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建前男子と本音女子  作者: とりけら
高校1年生編
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猫 後編


「あれ、確か本条さん、だったっけ」


 その声はどこかで聞いたことのある声だった。


「本条ですけど、あなたは……?」


「あー、俺は同じクラスの進藤武史だよ」


(進藤武史……? 確か斉藤くんとよく一緒にいる人、だったかな)


 曖昧な記憶を辿る。格好を見るとどうやら部活帰りらしい。サッカー部っぽい格好だった。

 しかし、私が知っている人は斉藤くんと綾瀬さんだけだ。それ以外の人の顔の記憶はぼやけている。


「ごめん……わかるようでわからないような……」


「あはは……まあいいよ。それより本条さんはこんな所で何してるの?」


「あ、ああ、この猫! この猫ちゃんの飼い主を探してて」


 私は猫を抱きかかえ、進藤くんに見せる。

 進藤くんは少し考えた後、


「この猫……確か森さん家の猫だった気がする」


 と、言った。


「この首輪、見たことあるんだよね。森さんの家で見たような見ていないような……」


 曖昧な答えだったが私はつい嬉しくなり、


「ほんとに!?」


 と、大きな声を出してしまった。


「あ、あぁ。多分だからとりあえず森さんの家に行ってみよう」


「わかった、いこう!」


 私たちは森さんの家に向かった。




 私たちは並んで森さんの家に向かっている。道中、進藤くんが話しかけてきた。


「本条さんって、実は結構元気な子?」


 進藤くんはしっかり私の目を見て話す。


「え? そうかな」


「あぁ、いや。学校だと本条さん、いつも静かに読書してるから大人しい子なのかなーって思ってたんだけど、さっき大きな声出したから本当はもっと明るい子なのかなって思って。結構びっくりしたよ」


 似たようにことを綾瀬さんにも言われた気がする。

 やはり私は、知らない間に近寄り難い空気を作ってしまっているらしい。あんまり自覚がないからよくわからない。

 それとも、紗英との一件から私はずっと一人でいたから、そんな状況に慣れてしまっていたのかもしれない。


「私さ、昔からあんまり友達いなくて。だから喋る機会もなくて、読書してるって感じかな。まぁ読書、好きだからいいんだけどね。……なんだろ、仲良くなると結構喋れるって感じかも。さっきの声はごめんね。私、猫好きだから舞い上がっちゃって……」


 初対面の相手に恥ずかしいところを見られてしまった。今更になって、少し恥ずかしいと感じる。


「じゃあさ、友達になろうよ」


「え?」


 急な展開で驚いてしまった。


「俺さ、本条さんのこともっと知りたいって思った。本条さんと友達になれたらきっと楽しいと思うんだ」


 私を知りたい、か。

 初めて言われた言葉に少し動揺してしまった。けれど、私自身も斉藤くんのことを知りたいと思って近づいた人の一人だ。似たような、というか全く同じ動機でどこか親近感を感じる。

 だから断る理由も特にないし、


「ま、まぁ、いいけど」


 と、友達になることを了承した。


「よろしくね、本条さん」


「こちらこそよろしく」


 ぎこちない挨拶になってしまう。

 高校に入ってから男の子と話したのは斉藤くん以外いないから、少し緊張しているのかもしれない。


「早速なんだけどさ、海、行かない?」


「海……?」


「そう、海! 友達と行く予定なんだけど、本条さんもどうかなって」


「んー……ごめん、やめとく。私あんまり泳げないし」


 昔から泳げなくて、プールや海に行ったことがない。行きたくない訳では無いが、泳げる人の迷惑になると考えてしまうのだ。


「そっか……ならさ、祭りならどう?」


 祭り、か……。


「祭りならまぁ、大丈夫、かな」


「まじ? じゃあこれ、俺の連絡先だから」


「あ、う、うん。どうも」


 淡々と決まっていく。私はただ返事をすることしか出来ない。なんというか、ただただ圧倒されっぱなしといった感じだ。


「お、あれが森さんの家だよ」


 急に進藤くんは50m先の家を指差す。どうやら、猫を見つけた場所から結構歩いていたらしい。よく見てみると家の前におばあさんがいる。

 私は少し駆け足で、おばあさんの元へ向かった。


「あ、あの!」


「みぃちゃん!」


 私がおばあさんに声をかけると、おばあさんは猫の名前らしき言葉を言い、こちらへ近づいてきた。


「この子、迷子になっていたらしくて」


「本当にありがとうございます」


「いえ、無事届けられて良かったです」


 おばあさんに、感謝をしたいから家に上がらないかと提案されたが、なんだか申し訳ないからと私たちは断った。

 もう夕飯時の時間だったし、なにより猫と触れ合えたことが一番のお礼だった。


「じゃあ私はこっちだから」


「じゃあね、本条さん。詳しいことは連絡するから。祭り、楽しみだよ」


「わかった。連絡、待ってるね」


「それじゃ」


 進藤くんと別れると私はふぅ、と1つ息を吐いた。少し面倒なことになってしまった気がする。

 祭りには元から、一人で雰囲気を味わう程度で行く予定だったから別になんとも思わなかったが、終始進藤くんのペースで、慣れない感じだったから疲れてしまったらしい。


「友達、か……」


 私は再び、昔の幼馴染のことを思い出す。


 裏切られることに抵抗がないわけじゃない。一種のトラウマ、みたいなものだろう。そして、ずっと私は一人だった。中学時代の3年間、私はずっと一人だったんだ。

 だから、高校に入って急に友達が増えていることに少しびっくりしているのと同時に、うれしいという気持ちがあった。一人で大丈夫と我慢していた、自分自身の嘘をついていたからこそ、実は誰かと一緒にいたかったという本音が漏れてしまっている気がする。


 斉藤くんと知り合ってから、私を取り巻く環境は昔と比べるとずいぶん変わった気がする。あの時、斉藤くんに話しかけてよかったと、心の底から思う。


「お姉ちゃんが言っていた通りの、〝建真くん〟とはいい友達になれそうだよ。まぁ、嘘は許さないけどね」


 私はボソッとそうつぶやき、家への帰路に着いた。

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