祭り 前編 ③
全員が集合してから、すぐに屋台を回ることになった。これから時間が経つにつれて、どんどん混むからだ。
花火が打ち上がり始めるのは、21時から。20時30分くらいから、祭りに来た人達は花火を見るために予め確保しておいた場所に戻り始める。
そのため、20時30分までは大体、屋台がひしめくメイン通りは混んでいる。特に19時頃がピークだ。歩くのもやっとなほど混む。
だから俺たちは、早めに屋台を回ってから、淳が取ってくれた場所で談笑しながら買ったものを食べようと既に決めていた。
しかし、やっぱり祭りの屋台と言ったら食べ物系だけじゃなくて、射的、型抜き、金魚すくいと言った体験系だ。
俺たちは、先にある程度遊んでから食べ物類を買うことにした。
道は混んでいて狭いから、4人で並んで歩くことは出来ない。だから2人で並んで歩くことにした。
武史と本条、その後ろに俺と琴葉だ。本条の隣が武史で大丈夫なのかと少し心配したが、武史がどうしても、と小声で言われたのでそうなった。
しかし2人の様子を後ろから見ていて、全く心配はなさそうだと思えた。2人共、笑顔で楽しそうに話をしている。
会話の内容までは周りがうるさくて聞こえないが、無理に聞くのも野暮だろうと思い、そっとしておくことにした。
俺は、本条にまた新しい友達ができたという安心感をしみじみと感じていた。同時に何かモヤっとしたものを感じたが、母が子を送り出すのが嫌でも仕方がない、そういう感情だろうと思った。
俺は温かい目で前の2人を見守っていると、右腕をつんつんとつつかれる。
「どうした?」
俺は隣の琴葉の方を向く。なのに突いた本人である琴葉は、すぐに目を逸らした。
「あー、ううん。なんでもない」
一瞬見えた琴葉の顔は、何か言いたそうな顔だった。
「?」
なんでもないなら気にしない方がいいだろうと、俺は再び前の2人を温かい目で見守ろうとする。
だが、また右腕をつんつんを突かれる。
「なんなんだよ」
俺は琴葉の方を見るが、また目を逸らされてしまう。
「あー、まぁ……。やっぱりいいや」
おかしい。こんな琴葉見たことがない。
「さっきから様子、おかしいけどどうしたんだよ。熱でもあるのか」
そう言って、俺は右手を琴葉のおでこに当てる。あんまり熱くなかった。熱はなさそうだ。
「だ、大丈夫だから!」
琴葉は頭をブンブン振って、俺の手を退ける。
「そんなに慌てなくてもいいだろ」
こっちは心配してるのだ。慌てる必要なんてないはずだ。
「そ、それはあんたが!」
そう言いかけて琴葉は何かに気づいたのか、口を閉じた。なにかまずいことでも言ったような顔をしている。
俺がなんかしたのか……? 何も悪いことをしていないと思うが……。
「な、な、なんでもない」
だんだんと小さくなる琴葉の声。そのまま琴葉は俯いてしまった。
「まぁ、元気ならそれでいいんだけどさ」
言っていることが意味分からなくても、本人が元気なら大丈夫だろう。俺は考えるのをやめた。
何か声をかけるべきか悩んでいると、
「あ」
急に琴葉は俺の方を向き、何かに気づいたかのような顔をした。
「どうした?」
「私の格好」
「?」
「なんか言うことない?」
琴葉の格好について何か言うこと……? そんな質問、今まで1回も言われたことがないから驚いた。
とりあえず俺は、琴葉の姿を見て正直に答える。
「似合ってる」
「そんなの当たり前でしょ。それ以外は?」
「んー……」
似合ってる以外の褒め言葉……。俺は一生懸命考えたが、出てきた言葉はありきたりなものだった。
「可愛いと思う」
そう言うと琴葉はそっぽを向いて、
「……あ、ありがと」
と小さな声でお礼を言われた。そんな反応をされるとこっちまで恥ずかしくなる。
「ど、どういたしまして」
お互いの間にしばらく沈黙が続く。
冷静になってさっきの会話を思い出す。終始、意味がわからない。なんなのだろうか。
けれど、わかった事が1つだけある。なんだか琴葉らしくないってことだ。
今日の琴葉はいつもの、俺が知っている琴葉じゃなかった。




