祭り 前編 ②
「本条……」
俺の目の前に現れたのは、来るなんて聞いていない人物、本条だった。意外な人物の登場に俺の頭は混乱する。
なぜ? 誰かが呼んだのか? でも淳は知らなそうだし、なら1人で来たのか? 偶然?
分からない。考えてもわかることではない。
俺は深呼吸をして冷静になる。本題に入る前に、まずは挨拶だ。
「本条、久しぶり」
そう言いながら、俺は本条の姿を改めて見る。
本条の浴衣姿はとても似合っていると思った。長い髪は横に結っていて方から流している。サイドテールと言うやつだろうか。元から本条は大人っぽさを醸し出していたが、今の姿はさらに大人っぽさを感じる。
まぁ簡単に言えば本条を見て俺は自然と、綺麗、と思った。
「久しぶり。その反応ってことは詳しいことを聞いてないのね」
「あぁ、なんで本条がいるのか分からなくて。なんかごめん」
「そういうの、私には大丈夫だから」
久しぶりに建前のことを指摘され、少し驚いた。やはり本条に建前は効かない。
本条は、事の経緯を話し始めた。
「なるほどな……。武史のやつ、事前に連絡くらいくれればよかったのに」
「確かに。てっきり私は、もうみんな知ってるものだと思っていたわ」
「まぁとりあえず、他の奴らを待つか……」
「そうね」
時刻は既に、集合時間である18時を過ぎている。しかし、全然姿が見えない。
ちなみに淳はというと、いつの間にか消えていた。いつ消えたのかさえ分からない、予想するなら事の経緯を話していた時だろうか。
俺と本条。2人の間を沈黙が支配している。
せっかく久しぶりに会ったんだ、何か話をしたいと思い俺は話しかけた。
「なぁ本条」
「何?」
俺の問いに対して、俯いていた本条が顔を上げる。
「夏休みの宿題、やったか?」
「もう終わったけど」
「はやぁ……」
「遅すぎよ」
「いやそんなことないと思う。全然武史の方が遅い」
「人の事はいいの。早くやっちゃいなさい」
はぁ、とため息をつく。
「なぁ……宿題見せてくれたりは」
「しない」
「ですよね……」
俺は再びため息をつく。
本条は呆れてしまったのか、そっぽを向いてしまった。またしばらく沈黙が続きそうだと思った瞬間、本条がそっぽを向きながら口を開いた。
「午後13時」
「え?」
急に言われた時刻の意味をさっぱり理解できず、俺は首を傾げる。
「午後13時に、私はよく図書館にいる」
「?」
そっぽを向いていた本条が俺の方を向いた。首を傾げ続ける俺を本条は睨む。
「だから、午後13時に私はよく図書館にいるからってこと!」
そう言ってまた本条はそっぽを向いてしまった。
少し考えた後、俺は気がついた。
「もしかして、その時間に図書館に行けば本条が夏休みの宿題を教えてくれるってことか?」
「……暇だったらね」
本条はまだそっぽを向いたままだ。
「絶対行くわ」
「はぁ……。やっぱり教えない方が良かったかも」
そう言って本条は頭を抱える。
「そういうこと言うなよ、友達だろ?」
「こういう時に友達面されると少しむかつくわね」
本条にまた睨まれた。
「ごめんって」
「建前ね」
「本気だから!」
やはり本条相手は気が滅入る。しかし、不思議とどこか心地良さを感じていた。本条と話していると楽しいのだ。お互い、色々あって深く知り合えたからだろうか。
また別の話題を振ろうとした瞬間、声が聞こえてきた。
「けんちゃーん」
武史と琴葉の姿が見えた。
俺はこっちこっち、と手を振る。
「お待たせー、遅れちゃってごめんね」
時刻は18時10分を指している。
「あと女子2人は?」
お祭りも海に行ったメンバーで行く予定だった。しかし、一向に姿を見せず困っているのだ。
「あー、来れないってさ。ドタキャン」
武史の言葉を聞いて、俺はため息をつく。
「そういうのちゃんと連絡してくれよな……って思ったけど、そういえば携帯圏外だった……」
「どんまい、そういう時もあるって」
武史は心なしの慰めの言葉をかけてくれる。
「じゃあ、これで全員だな」
こうして俺たちのお祭りがようやく始まった。




