祭り 後編 ① side:綾瀬琴葉
「はい……こちらこそ、お願いします」
けんちゃんがそう言った。
その答えを聞いて、私は何も言えなかった。驚いた訳では無い。
正直、絶対に断られるだろうとは思っていなかったし、絶対にOKが貰えるとも思っていなかったから。
絶対に断られない理由としては、中学生の頃にお互いの関係が疎遠になったが、それでも一言二言の会話は存在していたからだ。
お互い、別の友達と遊んだり話をしていたりしても、帰る方向は同じだから嫌でも顔を合わせてしまう。
そんな時、周りの、同級生の目が気になっていたが、確かに会話が存在していた。
お互い、本当は仲良くしていたかったはずだ。だって、そうしていたのが普通だったから。
積み上げてきた関係が崩れるのは一瞬だ。それが、自分たちの意思で崩したのならしょうがないことだろう。けれど、私たちの場合は、他人に崩されたのだ。
だからこそ、時間が経つにつれて、噂が無くなってからはちゃんと私たちの仲は戻っていた。
戻っていったと言っても、一緒に遊ぶことは前よりも少なくなったし会話もちょっとだけだったけれど、幼馴染としての仲を維持していた。
だから、これだけははっきり分かるのだ。
けんちゃんは私のことを嫌いじゃないって。むしろ、好感度は高いだろうって。
じゃあ逆に絶対にOKが貰えると思えない理由は、本当に幼馴染としてしか私のことを見ていないと分かるからだ。
他の女の子と話す時の態度と、私と話す時の態度が全然違う。他の女の子と話す時は少し恥ずかしそうだったり照れたりしてるのに、私と話す時は普通なのだ。
……いや、普通が悪いって訳では無い。でも少しくらい、私のアピールで照れてくれたっていいではないか。アピールの内容は詳しく言えないけど。
けんちゃんは私のことを女の子として、ではなく幼馴染として見ている。
だから私への好意は、きっとloveじゃなくてlikeだろう。
私が知らないだけで、けんちゃんにはもう好きな人がいるかもしれないし。……念入りに調べたから多分そんな人けんちゃんにはいないと思うけど。
そんなわけで私の中にも不安があった。それでも、諦めるわけにはいかないのだ。
私自身が後悔しないために。
私がけんちゃんの返答に対して何も言えなかった理由。それは照れてしまったからだ。
OKを貰えた、これからけんちゃんと付き合えるんだ、そんな事実をひとつひとつ確認していたら嬉しさともどかしさと期待と妄想が溢れてしまったのだ。
本当に嬉しいと思った時、何も声が出ないとはこのことだろうか。
何か言わなければ。そろそろ戻らないと武史たちを心配させてしまうだろうから、時間もあんまりない。
何も考えず、咄嗟にでてきた言葉は、
「ありがとうっ」
だった。
私は少し大きな声でそう言った。その声は嬉しさに満ち溢れていると私でもわかる。
そして、私の表情は自然と笑顔になっていた。けんちゃんに見せる、初めての彼女としての笑顔だ。きっと誰にも見せたのことがない笑顔だっただろう。
これが、私の幸せな生活が始まるスタートライン。
私たちの恋人関係が始まった瞬間だった。




