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建前男子と本音女子  作者: とりけら
高校1年生編
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訪問 中編


 家に入ると、嗅いだことのある匂いが漂ってくる。

 よく薬局とかで嗅ぐお花の匂いのような、いつも本条から香ってくる匂いだ。


 俺はあまり人の家に行かない。友達の家に行ったことある回数は、片手で足りてしまう。

 だから、久しぶりに人の家に入る緊張と、それが知り合ってまだ間もない女子の家という緊張でどうにかなってしまいそうだった。まともに話せる気がしない。


 玄関に入り、右手の扉をくぐるとリビングになっていた。


「そこの椅子に座ってて。お茶でいいよね?」


「あ、あぁ。ありがとう」


 俺は、普段本条が家族とともにご飯を食べているだろう、少し大きい机と4つの椅子がある方へ案内される。本条が指をさした椅子に、俺はゆっくりと座った。


 正直、落ち着かない。今この場所にいる〝俺〟は、いつもの建前のイケイケの〝俺〟とは言えない姿をしているだろう。

 何をすべきかわからずただ椅子に座って周りをきょろきょろしてしまう。家具とかインテリアとか、リビングには色んなものがあった。


 しばらくすると、本条がマグカップを2つ持って来て、机にそっと置いた。俺の方に置かれたマグカップは水色の線が横に3本入っているカップ、本条は薄いピンク色をしたカップだ。


「麦茶だから」


 どうやらマグカップに入っているものは麦茶らしい。


「あ、あぁ、ありがとう。いただきます」


 緊張のせいか、喉はカラカラだった。

 だから俺は、お礼を言ってから麦茶一気に飲み干してしまう。


「おかわり、いる?」


 あまりの飲みっぷりに気を使わせてしまったらしい。


「あ、ありがとう」


 俺はもう一度お礼を言ってから、本条に空になったマグカップを差し出す。

 本条は俺のマグカップに再び麦茶を入れてくれた。


「今日は少し暑いもんね」


 今日の天候が雲一つない晴天のせいもあり、気温が高くなっていた。天気予報によるとそろそろ梅雨入りらしいが全くその気配を感じない。


「そうだな。でも家の中は涼しいな」


 本条の家はどこかひんやりとしていた。暑くもなく、寒くもない、ちょうどよい温度だ


「カーテン閉め切ってるからかも」


 先程から適当な会話が続いていた。互いに話したいことはわかっている。けれど、なかなか踏み切れずにいるのだ。

 しかし、本条がその沈黙を破った。


「で? 何か話したいことがあるんでしょう?」


「……あぁ」


 俺は心の中で深呼吸する。今まで味わったことのない緊張は、なぜか心地良さを感じていた。


「本条、ごめん」


 俺が顔を上げて言うと本条は顔色一つ変えず、いつもの真っ直ぐな視線で俺を見ていた。


「多分、俺、言い過ぎた。俺は本条のことを何も知らなかった。なのに適当なことばっか言って、そして、泣かせてしまった。だから、ごめん」


 言いたいことを言えた、と思う。なぜなら言い終わった後、どこかスッキリとした気分だったからだ。

 俺が言い終わった後、本条が笑いながら口を開く。


「もしかして、あなたのせいで私が学校を休んだって思ってたり?」


「あ、あぁ〜……まぁ、少しは?」


 はぐらかしたが多分バレてるだろう。本条に嘘は通用しない。


「ふーん……。ていうか、私も悪かったわ。ごめんなさい。正直、私も泣くとは思ってなかったの。ただ、まぁ、あの時は色々思い出しちゃってね」


 本条は、どこか思いにふけるような顔をしながらそう言う。


「そっか」


 俺はようやく、肩の荷がおりたような気がした。もう、繰り返し本条のあの時の顔を思い出すこともないだろう。

 安堵に浸っていると、本条がこちらをじっと見つめていた。


「なんだよ」


 何か用があるのかと思い俺は言う。

 すると本条は、


「それよりも、斉藤」


 頬杖をつき、こちらを見ながら、


「本音、あるじゃない」


 随分とうれしそうな顔でそう言った。


「え?」


 何を言っているのかわからなかった。


「私に謝りたいって思ったんでしょ?」


「え? あ、あぁ、まぁ……」


「それは紛れもなくあなたの、本音。あなたはあなたの気持ちのままに行動した。それがあなたの〝本音〟以外に、何があるのよ」


 これが、本音。……全く実感が湧かなかった。


 だって俺は、ただ謝っただけなのだから。


 確かに、自分のしたいことではあった。だけど、謝らなければいけないという使命感も感じていた。謝りたいという気持ちは嘘ではない。俺の意思ではあるが、あくまでも建前の俺の意思だ。

 それは多分、建前の俺で言うところの「空気を読む」で、めんどくさがり屋の俺で言うところのに「後々面倒にならないため」だろう。


 だからこれは俺の本音ではない。そう、確信できる。……そう、言い訳しているだけかもしれないが。


「ありがとう、本条」

 

 俺は、とりあえず感謝をした。空気を読んで、本条が嬉しそうならそれでいいから。


「やめてよ、くすぐったい」


 本条は照れているようで、そっぽを向いていた。

 2人の間に流れる空気は、緊張など無くなっていてとても心地がよかった。




 言いたいことは言えたし、プリントも渡したからもう帰ろうと思って声を出そうとすると、急に本条が深呼吸をした。

 そして、本条は口を開く。


「じゃあ少しだけ、私の話をしましょうか」

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