祭り 後編 ③ side:本条花凛
はぁ、と深くため息をつく。
その時、近くからガサッと音がした。
「誰かいるの!?」
私は音のする方へ叫んだ。
するとそこにはーーー
「わっ! ……って田中くんか……」
私の目の前に現れたのは、長細いカップに入ったかき氷を2つ手にしている田中くんだった。
青いシロップがかかっているものと、黄色いシロップがかかっているもの。ブルーハワイ味とレモン味のかき氷だろう。
「本条さんはこんな所で何してるの?」
そう聞かれるだろうと分かってはいたが、明確な答えを用意できておらず、
「えっ……、あー……、ちょ、ちょっとね」
あはは……と言わんばかりの苦し紛れの返答になってしまった。
「もしかして、武史と喧嘩でもした?」
意外と田中くんは察しがいいのかもしれない、と思ってしまった。急にそんなことを聞かれたのでは私は、
「全然っ! そんなんじゃないから!」
と、焦って少し大きな声を出してしまった。
間違ったことは言っていない。ちょっと困ったことになっただけだ、うん。
「ならいいんだけど……というか本条さん、もう花火始まってるよ? 早く戻ろうぜ」
「そ、そうだね!」
田中くんはそれ以上、深く追求はしなかった。
正直、ありがたかった。
田中くんとあまり話したことがないから彼のことを知らないし、いつもふざけている人なのかと思っていたのに、今の彼は全然雰囲気が違うから。彼にも何か、隠していることがあるのだろうか。
それに私自身、ようやく落ち着いてきたから掘り返したくなかったし。
「はいこれ」
そう言って田中くんはレモン味のかき氷を渡してきた。
「あ、ありがとう」
かき氷は少しだけ溶けていた。スプーンストローで少しすくい口に含むと、レモンの甘酸っぱさとかき氷の冷たさが口の中に広がる。
甘酸っぱい出来事の後の冷たさ。
まるで、さっきの告白のことみたいだと思った。
しばらく私たちはお互い何も話さず、山を降り、屋台通りに帰ってきた。
レジャーシートまで後少しという所で、田中くんが口を開いた。
「武史は……」
「ん?」
田中くんには似合わない、小さな声だったから私は聞き直してしまった。
「武史はさ、悪いやつじゃないから」
「えっ?」
何を言っているのか分からなかった。
もしかして、あの時のことを見られていたのだろうか。様々な憶測が飛び交う中、田中くんが続けて言う。
「ごめん。走って森の方に向かう本条さんを見た時、涙を流しているのが見えて……」
「……そっか」
そっか。私、涙を流していたんだ。自分でも気づかないうちに泣いていたらしい。
そんな姿を見られていたなんて……。だんだん顔が熱くなってくるのがわかる。
「詳しいことは聞かないけどさ、武史は悪いやつじゃないんだよ。それだけは本条さんにわかっていて欲しい」
田中くんには失礼かもしれないけど、田中くんらしくない言葉だった。
私は少し、田中くんのことを見直した。
「うん……」
わかってる、悪い人じゃないってことは。そうだと、信じたい。信じたいんだけど。
嘘を、ついたから。嘘をついてほしくないタイミングで。
どうしても、私の中にも許せないものがある。
会話を終えて、少し歩くとレジャーシートに座っている進藤くんの姿が見えた。
「武史」
田中くんが進藤くんを呼ぶ。
「おー、淳か。おかえり。かき氷ありがとな」
そう言って進藤君はブルーハワイ味のかき氷を受け取る。
「……」
私は無言で自分の席に座った。
進藤くんとの間に流れる気まずい雰囲気は、無くなりそうにない。
私たちが戻ってから2分後くらいに、斉藤くんと綾瀬さんも戻ってきた。
「ごめん遅くなって……。凄く並んでてさ」
そうしてようやく、全員で花火を見ることが出来た。
祭りに来る前は楽しい夏に、いい思い出になると思っていた。
しかし、全部が全部、いい思い出になる訳もなく。
楽しいと思っていた気持ちは消え、もやもやした気持ちが私の全てを支配していた。




