訪問 後編
本条花凛視点です
本条は静かに、話始める。
これは私と、私の幼馴染の話。
彼女、いや、親友の星波紗英に裏切られて、そして裏切った話。
あれは中学2年生の頃だったか。紗英とは小学校入学からずっと友達で、常に一緒にいた。
私は今と変わらず、小さい頃から本ばかり読んでいて引っ込み思案だったが、紗英は私とは正反対で賑やかで、うるさい子だった。
だから私は、よく紗英に振り回されたものだ。……あ、斉藤笑ってんじゃないわよ、怒るよ。
話を戻すけど、私は嘘をついたことがない。なんというか、嘘というものに触れてこなかったから、嘘を知らなかったんだと思う。紗英も嘘をつく子じゃなかったから、昔からお互いに本音でぶつかってた。
だから、今思うとそのおかげですごく仲が良くなったって思う。でも、そのせいであの事件が起きたの。
あれは中学校に入学してすぐのことだった。
さっきも言ったけど紗英は賑やかな、ムードメーカーって感じの子。だからもちろん、クラスカーストは上。上位のグループにいた。
ちなみに私は下、だったと思う。はっきりとはわからないけど。まあそもそも紗英以外の人とあんまり話していなかったからね。
だから、上位グループの人がこう思うのは自然なの。
「なんで紗英は本条さんといつも一緒にいるの?」
ってね。
その質問に対して紗英は、即答だった。
「友達、ううん、親友だから」
その時、私はすごく嬉しかったことを覚えている。その言葉だけじゃなくて、質問に対して即答だったってのも嬉しかった。
それだけ、私のことを大事に思ってくれてるって思った。
でもね、上位グループの人たちは当然、面白くないって思うわけ。
その時は上位グループの人達は、紗英の返答に対して何も言わずにどこかへ行った。だけど、翌日から私への嫌がらせが始まった。
別に辛かったわけじゃない。暴力とかの、身体的じゃなかっただけマシ。私は最初から1人だったから、無視されてもって感じだったし。陰口も別にって思ってた。
けれど、上履きを隠された時はさすがに怒ったわ。上位グループのリーダーっぽい女の胸ぐら掴んで場所を吐かせた。ほら、大人しい子が急にっていうかギャップ? で驚いたらしくて、その女はすぐに隠した場所を言ったわ。
そんな嫌がらせより、1番辛かった、悲しかったことは、紗英が私に近寄らなくなったことなの。
その時は、私は紗英と話をしていないから詳しいことはわからなかった。私から紗英に近寄っても逃げられたから、紗英自身が自分のせいでって責任を感じていると私は勝手に解釈していた。
それでも、紗英には私と一緒にいてほしかった。私にとって、紗英だけが心のよりどころだったから。
けれど私の考えは、やっぱり勝手な解釈だった。
……紗英が主体となって、嫌がらせが始まったの。
正直、今冷静になって考えると〝やらされている〟と考えるのが普通かもしれない。
でも当時の私は許せなかった。だってあの時紗英は、私のことを親友って即答してくれたから。今まで本音でぶつかってきたことが仇となった。
だから私は思った。
(今までのこと全部、嘘だったんじゃないか)
って。
自然なことでしょ。結局紗英は、私との友情よりも地位を、クラスでの居場所の方をとった。ただそれだけ。
でも、紗英に一言言ってやりたかった。そうじゃないと私の気が済まなかった。多分、信じていたんだと思う。もしかしたらって。
だからある時、私から近寄っても逃げる紗英に大声で言ってやった。
「親友ってのは嘘だったの!? 今までの思い出も、仲良くしてくれたのも、全部全部、嘘だったって言うの!?」
すると紗英はゆっくりと立ち止まって、こっちを向いた。
でもね、その顔は、紗英の表情は絶望に満ちた顔をしていた。
そして私に言ったの。
「花凛に私の何がわかるっていうの? 全てを失う恐怖って分かる? 次は私がいじめられるかもしれないって恐怖がわかるの!? 花凛はいいよね、失うものがないし! 私は……もう……」
紗英は、その場で頭を抱えながらしゃがんでしまった。
多分、そこで私が手を伸ばせばよかったんだと思う。1人じゃないよって。大丈夫だよって。私たちは親友じゃんって。
でも、私には無理だった。だって私は、私の方が先に裏切られたから。積み上げてきたものが、一瞬で崩れたのを経験したから。
私が悪かったなんて思わない。私は全部、本音で、本当に親友だって思ってたのに。
ふつふつと込み上げてきた怒りを、私はそのまま紗英にぶつけた。
「紗英こそ私の何がわかるっていうの!? ふざけないで! もう、私に関わらないで!」
私は紗英に背を向け、走った。いや、逃げて、裏切った。助けることができる手を、見放した。
その後紗英がどうなったかは知らない。話すどころか、紗英の姿を見るだけでも嫌だったから。
ただ分かることは、紗英はあのあとすぐに転校したということだけ。だから今はもう、どこにいるのかさえ分からない。
紗英が転校したことがきっかけなのかはわからないけど、私への嫌がらせもだんだんと無くなっていった。
「これが、私が嘘を嫌いな理由。心から信じていた唯一の親友に、たった一回。一回だけ裏切られたから」
「あなたの言いたいことは分かる。嘘をついて自分を守ることはいいと思う。でもね、嘘は凶器なのよ。真実を知ったときに人を傷つける、実物のない凶器」
「そして噓をついている時間が長いほど、その人との信頼関係が深ければ深いほどその凶器の鋭さが増していく。そして、そんな嘘をついてまで手に入れた居場所に価値なんてない」
「私はあの時、確かに人を信頼できなくなった。だって、信頼して本音でぶつかったとしてもまた裏切られるかもしれないって脳裏によぎるから」
「でもね、だから私は自分から信頼してもらうんじゃなくて、相手から信頼してもらうために本音でぶつかるの。私は裏切らないからって、証明するために。私がまた、信頼してもいいって思うために」
「だから斉藤、あなたにも少しくらいわかってほしい。すぐになんて、言わないから。あなたの生き方を否定したいわけじゃないの。ただ、私は……」
言葉に詰まってしまう。
言いたいことをいっぱいあって、でも、なかなかまとまらない。
あの時のことを色々と思い出してしまって、泣きそうになったが私はぐっと我慢した。
「本条の言いたいことはわかった。話してくれて、ありがとう」
「つまんない昔話だったでしょ」
本条がそっぽを向きながら喋る。
「いいんだ、話してくれたことが嬉しいから。それよりも本条」
「なに?」
「よく1人で、頑張ったな」
「……は?」
斉藤が何を言ったのかわからなかった。
「あ、いや多分、誰にも言われなかったんだろうなって思って。本条だってその時辛かったはずだろ? だから、頑張ったって思って」
私は知らず知らずのうちに一筋の涙を流していた。とまれって思っても次から次と涙が出てくる。
その、斉藤からの言葉は私の心に強く刺さった。
多分それは、あの時の私が欲しかった言葉だ。私と紗英、二人で頑張ったねって、これから頑張ろうって言いたかった言葉。
紗英という唯一と言ってもいい心の支えを失って、辛くないはずがなかった。
ただ、私は我慢していただけなんだ。
自分自身に、辛くないって、嘘をついて。
(嘘は嫌いなんて偉そうに言っときながら、私も嘘、ついてたんだね……)
しばらく涙を流し、思いにふけた後、我に返り前を見ると斉藤が心配そうな顔でこちらを見ていた。だから私は、
「バカ。こっち見んな」
と言い、近くにあったハンカチを斉藤の顔に押し当てた。
「ありがとう、斉藤」
私は斉藤に聞こえないような、小さな声でそう言った。
(きっと私は、嘘を許せるようになる日がきっと来る気がする。お姉ちゃんが言っていた〝建真〟とはきっと斉藤のことだ。斉藤くんとなら、きっと……)
と、そう、ぼんやり思いながら。
読んでくれた方、ありがとうございます。
ここが彼らのスタートラインです。
まだまだ色々な人物が登場します。
恋物語がどうなっていくのか、これからもよろしくお願いします。




