祭り 前編 ① side:本条花凛
本条花凛視点です
「お祭り、ね……」
祭り当日の朝、自室にて私は椅子に座りながら、手に持っている画面が黒いままのスマホをぼーっと見る。
祭りなんて、最後に誰かと一緒に行ったのはいつだっただろうか。
初対面の、しかも初めて話した男子に誘われた。なぜすぐ断らなかったのか、明らかにおかしいことなのに。
スマホの電源を付け、進藤くんとの連絡履歴を見る。そこには、
「18時、神社の鳥居前集合!」
と書いてある。それに対して私は、
「わかった」
と無愛想な返事をしている。
2人きりで行くわけではないことは、誘われたときに何人かで行くような口ぶりから分かったが、どれほどの人数で行くのかわからなかった。
そもそも、その何人かの中に綾瀬さんとか斉藤くんとかの知っている人がいるのかさえ知らない。聞こうと思ったのだが、タイミングを逃してしまった。友達慣れしてないのが露骨に出てしまっている。
本当に行くべきだろうかと頭を抱えるが、わかった、と返事をしてしまった以上行くしかないだろう。
別に行きたくないわけじゃないのだ。だって、一人で行く予定だったし。
ただ、一言二言話しただけの人と行くのが少し不安なだけ。
(浴衣とか、着た方がいいのかな)
一人で行くときはいつも私服なのだが、複数人で行く以上、服装は合わせるべきだろう。なんか進藤くんの雰囲気に浴衣を着てきそうだし。
というか、そもそも浴衣が家にあるのだろうか。
「お母さーん」
私は自室から出て、階段を下りながらお母さんを呼ぶ。
「どうしたの?」
キッチンの方から声が聞こえる。お昼ご飯を作っているのだろうか。
「あのさ、私でも着れる浴衣って、ある?」
リビングに入るために扉を開けると、クーラーの涼しい空気が一斉に私に飛びかかってくる。
心地よさを感じ、私は涼しい空気を逃がさないようにすぐにリビングに入って扉を閉めた。
「あら、花凛。お祭りに行くのに浴衣着ていきたいの?」
ご飯を作る手を止め、お母さんは私の方へ近づいてくる。
「まぁね。誘われちゃって」
そう言いながら、私は椅子に座る。
「もしかして、男の子?」
お母さんはにやにやした顔で、私の向かいの椅子に座った。
「まぁ、そうだけど……」
「あらー、花凛もモテるわねー」
「違うから! ただのとも、いや、知り合いだから!」
咄嗟に友達、と言いそうになったが知り合いに言い直した。厳密にはただのクラスメイト。まぁ、知り合いとさほど変わらないだろう。
「はいはい、確かお姉ちゃんのがあったはずよ」
そう言って、お母さんはリビングから出ていった。
しばらくすると、お母さんが立派な黒いプラスチック性の箱を持ってきた。
「あったわよ」
そう言って、お母さんはゆっくりと蓋を開ける。
中から出てきたのは、全体的に濃い紫色の浴衣だ。白色と水色の梅の花が咲き乱れている。帯は明るい紫色。
お姉ちゃんが好きそうな、少し大人っぽさを感じる浴衣。
「こっちもあったわよ」
お母さんが持ってきたのは薄茶色の草履だ。これで浴衣セットは揃った。
あとはちゃんと着れるかどうかだ。
「とりあえず、着てみる?」
お母さんの提案に対して私はすぐに、
「うん、着てみたい」
と返した。
浴衣なんて久しぶりだ。私も女の子だから、わくわくする気持ちが抑えきれなかった。
「やばい、遅れる!」
小走りで私は集合場所に向かう。初めての草履は、思ったより走りづらくて転びそうだ。
お母さんに髪を結ってもらって、する気のなかった化粧までされていたら案外時間がかかってしまった。
時刻はそろそろ18時を示そうとしている。普段、運動しないせいかすぐに息が切れてしまって苦しい。
それでも私は小走りを続けた。
鳥居が見え始めると、私はすぐに知っている人を見つけた。
「斉藤、くん」
久々に見た斉藤くんは、どこか懐かしさを感じる。
私の〝友達〟の、斉藤くん。
あと少しの距離だ。私は人をかき分け真っ直ぐ斉藤くんの元へ向かった。




