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建前男子と本音女子  作者: とりけら
高校1年生編
31/168

買い物 後編 ② side:綾瀬琴葉


「あ、いや、大したことじゃないんだ。本条がいた気がして」


 ……ほんじょう?


 ほんじょうって本条? 花凛のこと? なんで今あの人の名前が出てくるの?


 言葉にならない感情が頭の中をごちゃごちゃにする。同時に、胸がぐっと締め付けられる感覚を感じた。


(けんちゃんを、とられたくない)


 ただ1つ。それだけははっきりと分かった。


「そっか、どうする? 探してみる?」


 平然を装ってけんちゃんに質問する。ここで私が慌ててもただけんちゃんを困らせるだけだ。

 私の、この気持ちを知られない為にも普通に接する以外の選択肢がない。


「いや、いいよ。アイス奢らなきゃだしな。どうせならメダルゲームもちょっとやっていこうぜ」


 小さく、安堵の息を漏らした。

 探すと言われたところで、私が真面目に探せるのかわからなかったからだ。探すフリすら出来ない気がしていた。


「いいね、やろうやろう!」


 無理やりテンションを上げて、忘れるしかない。何も無かった、それでいい。今はただ、前を向こうと思った。

 嘘をつくのは得意でも、今の自分の気持ちに嘘はつけそうになかった。


 私たちは知らぬ間に、2時間もゲームコーナーにいた。久しぶりに童心に帰った気がする。チラつく先程の出来事を振り切り、けんちゃんとの時間を心から楽しんだ。


 15時を過ぎたくらいで約束通り、けんちゃんにアイスを奢ってもらった。私はどうせならと2段のやつを選んだ。何ならどや顔もしてやった。けんちゃんも1段のやつを買っていた。

 冷たいアイスが私の体と頭を冷やす。美味しいという満足感と、体が冷やされたことによる解放感が私を満たした。


 私が選んだアイスはコーヒー味とレモン味。けんちゃんはみかん味を選んでいる。


「ん〜おいし〜。けんちゃんのも一口ちょうだい」


 私たちにとって“一口ちょうだい”はいつもの事だ。

 今更お互いに意識しない。……ちょっとだけドキドキしたけど。


「おう、いいぞ」


 私はけんちゃんのアイスをガブッと4分の1ほど食べた。みかん味も気になっていたのでつい沢山食べてしまった。


「みかんも美味しいね」


「一口大きくないか!?」


「気にしない気にしない〜。ほら、私のもあげるから」


 けんちゃんの前に私のアイスを差し出す。けんちゃんはコーヒー味のアイスを3分の1ほど食べた。


「コーヒー美味しいな」


「食べすぎだし!」


「お返しだ」


 アイスを食べながら談笑していると、時間は16時を過ぎていた。


「けんちゃんごちそうさま!」


 身も心も満足した。


「次は負けねえから」


「それはどうかな〜」


 しばらくエアホッケーでけんちゃんに勝ったことをいじろうと思った。


「そろそろ帰るか」


「ん〜そうだね〜。疲れた〜」


 昨日の夜の疲れが残っていたのか、急に眠くなってきた。もっとけんちゃんと話したいのに、体が言うことを聞かない。

 眠い目を擦りながら、私はなんとか前へ前へと歩いた。




 私たちはアウトレットモールを後にし、駅に向かった。幸い、電車は空いていた。帰宅ラッシュにはまだ早い時間だったからだろう。

 私たちは楽々と席に座ることが出来た。電車が発車するまでまだ2分ある。

 席に座った瞬間、私は睡魔に襲われ目を閉じてしまった。




「おーい、そろそろ着くぞー」


「んん……」


 私はけんちゃんの声で目が覚めた。


「わたしねてた?」


「がっつり」


「まじか〜……。ごめんごめん」


 正直、まだ眠い。

 せっかくけんちゃんと一緒に、2人きりでいられる時間なのに……


「もう着くから」


「ありがと〜」


 重たい足をなんとか前に出し、歩く。

 少しフラフラしそうになるが、けんちゃんがしっかりと私の腕を押さえてくれている。


「家、着いたぞ」


「ん〜いつの間に……」


「じゃあ俺は隣だから。今日はありがとな」


「役に立ったならよかったよ〜。私もありがとうね」


「じゃあまたな」


「うん、また海でね」


 軽い別れの挨拶をした後、家に入り、自室に着いた瞬間私はベットに寝転んだ。

 ふぅーっと、大きく息を吐いてまた目を閉じる。意識が消える前に、1つ、考え事をした。


 私の気持ちをけんちゃんに伝えるかどうか。やっぱりこのままじゃ、嫌だ。花凛に取られるのが嫌だ。


 なら……。


 答えは決まっているのに。現状を変えたくないと思う自分がいる。

 長い長い、片想いの時間。そう思うのも自然なはずだ。


 けんちゃんの気持ちが知れたらならいいのに……。

 届いて欲しいのに届かない。いや、届いて欲しいのに届かせようとしない自分が情けなくて、気づいたら一筋の涙が流れていた。


 何とか、しなくちゃな……と考えて始めた瞬間、私は睡魔に負けて寝てしまった。

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