祭り 後編 ② side:綾瀬琴葉
「ありがとうっ」
私がそう言った後、しばらく沈黙が続くと思われた。
しかし、そうはならなかった。
「はははっ」
けんちゃんが笑い始めたのだ。
一瞬、私が変なことをしたのか変なことを言ったのか不安になったが、気づいたら私もつられて笑っていた。
けんちゃんが笑うのも無理はない。だってさっきまで私たちの間には固くて苦しい緊張した空気が支配していたのだ。
私たちには似合わない、緊張した空気。それが一気に解れたのだ。
笑ってしまう気持ちはなんとなく分かる。
しばらく私たちは笑っていた。先程まで、時間を気にしていたのにも関わらず。笑い合いながら私は実感した。
やっぱりけんちゃんと笑っていられる時間が、一番好きだなぁって。
ただけんちゃんの隣にいるのも好きだ。でもそれ以上に、一緒に楽しく話して笑い合うのが好きだ。
……結局、けんちゃんと一緒ならなんでも楽しいし好きってだけな気がするけれど。
幸せな時間はいつまでも続かない。
もうずっと一緒にいたいと思っても、それは無理だ。皆の元へ帰らなければいけない。
それでも悲しさは、少ししか感じていなかった。
私たちにはこれからがあるから。楽しい時間はこれから一緒に作っていけばいいのだ。
急ぐ必要はない。まだ始まったばかり。
「はぁー笑い疲れた」
お腹が痛い。
「本当に疲れた……」
けんちゃんも脇腹を抑えている。
「けんちゃん笑いすぎだよ」
「琴葉こそ、たくさん笑ってたじゃないか」
「だってなんかよくわからないけど、可笑しかったんだもん」
「なんかよくわからないってとこ、俺もそう思ってた」
「だよね」
お互い顔を合わせ、小さく笑って。
そして少し真面目な顔になって私は口を開いた。
「これからよろしくね」
「あぁ……こちらこそよろしく」
前に突き出されたけんちゃんの手を、私は優しく握った。
照れくさいけれど、どこかはっきりと、繋がったと感じる握手だった。
「そろそろ行こっか」
「そうだな、さすがに心配させてるかもしれないし」
私たちは少し早足で戻った。
山を降りる最中、何度もさっきのは夢だったのではないかと思ってしまったが、その度にけんちゃんと繋がれた手を見て夢じゃないと確信していた。
握手の時、1度は手を離したが、暗くて前が見えにくいということで、私の右手はけんちゃんの左手と繋がっている。
けんちゃんの手は暑いせいか少し汗ばんでいたが、全然気にならない。むしろ私の手汗が不安だ。
小さな幸せを感じながら、私たちは武史たちのところへ戻った。
「ごめん遅くなって……、凄く並んでてさ」
息を切らせながら、私は言う。
「もう始まってるぞー」
淳がこっちこっちと手招きしながら言った。
武史は笑いながら、私の方を見ている。私は小さくウインクをして、成功したことを伝えた。
そんな中、私が気になったのは花凛の様子だ。
「花凛、どうかしたの?」
「……ううん、全然大丈夫だから」
やはり反応が少しおかしい。
何かあったのだろうか、気になったが花火中に話すのはやぶさかだと思い、私たちはレジャーシートに腰を下ろした。




