体育祭終了 後編 side:本条花凜
(私はこの人に、はっきりとはわからないけれど。多分、恋をしていたんだなぁ)
って。
図書室での出来事。
私は斉藤くんへの気持ちは好意ではない、もう分からないと結論づけた。
そう、もう分からないのだ、と。
だから、私は知りたいと思った。斉藤くんと関わっていれば知れるのではないかと思った。
けれど私は、ここで変なことを考えていた。
斉藤くんの近くにいけば何かわかるかもしれない。
斉藤くんの隣に座ってみたら何かわかるかもしれない。
斉藤くんに、触れてみたら何かわかるかもしれないって。
なんでそんなことを考えていたかはわからない。斉藤くんがあまりにも無防備だからだろうか、それとも私の頭がおかしかったからだろうか。
好奇心はどんどん膨らんでいく。
私は1歩、進む。
それは教室から出る方向ではない。斉藤くんがいる方向だ。
1歩、また1歩とその距離を縮めていく。
教室の中はちょっとした音でもとても良く聞こえていたはずなのに、今この瞬間は何も聞こえない。
ただ、目の前にいる人物が私に何を与えてくれるのかしか、興味が無い。
そしてついに、私は斉藤くんの目の前まで近づいた。
本当に、目の前。
あと30センチ手を伸ばせばその肌に触れる。
斉藤くんは変わらず、腕を組みながらぐっすり寝ている。
腕を組んでいるから斉藤くんの手に触ることは出来ない。触るなら、腕、足、顔のどれか。
私はゆっくり、斉藤くんの腕に向かって右手を伸ばす。
私の右手の指先が小刻みに震えている。
それでも、私は右手を伸ばし続ける。斉藤くんの腕まで残り10センチ。
ここまで来て、ようやく私の頭は冷静になった。
本当に触ってもいいのだろうか。もし起きてしまったら私はどう言い訳をすればいいのか。
そもそも、斉藤くんに触ったところで何もわからないのではないのか。なんで触ろうと思ったのか。
そんな疑念が、あと10センチという短いはずの距離をとても長い距離のように思わせている。
それでも、私は。
私の本当の気持ちを知るために……
右手をゆっくり、ゆっくりと前へ……
生徒玄関から外に出ると果てしなく広がる青空が目に入り、何をやっていたんだろうという、馬鹿らしい気分になった。
……結局、私は斉藤くんに触れず教室を後にした。
教室から生徒玄関までの廊下を歩いている間、私はずっと下を向き深いため息を何度もつきながら暗い気持ちになっていた。
もう、体育祭どころではなかった。
グラウンドに帰ってからもずっとぼーっとしていて、気づいたら応援合戦が始まっていて、気づいたら教室に戻っていて帰りのホームルームが終わっていた。
自宅の自室に戻ってから、私は自分の頬を強く叩いた。
パチンッ、と高い音が部屋に響く。
イタイ。
こんな調子で大丈夫なのだろうか。
自分を見つめ直して、しっかりするんじゃなかったのか。
モヤモヤとした気持ちのまま、色んなことがあった今日という日が終わっていった。




