プロローグ (高校1年生編)
4月
「これで良いんだよ。〝本当〟の俺じゃなくても、みんなが知っている俺は紛れもない〝本当〟だからさ。〝偽物〟なんて、ないんだ」
高校生活が始まって、1週間が経った。クラスのみんなは、初めは緊張していたもののだんだんと慣れてきて、友達も増えてくる頃だろう。すると1つ、ある種一番大事な、けれど自然とできてしまう大きな暗黙のルールが誕生する。
それが、〝クラス内カースト制度〟だ。
〝クラス内カースト制度〟とは、まぁ簡単に言うと同級生間の上下関係みたいなものだろう。同級生間だから、先輩後輩とかではない。ただ単純に、人気があるか人気がないかみたいなものだ。華がある華がない、陽キャと陰キャ、みたいな。
容姿が優れていたり、オシャレだったり、ムードメーカーなどはカーストが上位のグループになる。逆に、内気だったり、いわゆるオタクと呼ばれる人であったり、いつも1人でいる人はカーストが下位のグループになる。というか、自然とそうなる。
で、大体1グループ5、6人くらいで構成されていて、俺のクラスは40人だから8グループあると思ってくれて構わない。その8グループを順位付けして、半分から上が上位グループで、半分から下が下位グループみたいな。大体、こんな感じだ。
基本、他のグループとの交流は無く、自分のグループの人たちと常に一緒にいる。交流があったとしても、上位グループは上位グループとしか交流しないし、下位グループも同様だ。
まぁ、ここまで長々と説明してきたが、かくいう俺はと言うと、もちろん上位も上位、トップだ。
色々あって、俺がグループの中心というわけではないが、トップグループの一員であることに変わりはない。一番イケてるやつらの集まりに俺もいる、とそれだけ分かっていてくれればいい。
さて、だ。初めに言っておくが、実は俺はかなりのめんどくさがり屋だ。ましてや、人と関わりたくないし、1人で居たいタイプの人間だ。ほんと、人付き合いとか疲れることしかないし、やってられん。
家の中での状態なんて人には見せられない。ずっっっと、ごろごろしてるし寝てるしゲームしてるしで本当に正反対。家族は〝偽〟の姿も知っているから、ギリギリ許してくれている。多分。
では、なぜ、そんな俺がカースト制度のトップグループにいるのか。
簡単に言うと、あれだ。〝嘘〟もしくは〝建前〟ってやつだ。
つまり、俺はイケイケでハイテンションな陽キャを演じているってことだ。
俺はとある時から、人の顔色を伺い、その人に対してとびきりいい顔をしようと務めてきた。最初は、まじで疲れるし苦痛だしマイナスの事しかないと思っていた。
けれどどうだろう。あら不思議、自然と俺の地位が上がっていくではありませんか。そして今や、トップカーストグループの仲間入りである。
まぁ、人にいい顔をする、とは、空気を読めるとか親しみやすいとかそういう意味合いが強い。そういう人って大抵面白い人とか、ムードメーカーが多い。そして俺は、自分でも言うのもなんだがブサイクの方ではない。つまり、上位グループの素質有ってわけ。
幸い、俺の入学した高校は上位グループによる下位グループへの差別行為やいじめなどはなく、ただ話さない、関与しない程度だったから特に大きな問題はない。お互い平和にやれている。
そう、そのまま何もなく平和だったら良かったんだ。
ただただ、仲のいい奴らと3年間高校生活を過ごして、青春をして。気ままに笑いあっていられれば良かった。
けれど、現実は厳しくなかった。
アイツが突っかかってきて、面倒なことになったのだ。