買い物 中編 ① side:綾瀬琴葉
「俺はよくわかんないから全部任せるわ」
出発する前に、けんちゃんにそう言われた。
まぁそう言うだろうと、ある程度予想はできていたけど。
駅周辺のお店でも、簡単に水着を買うことが出来るだろう。しかし、それでは面白くない。どうせなら、もっとデートっぽいのがいい。むしろデートがしたい。
だから私は、隣町のアウトレットモールへ行くことにした。
「わざわざ隣町まで来る必要あったか……?」
アウトレットモールを目の前に、けんちゃんはそう言う。
「あったりまえじゃん! やっぱ服買うならここよね〜」
確かにここならなんでも揃う。でも本当の目的は違くて……。
私は誘われた身だ。私から誘った訳では無いから何も準備が出来ていない。なら、せめて私がよく知っている場所がいい。
やっぱりアウェイよりもホームのほうが存分に戦えるし。出来るだけ長く、一緒にいるために頑張らなきゃ!
「それじゃ、早速水着を買いに行きましょ」
余裕を持った顔をけんちゃんに見せる。
むしろいつも以上に元気に! 俯いて考えるのはけんちゃんがいない時だけ。けんちゃんに不安を見せてはいけない。
水着を売っているお店に行くのは久しぶりだったから場所がどこか不安だったが、難なく行くことが出来た。
「あれなんてどう?」
私は店の中央に設置されているマネキンを指さした。
正直、男性用水着のことは全くわからなかった。どれも同じに見えるし。柄が違うだけじゃんって思うし。柄なんてその人の好みだから、他人が口出しすることじゃないし。
その点、女子友達相手は楽だったりする。提案に対して、とりあえず肯定しておけば万事OKの簡単な世界だからね、えへへ。
けんちゃんはあんまり派手好きじゃなかったはずだから、無難な紺色でいいと思ってあの水着を選んだだけだ。
……適当でごめんねけんちゃん。
「じゃあこれでいいや」
そんな私の適当な提案に対して、けんちゃんはなにも文句を言わないどころか即決してしまった。
「はやっ」
本当にいいのそれで!? 私が適当に選んだやつだよ!?
任せるとは言われたものの、そこまで一任しているとは思わなかった。まぁ、私が選んだのを買ってくれるって言うのは結構嬉しかったりするんだけど。
「特に好みとかないからな。ちょっと買ってくるわ」
「まぁ、けんちゃんがいいならいいけど。いってら〜」
けんちゃんがレジに向かっていく。
1人残された私は思った。
(私もけんちゃんに水着、選んで欲しいな〜……)
今持っている水着が着れない訳では無いが、どうせ来たんだから何か買いたい。
けんちゃんがどういう水着が好きか、私は知らないし……。選んでくれたら、嬉しいなぁ。
そんなことをぼーっと考えているとこちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。
私はすぐに笑顔で迎える準備をする。
「早く終わったし、どうせなら飯食っていくか」
えぇー……。
けんちゃん、それはないよ、マイナスポイントだよ。流石に早すぎない? もっとゆっくりしたいよ。
こ、こうなったらさっき考えていたことを実行するしかないと思い、私は行動に移す。
私の横を通り過ぎていくけんちゃんの袖口を、私は咄嗟に掴んだ。
らしくない事をしたせいか、恥ずかしさで俯いてしまう。
「ちょっと待ってよ。私も水着買いたいんだけど……」
「なんだ、早く言ってくれれば良かったのに。俺は外で待ってるから買ってこい」
えぇ……。それはさすがに鈍いよけんちゃん……。マイナスポイント2つめだよ……。
私は顔を上げ、上目遣いでけんちゃんを見る。
「え、選んで欲しいんだけど……」
「え?」
上目遣いまでしてもちゃんと聞いてくれないとは……。なかなかけんちゃんも鈍感すぎるらしい。
えぇいもうめんどくさい!
「だ、だから、選んで欲しいって言ってるでしょ!」
私は声を荒らげてしまった。
「い、いや、俺が選んだところで」
けんちゃんだからいいんでしょ! と、心の中でツッコミをする。
「あんたの水着選んだの私なんだからあんたも私の水着選びなさいよ」
さっきの貸しをここで返させる作戦だ。これでけんちゃんは私の水着を選ぶしか選択肢はない!
結局、けんちゃんは渋々了承してくれた。
なんやかんやあったけど、まぁ、結果オーライだろう。私自身にプラスポイントだ。




