表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
建前男子と本音女子  作者: とりけら
高校1年生編
59/168

祭り 後編 ③ side:本条花凛


 はぁ、と深くため息をつく。

 その時、近くからガサッと音がした。


「誰かいるの!?」


 私は音のする方へ叫んだ。

 するとそこにはーーー


「わっ! ……って田中くんか……」


 私の目の前に現れたのは、長細いカップに入ったかき氷を2つ手にしている田中くんだった。

 青いシロップがかかっているものと、黄色いシロップがかかっているもの。ブルーハワイ味とレモン味のかき氷だろう。


「本条さんはこんな所で何してるの?」


 そう聞かれるだろうと分かってはいたが、明確な答えを用意できておらず、


「えっ……、あー……、ちょ、ちょっとね」


 あはは……と言わんばかりの苦し紛れの返答になってしまった。


「もしかして、武史と喧嘩でもした?」


 意外と田中くんは察しがいいのかもしれない、と思ってしまった。急にそんなことを聞かれたのでは私は、


「全然っ! そんなんじゃないから!」


 と、焦って少し大きな声を出してしまった。

 間違ったことは言っていない。ちょっと困ったことになっただけだ、うん。


「ならいいんだけど……というか本条さん、もう花火始まってるよ? 早く戻ろうぜ」


「そ、そうだね!」


 田中くんはそれ以上、深く追求はしなかった。

 正直、ありがたかった。

 田中くんとあまり話したことがないから彼のことを知らないし、いつもふざけている人なのかと思っていたのに、今の彼は全然雰囲気が違うから。彼にも何か、隠していることがあるのだろうか。

 それに私自身、ようやく落ち着いてきたから掘り返したくなかったし。


「はいこれ」


 そう言って田中くんはレモン味のかき氷を渡してきた。


「あ、ありがとう」


 かき氷は少しだけ溶けていた。スプーンストローで少しすくい口に含むと、レモンの甘酸っぱさとかき氷の冷たさが口の中に広がる。

 甘酸っぱい出来事の後の冷たさ。

 まるで、さっきの告白のことみたいだと思った。


 しばらく私たちはお互い何も話さず、山を降り、屋台通りに帰ってきた。

 レジャーシートまで後少しという所で、田中くんが口を開いた。


「武史は……」


「ん?」


 田中くんには似合わない、小さな声だったから私は聞き直してしまった。

 

「武史はさ、悪いやつじゃないから」


「えっ?」


 何を言っているのか分からなかった。

 もしかして、あの時のことを見られていたのだろうか。様々な憶測が飛び交う中、田中くんが続けて言う。


「ごめん。走って森の方に向かう本条さんを見た時、涙を流しているのが見えて……」


「……そっか」


 そっか。私、涙を流していたんだ。自分でも気づかないうちに泣いていたらしい。

 そんな姿を見られていたなんて……。だんだん顔が熱くなってくるのがわかる。


「詳しいことは聞かないけどさ、武史は悪いやつじゃないんだよ。それだけは本条さんにわかっていて欲しい」


 田中くんには失礼かもしれないけど、田中くんらしくない言葉だった。

 私は少し、田中くんのことを見直した。


「うん……」


 わかってる、悪い人じゃないってことは。そうだと、信じたい。信じたいんだけど。

 嘘を、ついたから。嘘をついてほしくないタイミングで。

 どうしても、私の中にも許せないものがある。


 会話を終えて、少し歩くとレジャーシートに座っている進藤くんの姿が見えた。


「武史」


 田中くんが進藤くんを呼ぶ。


「おー、淳か。おかえり。かき氷ありがとな」


 そう言って進藤君はブルーハワイ味のかき氷を受け取る。


「……」


 私は無言で自分の席に座った。

 進藤くんとの間に流れる気まずい雰囲気は、無くなりそうにない。


 私たちが戻ってから2分後くらいに、斉藤くんと綾瀬さんも戻ってきた。


「ごめん遅くなって……。凄く並んでてさ」


 そうしてようやく、全員で花火を見ることが出来た。


 祭りに来る前は楽しい夏に、いい思い出になると思っていた。

 しかし、全部が全部、いい思い出になる訳もなく。

 楽しいと思っていた気持ちは消え、もやもやした気持ちが私の全てを支配していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ