席替えと出会い
6月
「よーし、じゃあ席替えするぞー」
入学式が終わってから、約2ヶ月が経とうとしていた。今日の一限の学級活動は、席替えを行うらしい。ちょうど、日直が一周したからと先生が言っていた。
席替えというものは、学生にとってちょっとしたお楽しみイベントだ。好きな人の隣になりたいとか、後ろの席になりたいとか。
まぁ俺にとっても、特に好きな女子とかはいないが後ろの席になることは嬉しいから、少し楽しみだった。絶賛、今は最前列の席だし。自分の名字を呪いたい。
「それじゃーくじ引けー」
先生の一言で、クラスのみんながバラバラと立ち始めた。それぞれのグループで固まって話している。
こーゆーのは先に引いた方がいいとか、残り物には福があるとか、色々な会話が教室の中を飛び交っていた。
俺はクラスカースト上位グループ、いや、長いからトップグループとでも言おうか、そのトップグループの中で、適当に会話を聞き流してた。
トップグループは5、6人のグループだが、その中の2人は好きな人がいるらしく、その子と隣になりたい、もしその子と隣だったら席を譲ってくれと言っていた。
「喋ってないで、早くくじ引きにこーい」
先生がみんなを急かす。授業中であることを忘れている人が多いのだろうか、クラスのみんなはわいわいと騒いでいる。
「早くしないと席替えなしにするぞー」
こういうのは誰かが引けば連鎖的に皆も引きにいくのだが、誰も引きにいかないと譲り合いが起きてしまう。日本人の悪い所だ。
(まぁどこでもいいし、怒られるのもめんどいからいくか……)
俺は静かに教卓の前にいき、くじを引く。なんか後ろの方から、一番前引けーとか言われているが気にしない。
俺は折られている紙を一枚とって、中を見る。紙には黒ボールペンで、「40」と書かれていた。
このクラスは40人クラスだ。つまり1番最後の番号ということは……
「えーあー、斉藤は窓側の1番後ろの席だな」
「これが俺の実力」
俺は大きくガッツポーズをする。周りからはいいなー、交換しよーよーなど色々言われているが譲るつもりは毛頭ない。トップグループの奴らにも色々言われたが、ドヤ顔を見せて対抗した。
案の定、クラスのみんなは俺に続いてどんどんくじを引きにいっていた。次々と席が決まっていく。
俺は隣が誰だろうと特に興味はなかったから、トップグループの奴らと話していた。
適当に挨拶して、仲良くしとけば特に問題はない。下位グループの人だったら、あんまり深く関わらなければいいし、上位グループの人だったら新しい友達ができるかもしれない。そんな風に、簡単に考えていた。
どうやら、先程好きな人と隣になりたいと言っていた1人が、好きな人の隣になれたらしいという会話が聞こえてくる。そいつは、めちゃくちゃ喜んでいた。その好きな人やらが、引くくらいには。
10分くらいで、全員がくじを引き終わった。全ての席が決まると、
「よーし、それじゃー各自新しい席につくように」
先生の一声でみんな、新しい席に移動し始める。
俺も机の引き出しに入っていた教科書らを適当に鞄に押し込み、新しい席に移動した。
新しい席は、窓を開けると心地よい風が入ってきて日当たりもよく、最高の席だった。
(最高だ……。寝れる……。)
俺はゆっくりとその心地よさを堪能していた。隣の人なんて気にもしないで。
だからだろう。きっと罰が当たったのだ。
あまり調子に乗るなよ? みたいな。
俺はぼんやりと窓の外の景色を見ていると、急に隣の席の人から声をかけられた。
「これからよろしくね」
その子は、黒い長い髪が特徴的な女の子だった。容姿も悪くないし、物静かそうな印象を受ける。
でも俺はこの子のことを知らなかった。高校が始まって、同じクラスになって二ヶ月も経つのにも関わらず。
上位グループの奴らの顔は大体把握しているつもりだ。つまり、上位グループではないことが分かる。
(下位グループの人か? けど、結構な美人だぞ?)
と色々考え込んでいたら、
「? どうしたの?」
と、その子から言われてしまった。気づかぬうちに、時間が経過していたらしい。
だから俺は咄嗟に、
「あ、いや、なんでもない。こちらこそよろしく」
と雑に返してしまった。
これが、俺こと斉藤建真と、隣の席の女の子こと本条花凛との最初の出会い。
この出会いが、俺の人生を変える出会いになるとは、この時思いもしなかっただろう。