祭り 中編 ②
トイレは案の定、かなり並んでいた。
このまま並んでいたら、花火が打ち上がる時間になるどころかいつ戻れるかわからない。
「琴葉、どうする?」
俺は琴葉に質問する。
トイレに行きたいと言ったのは琴葉だ。どうしても、というなら並ぶしかない。
「んー……ちょっとこっち来て」
と、俺は琴葉に急に手を捕まれ、そのまま引っ張られた。
「お、おい」
急な出来事にびっくりして変な声が出てしまった。
俺の知らない場所に、トイレがあるのだろうか。とりあえず、琴葉に手を引かれたまま着いていくことにした。
しばらく森の中を歩いた。
もう、お祭りの賑やかな音が遠くに感じるくらいだ。
「おい琴葉、どこまで行く気だ」
「もうちょっとだからー」
本当に森の中だ。真っ暗だし、いろんな虫の鳴き声が聞こえてくる。
一応、俺たちが今歩いている道は舗装されていた。歩きにくくはないが、少しでこぼこしているから不安がある。
けれどそんな不安の中で、今いる場所がどこか来たことがあるような既視感を感じていた。
「そろそろだよ」
琴葉はそう言う。
目的地に着くのだろうか。少しドキドキしながら俺はついて行く。
「着いたー」
琴葉はようやく俺の手を離した。
俺の目の前には、ちょっとした野原が広がっている。さほど大きくない、小さい公園程度の大きさだ。
ゆっくり歩いてみると、ここが展望台だということがわかった。俺の住んでいる町が一望出来る。
眼下は川だから真っ暗で、だんだん視線を上げていくて明かりが増えてくる。
眩しいという訳では無い。
田舎の住宅街の明かり、と言えばいいだろうか。人がいるとわかる、暖かい光だ。
さらに、視線を上にあげると星空が広がっていた。
この展望台は明かりが一つもなく、真っ暗だ。だから星が本当によく見える。
学校で習った、夏の大三角形をすぐに見つけられた。
「綺麗だ」
俺は自然と口にしていた。
「そうでしょ」
気づかない間に、琴葉は俺の右隣に立っていた。
琴葉は町の夜景を見ている。本当に綺麗なのだが、俺はどこか疑問に感じていた。
俺はこの景色を見たことがある。そう、やっぱり既視感だ。
何故? いつ? 考えていると、琴葉が口を開いた。
「ねえ、覚えてる?」
「……」
何の事だか、俺には分からない。
だから俺は何も言えない。
「小学生の頃、ここに来たこと」
「……」
小学生の頃……
曖昧な記憶がだんだんと鮮明になっていく。
「私ね、この場所好きなんだ。たまに一人で来ちゃうくらい」
「そう、なのか」
そうだ。思い出した。確かに俺はここに来た。
確か「天地展望台」だった気がする。昔は天地展望台と、間違って読んでいた。
琴葉が、秘密の場所を見つけたって言って探検した。綺麗だねって、2人で言った。また来ようねって言った。
「うん。でもね、けんちゃんと来たのは小学生のときだけだから。またけんちゃんと来たいなって思ってたの」
「なん」
で、を俺は飲み込んだ。
なんでと言おうとして俺は、琴葉の方を振り向いたのだ。それが間違いだった。
琴葉の顔がすぐそこにあったのだ。そしてその顔は、俺が見た事のないものだった。
上目遣いで、どこかとろんとしていて。あぁ可愛いなって自然と思っていた。
俺がその顔に見惚れていると、琴葉がゆっくり口を開く。
「ねえけんちゃん」
返事ができない。
「話があるの」




