祭り 中編 ⑧
「話があるの」
琴葉はそう言って、両手を置いていた展望台の安全柵から手を離し、俺から少し距離をとる。
俺も景色を見るのをやめ、琴葉の方を見る。
俺たちの近すぎる距離感が生んでいた緊張感が、ゆっくりと解けていくのがわかる。
しかし、琴葉から感じるいつもと違う雰囲気のせいで俺は緊張し続けていた。
「話って、なんだ?」
重たい口をようやく開き、普段よりも少し小さくなった声で俺は言う。
琴葉はゆっくりと、展望台の広場を歩いている。
展望台は大人数用ベンチが4つあり、ちょっとした広場もある。展望台というよりは、公園と言ってもいいかもしれない。
「けんちゃんは、ここ覚えてる?」
琴葉は、ゆっくり空を見ながら歩いている。本当に綺麗な星空だ。
「あぁ、覚えてる」
いや、正確には今思い出した、だ。
言葉は違えど、覚えていたことに変わりがないから俺は言い直さなかった。
「そっか、よかった」
ぎりぎり聞こえるくらいの小さな声で、琴葉はそう言った。
琴葉は続けて喋り始める。
「中学校のとき、けんちゃんがこの展望台に来なくなったのは私のせいだったからさ……」
琴葉のせい……?
曖昧な記憶を遡るが思い出せない。
「覚えてない? 私たちの噂のこと。まぁ、でもしょうがなかったよね。みんな思春期だったし、私たち仲良かったしさ」
なんとなく、思い出し始める。
そうだ、中学生になってすぐ俺たちは付き合ってるとか言われてた気がする。俺は、そう言われるのが嫌で琴葉のことを避けていた。学校内ではもちろん、いつ同級生と会うかわからない外でも。
「覚え、てるよ。俺が、琴葉のことを避けていたって話だろ? あれは別に、琴葉だけのせいじゃない、だろ」
でも、それは過去の話だ。
高校生になって、みんな大人になって。そういういじりもなくなったから、俺たちは今こうしてまた一緒にいる。
けれど、それで解決した気になっていたのは俺だけかもしれないと、思った。だから琴葉は今、この話をしたのだろうか? 俺は琴葉の方をちらりと見るが、暗くて琴葉の表情は分からない。
そもそも、琴葉は俺の方を見ていない。ずっと上を向いたままだ。
だから俺は琴葉が今どんな顔をしているのか分からないし、暗くて琴葉の存在を認識するだけで精一杯だ。
「話って、それだけか?」
それだけじゃないということは、さすがに察しができる。
昔の思い出話なら明るい雰囲気の中、お互いに笑いながらすればいい。暗い中で、ましてや祭りという特別な日に話すことではない。
この緊張した空気で、思い出話だけなわけがない。
「ううん。ここからが、本題だよ」
そう言って琴葉は、俺の方に近づいてくる。
また縮まる俺たちの距離感のせいで、緊張感が高まる。
琴葉が再び、安全柵に手を置いた。
そして、街の景色を背に、琴葉は俺の方を向く。やはり暗くて、いまいち琴葉の表情がわからない。
「けんちゃん」
小さいけれど、確かに聞こえる声で琴葉は俺の名前を言った。
「どうした?」
俺も琴葉の声の大きさに合わせて言う。
「あのね」
「ああ」
その時、琴葉の背中から一筋の光が伸びてくる。
その光は音を発しながら真っ直ぐ天に伸びていき、やがて大きな花を咲かせる。大きな花は、まるで太陽かのように辺りを照らした。
一瞬だったが、確かに辺りを照らしたその光のおかげで、琴葉の表情を見るのには十分だった。琴葉の顔は少し赤くなっていて。そして俺の方を真っ直ぐ見ていて。
ドーンと、大きな音が鳴った後に琴葉は口を開いた。
空に咲いた一輪の花がスタートの合図だったのか、その後たくさんの花が琴葉の後ろに咲き始めている。
「けんちゃんのことが」
たくさんの花は僅かな光しか発していないが、それでも琴葉の表情を見ることが出来るほどの光だった。
琴葉は一瞬、下を向いた後、俺の方を見直して。
満面の笑みで、言ったのだ。
「好き」
投稿が遅れて申し訳ないです




