意思
視点は本条花凛になっています
「なんでけんちゃんといつも一緒にいるの?」
「いつも一緒にはいない。ただ席が隣なだけ」
「にしてはよく話すよね。友達いないのに」
「よく喋るのと友達いないのは関係ないでしょ」
私は、綾瀬さんのことを斉藤君と同じ部類の、嘘という化けの皮のかぶっている人だと思っていた。
でもそれは違っていた。
今、話をしていてわかる。綾瀬さん今、本音で話しているのだ。
嘘偽りのない、堂々としたその態度からも分かる。
多分、これが〝素〟というやつだろう。
「私が斉藤くんと話してると、綾瀬さんはなにか困ることでもあるの?」
「あるよ、あるに決まってる」
「何が困るの?」
「だって私、けんちゃんのこと好きだもん」
ここで初めて、綾瀬さんは私の目を見た。その言葉に嘘偽りはないと、そう言いたげな視線だ。
「……」
正直、そうだと思っていた。見ていればわかる。明らかに斉藤くんと話しているときの、綾瀬さんの雰囲気とか視線が違うから。
けれど、〝好き〟ってそんなにはっきり言うとは思っていなかった。それに、ここまではっきりと実際に人への好意を目の前にしたのは初めてだったのだ。だから、変に緊張してしまって私の心臓の鼓動が早くなったのがわかった。
「私、けんちゃんのことが好きなの。だからもうけんちゃんと話さないで」
話さないで。
私はその言葉を聞いた瞬間、確信したことがあった。
だから、返事も早かった。
「それは無理」
「なんで?」
「私は、斉藤くんの友達だから」
斉藤くんと話をしたあの時、私も私自身に対して嘘をついていたことが分かった。だから、嘘を極端に嫌っている自分が間違っているのではないかと思ったのだ。
世の中には人の数だけ嘘がある、というのは少し言いすぎな気がするが、嘘には良いものと悪いもの、色んな種類があると分かった。それは例えば、紗英につかれた嘘は悪い嘘で、私が私自身についていた嘘は良い嘘だったように。
そして、私は一つ、身近で知りたいと思った嘘がある。それは、斉藤くんの嘘だ。
私は知りたい。斉藤くんが嘘の化けの皮を被った本当の理由を。そして、嘘の化けの皮がなくなったときの斉藤くんのことも知りたい。
嘘をついている理由、その人の過去を知りたいと思った。私みたいに、辛い過去があるかもしれないから。
斉藤くんは、私にはないものを持っている。それを詳しく知れたら、私は変われると思ったのだ。斉藤くんを知って、その嘘を許せたのなら、私が嫌っている嘘へのイメージが変わるかもしれない。私自身が変われるかもしれない。
なんだったら、私の、本音でぶつかるってことの大切さをもっと知ってほしい。斉藤くんに私のことを、もっと知ってほしい。私の過去を聞いて、たった一言で私を救ってくれたその恩返しをしたい。
「うざ……」
綾瀬さんは小声でそう言う。静かな教室ではどんな小さい音でも響く。
「別にあなたの邪魔をする気は無い。ただ話したいだけだから」
「なに? もしかして本条さんもけんちゃんのことが好きだったりするの?」
「それはない。そういうのじゃない」
私は、真っ直ぐ綾瀬さんの目を見て言った。
綾瀬さんは驚いたのか、目線をすぐにスマホに落とした。
「あっそ。ならどうでもいいや。ご勝手に」
「そうさせてもらう」
会話が終了してから、30秒ほどで斉藤くんが帰ってくる。彼の手にはしっかりとジュースが3本あった。
綾瀬さんは、今までの態度が嘘かのようにはしゃいでいる。
(私自身のために、そして恩返しのために……)
「勉強の続き、やるわよ」
(私が斉藤くんを支えてあげたい、関わっていたいのよ)




