下校
「けんちゃんから話しかけてくるなんて珍しいじゃん。というか、一緒に帰るのも久しぶりだけどさー」
勉強会の開催が決定した日、俺は琴葉と一緒に下校していた。勉強会は来週から始める予定だ。
琴葉と下校するのは2ヶ月振りだろうか、お互いに仲の良い友達が出来てからは時間がなかなか合わず、別々に帰ることが普通となっていた。
「まぁ、そうだな。あんま用事ないし」
「用事なくてももっと話しかけてきてもいいんだよ〜?」
「琴葉はいつも誰かと一緒にいるから、話しかける必要がないだろ。というか逆に話しかけづらい」
「もしかして、嫉妬?」
「いつも一緒にいるのは女子だろうが」
「あはは、確かに」
こういう会話も久しぶりだ。昔は毎日くだらない話をしていた気がする。
「そういえばけんちゃん、なんで急に?」
聞かれるとわかってた質問だ。朝のあの時間だけでは説明が足りなすぎた。
「あー……それはまぁ、大体あの時の会話で想像つくだろ?」
琴葉は俺と同じグループにいる。だから、琴葉のことを知らない人はまずいない。
なのに本条は、琴葉のことを知らないと言った。それはつまり、本条がクラスのほとんどの人と面識がないのと同じことだ。まぁ、本条の場合は興味が無いとか言いそうだけど。
「特になんも言ってなかった気がするんだけど……」
ちなみに琴葉本人は、自分が有名だという自覚はない。昔から琴葉はマイペースに生きている。
「そうだっけか。まぁ、わかっているとは思うが本条には友達がいない」
「誰とも喋らないなとは思ってたよ。ちょっと近寄り難いんだよね〜」
「やっぱりか……。だから1番友達になりやすいのは琴葉かなーって思ってな。あとはまぁ、俺の幼馴染だから単純に頼みやすかった」
琴葉と友達になれば、派生して色々な子と友達になれるかもしれない。別に友達じゃなくてもいい、知り合いでも。
とにかく、担任の先生にまた本条のことを俺に頼られるのは困るという事だ。面倒事は避けたいに限るし、やはり女子の家に行くのは気が引ける。
「違う違う、それはもういいから。私が聞きたいのはなんで急にけんちゃんが本条の面倒みてるのってこと。本条さん誰とも話してなかったんだよ? なんでけんちゃんと話してるの?」
「あー……」
確かに、と思った。あの席替えの時、話しかけてきたのは本条からだった。
一目見て、俺が日常的に嘘をついていると分かるものなのだろうか?
嘘をつくと顔に出ると言うが、そもそも席替え以前は、俺は本条と話したことがない。
考えられるのはずっと本条に観察されていた可能性。 そうだとしたら何故?
考えてもわからない。答えを知っているのは本条だけだ。
はっきりしているのはただ1つ。化けの皮をはがすと言われただけ。
しばらく黙って考えていると、琴葉が俺の顔を覗いてきた。
「訳あり?」
「んーまぁまぁ」
「言えないこと?」
「言えなくもない」
「なら言ってよ」
別に渋ることじゃない。ただ、琴葉には喋りづらかった。
理由は……
「ん-、少し言いにくいんだが……。本条は、嘘を嫌っているんだ」
「へー、そう」
琴葉は俺と同じ人種なのだ。俺ほど嘘だらけではないと思うが、まぁ、それなりに嘘で取り繕っていると思う。
琴葉の顔から笑顔が消えたのがわかった。
「それで、本条はなぜか嘘がすぐわかるんだ。本条に嘘は通用しない」
「ほー」
「だから、俺の、嘘ばかりの化けの皮をはがして本音を引きずり出すって」
「なるほどね。面白そうじゃん」
「面白そうって……」
「だって私も嘘、ついてるわけじゃん? どうなるのかなって思ってさ」
ただの興味本心だと信じたい。
が、今の琴葉の笑顔は心から笑っていないように見える。
「……喧嘩だけはやめてくれよ」
「わかってるわかってる。勉強会、楽しくなりそうだな〜」
琴葉の建前と本条の本音。
俺は、何か大変なことが起こるかもしれないという不安でいっぱいだった。




