚無の時間。
金曜日の夜、ベットに寝転がりながら俺は考える。
(月曜になってまだ続くようなら、ハッキリとやめてくれって言おう……)
そして月曜日、事件は起こった。