買い物 中編 ①
「俺はよくわかんないから、全部任せるわ」
出発する前に、俺は琴葉にそう伝えていた。琴葉は、
「分かった! 任せといて!」
と張り切っていたが……。
「わざわざ隣町まで来る必要あったのか……?」
電車に揺られながら20分。
俺たちは、隣町にある大きなアウトレットモールにやってきた。
というか、久しぶりに電車に乗った気がする。
高校の友達とはまだ学校の近くでしか遊んだことがないし、中学の友達とは何度か電車で隣町に行ったことがあるが、両手で数え切れるほどだ。
大抵は自転車を使っているから、そもそもあんまり公共交通機関を使っていない気がする。自転車最強。自転車があればどこへでも行ける。
「あったりまえじゃん! やっぱ服買うならここよね〜」
琴葉の口振りから、何回もこのアウトレットモールで服を買ったことがあるようだとわかる。女子たちはここで服を買うのが当たり前なのだろうか。
「それじゃ、早速水着を買いに行こー」
妙にテンションが高い琴葉が、俺を先導してくれる。俺は琴葉を見失わないように、早足でついていった。
正直、このアウトレットモールには来たことがあるが、何度来ても迷子になりそうになるほど広い。そして人が多い。今日が金曜日でよかったと心の底から思った。
水着が売っている店についた。
10人くらいだろうか、店内にはそれなりに人がいる。そのほとんどは女性客だ。
「あれなんてどう?」
琴葉はマネキンが着ている水着を指さした。
ぴっちりとした感じではなく、だぼだぼ系の水着。色は紺色で紐だけオレンジ色だ。ポケットがついていて無難な水着だった。値段も夏セールのおかげで1000円きっかしだ。
「じゃあこれでいいや」
「はやっ」
琴葉は驚いた顔で俺を見ている。
「特に好みとかないからな。ちょっと買ってくるわ」
「まぁ、けんちゃんがいいならいいけど。いってら〜」
レジに行き、水着を買って琴葉のもとへと帰る。俺の水着を買うまでかかった時間は、5分もかかっていない。早い買い物だ。移動時間の方が長いとは何事か。
「早く終わったし、どうせなら飯食ってくか」
さすがに、アウトレットモールの滞在時間5分は短すぎる。どうせ来たならここでしかできないことをしたいと思った。
俺は店を後にしようとするとふいに袖口を掴まれる。
俺が後ろを向くと、琴葉は俯きながら、
「ちょっと待ってよ。私も水着買いたいんだけど……」
そう言った。
らしくない琴葉の姿に俺は少し驚いた。
「なんだ、早く言ってくれれば良かったのに。俺は外で待ってるから買ってこい」
女性用水着のところに男の俺が行くのは、さすがに気が引ける。女性客も結構いるから人目も気になるし。
「え、選んで欲しいんだけど……」
俯いていた琴葉が、顔を上げ俺の目を見た。顔が少し赤く見えるのは気のせいだろうか。
「え?」
この反応は自然だ。今まで琴葉と買い物に行ったことは何度かあるが、そんな言葉を言われたことは一度もなかった。
「だ、だから、選んで欲しいって言ってるでしょ!」
「い、いや、俺が選んだところで」
「あんたの水着選んだの私なんだから、あんたも私の水着選びなさいよ!」
俺を睨む琴葉の目が怖い。それを言われたら、俺はぐうの音も出ない。
これ以上嫌だと言っても、きっと逃してくれないだろう。こうして、俺は琴葉の水着を選ぶことになった。というか、なってしまった。




