買い物 後編 ②
琴葉の放ったパックが俺のゴールに入り、うるさい音楽が流れ始める。
「やったー! 私の勝ちね! アイスおっごり〜」
琴葉は両手でガッツポーズをし、喜んでいる。
「ちょ、ちょっとまってて!」
俺はゲームコーナーの外へ急いで出た。久しぶりに会ったんだ、一言二言ぐらい話したい。
しかし、既に本条らしき人の姿はなかった。確か、本条らしき人は右方向へ歩いていった。向かっただろう方向へ少し歩いてみたが、人の姿すら見えない。
ただの、俺の見間違えかもしれない。
「どうしたの?」
琴葉が小走りで俺のところまで来た。
「あ、いや、大したことじゃないんだ。本条がいた気がして」
そう言った瞬間、琴葉の顔がほんの一瞬だけ、暗くなった気がした。
「……そっか、どうする? 探してみる?」
「いや、いいよ。アイス奢らなきゃだしな。どうせならメダルゲームもちょっとやっていこうぜ」
「いいね、やろうやろう!」
さっきの琴葉の顔はなんだったのだろうか。今はそんなの感じさせないほど笑顔だ。
また見間違えたのだろうか。目が悪くなったのかもしれない。
俺たちは知らない間に、2時間もゲームコーナーにいた。時間を忘れるほど楽しかったのだ。久しぶりだから、というのもあるかもしれないがメダルゲームも捨てたもんじゃないなと思った。
15時を過ぎたくらいで約束通り、琴葉にアイスを奢った。琴葉は贅沢にも2段のやつを選びやがって、どや顔をされた。どうせならと俺も1段のものを買った。
ゲームをやって、火照った体にアイスの冷たさと甘さが染みる。
琴葉が選んだアイスはコーヒー味とレモン味。俺はみかん味を選んだ。
「ん〜おいし〜。けんちゃんのも一口ちょうだい」
「おー、いいぞ」
俺はアイスを琴葉に差し出すと、ガブッと4分の1ほど食べられた。
「みかんも美味しいね」
「一口大きくないか!?」
「気にしない気にしない〜。ほら、私のもあげるから」
俺の目の前に琴葉のアイスが差し出される。
俺はコーヒー味のを3分の1ほど食べた。
「コーヒー美味しいな」
「食べすぎだし!」
「お返しだ」
アイスを食べながら談笑していると、時間は16時を過ぎていた。
「けんちゃんごちそうさま!」
「次は負けねえから」
「それはどうかな〜」
しばらくエアホッケーで負けたことをいじられそうだなと思った。
「そろそろ帰るか」
「ん〜そうだね〜。疲れた〜」
琴葉は少し眠そうに、目を擦っている。
確かに俺も疲れた。ずっと家にいたせいか、久しぶりに体を動かすと、かなり疲労が溜まる。半分くらいエアホッケーのせいな気がするけれど。
俺たちはアウトレットモールを後にし、駅に向かった。幸い、電車は空いていた。帰宅ラッシュにはまだ早い時間だからだろうか。
俺たちは楽々と席に座ることが出来た。電車が発車するまでまだ2分ある。
俺はスマホをポケットから取り出すと、急に右肩に重さを感じた。なんだと思って右に振り向くと、琴葉が俺の右肩に頭を預けながら寝ていた。
すぅすぅ、と琴葉の呼吸の音が俺の右耳から聞こえてくる。
不意に水着を売ってるお店でのことを思い出し、心臓の鼓動が早くなった。起こそうにも、琴葉は気持ちよさそうな顔で寝ている。
「はぁ……」
俺は小さくため息をつくと、スマホの画面に集中した。
何も、考えないように。
「おーい、そろそろ着くぞー」
「んん……」
俺は琴葉の肩を優しく揺らした。
目を擦りながら、琴葉はゆっくりと起きる。
「わたしねてた?」
「がっつり」
「まじか〜……。ごめんごめん」
琴葉は笑顔でそう言っているが、目が開いていない。
「もう着くから」
「ありがと〜」
駅を出ても琴葉はまだふらふらしている。どうやらかなり眠いらしい。
俺は琴葉が転ばないよう気をつけながら、家に向かった。
「家、着いたぞ」
「ん〜いつの間に……」
「じゃあ俺は隣だから。今日はありがとな」
「役に立ったならよかったよ〜。私もありがとうね」
「じゃあまたな」
「うん、また海でね」
そうして、俺たちは家に帰っていく。
自室に荷物を置いてから、俺はリビングのソファに飛び込んだ。寝転がると疲れがじわじわ抜けていく気がする。
俺はふと、思うことがあった。
(カップル、か……)
小さな声で聞こえてきた単語。淳にも似たようなことを言われている。
恋というものは正直、よくわからない。恋というものを知らないと言う方が正しいかもしれない。
そもそも、俺は嘘だらけだ。本当の恋なんてものは、俺にはできないだろう。
でも、もしも。
あの時言われたことが、現実に、事実になるとしたら。
(もし琴葉と付き合う事になったら、か……)
俺はすぐに考えることをやめた。
琴葉はただの幼馴染だ。そんなことは起こらないだろう。考えるだけ無駄だ。
晩御飯ができるまで、まだ時間がある。
俺は疲れた体を癒すため、先に風呂へと向かった。




