裏話② 1週間記念
〜1週間記念〜
時は遡って、夏祭りの日から一週間が経った頃。
学校も始まって、体育祭への準備を進めている。
朝、俺は学校を行くための準備を済ませ玄関のドアを開けて外に出ると、
「けんちゃん! 1週間記念だよ!」
門扉で待っていただろう琴葉がそう言いながら俺に近づいてきた。
「知ってる。なんなら日をまたいですぐ言われたし」
琴葉のテンションとは逆に、俺は淡々と返事をする。
「もー、電話と直接話すのは違うじゃん!」
琴葉は頬をふくらませながらそう言っている。
まぁ、確かに俺もそう思う。
やっばり相手の顔を直接見ながら話す方がいい。
「じゃあ今日の放課後、展望台集合ね!」
「……え?」
展望台って、あの時の展望台のことだろうか。
俺が琴葉に詳しいことを聞こうとすると、
「じゃあ私、日直だから先行くね!」
と、琴葉は走って先に行ってしまった。
「ちょ、ちょっとまっ」
俺は琴葉を呼び止めようとするが、琴葉の姿はもうかなり遠いところにいる。
とりあえず、放課後、と琴葉は言っていた。
まぁ、放課後に琴葉に聞けばいいやと思い、俺も少し駆け足で学校へ向かった。
放課後、俺は琴葉に腕を引っ張られ夏祭り会場であった神社に連れてこられた。
「んー、やっと着いたね!」
腕を上に伸ばし、伸びをしながら琴葉は言う。
「ほんと道は険しいけど……ん、やっぱりいいとこだな」
放課後、琴葉の言っていた展望台はやっぱり1週間前のあの展望台のことだった。
展望台には少しだけ涼しい風が吹いていて、夏が終わり秋がやってくることを知らせている。
案の定、この展望台には誰もおらず、俺たち2人だけだ。
「もう1週間、なんだね」
琴葉は柵に寄りかかって眼下に広がる町を見ながらそう言う。
「そうだな……」
ここに来ると自然とリラックスできる。
誰もいないという現実離れした場所。まるで時間がゆっくり流れているようで、風が心地よい。
「ねぇけんちゃん」
「ん?」
琴葉が真顔で俺の方を向いた。
真面目な話なのだろうか、俺が少し構えると
「膝枕してよ」
と、笑顔でそう言った。
「……え?」
……は?
「ほらほら、こっちに座ってさ」
琴葉は変わらず笑顔で俺の手を引く。
「ん? ん?」
俺は状況を呑み込めず、されるがままだ。
「それじゃあちょっと失礼します」
琴葉は俺をベンチに座らせると、そう言ってから俺の太ももの上に頭を乗せてきた。
ぽすっと、予想よりも軽い頭が乗る。
「どうしたの? さっきから無言だけど」
琴葉がこっちを向きにやにやしながらそう言う。
「……いや、急すぎない?」
ようやく俺は現状を把握した。
ベンチに座らされ、膝枕している。
1週間記念のプレゼント的なものなのだろう。
「1回やって見たかったんだよね」
まぁ、そのプレゼントは琴葉宛だったようだが。
「だめだった?」
琴葉は少し困り顔でそう聞いてくる。
「いや別にいいけどさ」
琴葉が喜んでいるならいいのだろう。
俺も別に、悪い気はしないし。
しばらくの間、俺たちはこのままでいた。
言葉はなく、ただ風の音と葉が擦れる音だけがする。
1週間。あっという間だった。あっという間じゃなかったのは1週間前の夏祭りの日だけだ。あの日は本当に長かった……
琴葉と付き合うことになった。いや、付き合うことに"した"日。
結局俺は、この気持ちの答えをまだ出せずにいた。
そんなことを考えていると、
「ねぇけんちゃん」
と、琴葉が口を開いた。
「どうした」
俺は変わらず目の前の景色を見ながら返事をする。
琴葉も俺のほうを見ずに景色を見ていた。
「1ヶ月記念もやろうね」
琴葉には似合わない、少し小さな声でそう言っていた。
その言葉は1ヶ月後も付き合っているということで、遠くない未来を指している。
いや、琴葉はもっと遠い未来を見ていたのかもしれないけれど。
「……そうだな」
だから俺は、すぐに返事ができなかった。
俺には保証が出来なかったからだ。
曖昧な気持ちでは、先のことなんて考えることは出来ない。今の事だけで精一杯だから。
「んー、おっけー! んじゃ交代してあげる」
そう言うと琴葉は、先程までの静かさはどこにいったのか、元気な声でそう言い体を起こした。
そしてトントン、と琴葉は自分の太ももを叩く。いつでも膝枕どうぞという合図だろう。
けれど俺は、
「いや、俺は大丈夫」
と言って帰り道の方へ向かった。
「ま、待ってよー!」
琴葉も急いで荷物をまとめ、俺を追ってくる。
正直、やられている側からすると、膝枕している側は恥ずかしすぎる。そんな恥ずかしい思いはごめんだったからだ。




