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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

地球はヤバかったby宇宙人

作者: 音無威人

「ほぉ、あれが地球か」

 男は感心したように呟いた。彼は宇宙人である。数多の星を侵略した彼らは次の標的を地球に定めた。

「どんな星だろうと我々には敵わないだろう」

 宇宙人たちは高笑いし始めた。誰も失敗すると思っていない。彼らにとって地球は所詮その程度のものでしかなかった。

 ――後に彼らは後悔することになる。地球にやってきたことを。





「ひょおー、これが海っすか。おれっち、初めて見たっすよ」

「はいはい、それぐらいで騒がないの」

 若いカップルに擬態した二名の宇宙人は海に降り立った。海水浴の客で賑わっている。

「地球人はのんきね。これから侵略されることも知らないで」

「やっほー。さっさと地球人をやっちゃいますよ」

 宇宙人たちはレーザー銃を構え、地球人に狙いを定めた。彼らが引き金を引こうとした瞬間、「きゃああー」と悲鳴が響き渡る。

「私たちまだ何もしていないのに」

 女宇宙人は首をかしげた。海を泳いでいた人々が逃げ惑い始めたからだ。

 その元凶は宇宙人たちの間近に迫りつつある。そう海にはやつがいる。

「がばっ」

 ――サメが!

「えっ」

 ばくん。男宇宙人の上半身は消えた。

「あああああ」

 女宇宙人は叫び声を上げ、ズガガガとレーザー銃を浴びせた。サメの勢いは止まらない。

「嘘でしょ」

 女宇宙人は唖然と突っ立ったまま、飲み込まれた。





「うわああああ」

 若い宇宙人たちはパニックに陥っていた。仲間たちが次々と死んだからだ。

 彼らはサバンナにいた。そうサバンナには奴らがいる。百獣の王ライオンが、地上最速の生き物チーターが、サバンナの掃除屋ハイエナが。

「な、なんなんだよー。お前らは!」

 サバンナの猛獣と出会ったが最後、宇宙人と言えど無事では済まなかった。まさに地獄絵図。赤子の手を捻るかのごとく、猛獣は若い宇宙人を食らっていった。

「これでも食らえ」

 一人の宇宙人がレーザー銃を発射し、猛獣の頭を吹き飛ばした。

「や、やったぞ」

 宇宙人の顔は徐々に凍りついていった。

「や、やめろー」

 右腕をライオンが、左腕をチーターが、頭をハイエナが。猛獣の群れが宇宙人を飲み込んでいく。

 圧倒的なまでの数の暴力。猛獣の群れの前に、宇宙人たちはなすすべもなかった。





「やめてくれー!」

 男は走った。ジャングルの中を。仲間の悲鳴を背に、彼は駆け抜けた。

 そうジャングルには奴らがいる。人を丸呑みするアナコンダが、血を吸うヒルが、毒を持つタランチュラが。

 男の隣にいた女はアナコンダに丸呑みされた。後ろにいた子供は数十匹以上のヒルに全身を覆われ、まるでミイラのように干からびた。目の前にいた男はタランチュラの毒で息絶えた。

 逃げる男は仲間の死を前にして、涙が止まらなかった。こんなはずではなかった。狩る側だったはずなのに。

 もつれそうになる足を必死で動かし、男は逃げ続けた。森の先には川があった。男は迷うことなく飛び込む。

 助かったと思った。地獄は終わってないとも知らず。男は気を抜いてしまった。

「あぎゃ!」

 男の全身が痺れた。体中に痛みが走った。手足が食いちぎられる。

 そうアマゾン川には奴らがいる。高電圧を生み出す電気ウナギが、肉食のピラニアが、噛む力が強力な巨大ワニが。

「た、助け……」





「うわああ、ば、化け物ー!」

 宇宙人はションベンを垂れ流しながら、木の上に登った。ここなら大丈夫だろうと安堵する宇宙人を尻目に、"それ"はやってきた。

「う、嘘だー」

 "それ"はゆっくりと木を登った。確実に迫りつつある"それ"に宇宙人は気を失う。力をなくし、落下する宇宙人の頭に、"それ"はむしゃりとかぶりつく。

 そう山には奴がいる。――クマが!

 巨体を揺らし、宇宙人を食べつくしたクマは次の標的へと向かう。腹を空かせたクマにとって、宇宙人は格好の餌だった。





「なんで死なないんだよー!」

 宇宙人たちは雄たけびを上げながら、レーザー銃を乱射した。恐怖に慄く宇宙人たちの前で、奴らは何事もなかったかのように立ち上がる。腕は逆方向に曲がり、足は千切れている。それでも奴らは歩みを止めない。

「きゃあー」

 女の宇宙人が奴らに噛まれた。女は一心不乱にレーザー銃を振り回す。レーザー銃が奴らの脳天に直撃した。鈍い音を響かせ、奴らの歩みがようやく止まる。

「そうか。奴らは頭を壊せば死ぬのか。みんな頭だ、頭を狙え」

 リーダー格の宇宙人が叫ぶ。呼応するように仲間たちがレーザー銃を構え、一斉に撃ち始めた。奴らの脳みそは散らばり、宇宙人たちは安堵のため息をつく。

「大丈夫か」

 リーダー格は奴らに噛まれた女宇宙人に声をかける。女宇宙人は何の反応も見せない。

「おい、しっかりしろ」

 女宇宙人は急に顔を上げ、リーダー格の首筋に噛み付いた。

「ぐああ、な、何をする!」

 女宇宙人は狂ったように噛み続け、ついにリーダー格は動かなくなった。

「何をしてるんだよ、お前は」

 部下の一人が女宇宙人の肩に手をかける。振り向いた女宇宙人の顔は……奴らとそっくりだった。

「なんだこれはー!?」

 死んだはずのリーダー格が立ち上がる。リーダー格と女宇宙人は仲間に襲い掛かった。

「やめてくれー」

「何が起きてるんだよー」

「死にたくねえ、死にたくねえよー」

 宇宙人の死体が増えるに連れ、奴らの数も増していった。

 そう墓場には奴らがいる。――ゾンビが。





「な、何よ? 何が起きてるのよ?」

 船内はパニックに陥っていた。宇宙船が揺れ始めたからだ。まるで異常気象にでも遭遇したかのごとく。突然、宇宙船のコントロールが利かなくなったのだ。

「何でだよ。何で操縦できないんだよ」

 操縦士は必死で操縦桿を動かした。高度が徐々に下がっていく。

「このままじゃ墜落しちまう!」

 下は海だった。そう海にはあれがある。――魔の三角地帯バミューダトライアングルが。

 彼らはバミューダトライアングルの上空にいた。魔の三角地帯に入ってしまった。

 嘘か真か分からないバミューダの闇に囚われ、彼らは消息を絶つ。人類は誰も気づかない。宇宙人の存在は明らかにされていないのだから。





「あら、あなたいい男ね。好みだわ。私と良いことしない?」

 若者宇宙人は囲まれていた。逃げ場はどこにもない。本来なら、人類は恐れるに足らない存在。にもかかわらず、彼の足は一歩も動かなかった。

 気圧されたのだ、若者宇宙人は。目前に立つ存在の威圧感に。

「さっ、こっちよ。私たちの店に行きましょ」

 彼は連れて行かれた。詳細は省くが、意外と悪くなかったらしい。

 ここは新宿の二丁目である。そう新宿二丁目には彼女たちがいる。――魅惑のオネエが。

 若者宇宙人はオネエたちとの出会いで、本当の自分を知った。目覚めた彼は地球侵略など忘れ、師匠たるオネエのもとで働き、二丁目界のニュースターとして名を馳せることになるが、それはまた別の話である。





 日本で宇宙人の戦闘特化部隊が敗走に追い込まれていた。戦闘特化部隊はその名の通り、戦いを得意とする者。決して弱くはない。遅れを取るはずはなかった。

 ――奴と遭遇するまでは。

「くそっ、聞いてねえぞ。弱いはずじゃなかったのかよ。にんげ……ぐふっ」

 手足が吹き飛んだ。一瞬の油断が命取りになる。宇宙人たちは息を呑んだ。彼らはじっと目の前にいる一人の人間を見る。

 人間は奇妙な符を持っていた。

「陰陽師のわしと出会うたのが運の尽きよ。主らは宇宙人なんじゃろ? せいぜいわしを楽しませてみせろ」

 陰陽師の男は狂気的な笑みを浮かべ、呪文を唱えた。符は形を変え、式神となる。

「ちくしょー、またかよ」

 宇宙人の戦闘特化部隊は式神に翻弄され、その命を散らしていった。たった一人の人間に手も足も出ず。

「大したことないのぅ。ちっとは根性みせんか。わしは退屈なのは嫌いなんじゃ。本気を見せてみい。ぬしらも地獄は見とうないじゃろ?」

 バカにされ、頭に血が上った宇宙人が陰陽師の男に飛び掛る。

「――私も混ぜなさいよ」

 鮮血が舞う。宇宙人の体には無数のクナイ。新たなる参戦者はくノ一だった。

「わしの邪魔をするとは何事じゃ。いくら主でも許さんぞ」

 陰陽師の体から殺気が膨れ上がる。宇宙人たちは一歩も動けない。

 くノ一は涼しそうな顔で陰陽師に近づく。

「何よ。可愛い恋人が助けに来てあげたのにつれないわね」

 陰陽師とくノ一はカップルだった。

「主に来て欲しくはなかった。わしの戦いを見たら、惚れ直すに決まっておるからのぅ」

 陰陽師はドヤ顔を決めた。くノ一はぽっと頬を染める。

「ス・テ・キ」

 二人はドがつくほどのバカップルだった。

「ふざけるんじゃねえー!」

 戦いに明け暮れ、恋人もいない宇宙人たちは嫉妬に狂い、バカップル目掛け、一斉に襲い掛かる。

「うるさいのぅ」

「邪魔」

 バカップルの一撃で、宇宙人の戦闘特化部隊は壊滅した。





「ゴーゴー」

 アメリカの荒野でもまた宇宙人たちは追い詰められていた。

「ハッ」

 馬に乗って駆ける男たちは、巧みなロープ捌きで宇宙人たちを捕らえていく。

「た、助けてくれー」

 身動きの取れなくなった宇宙人たちは助けを求める。その声は誰にも届かず、何発もの銃声が鳴り響く。

 大地は血で染まる。バッタバッタと宇宙人たちは倒れていった。

 そうアメリカの荒野には彼らがいる。――カウボーイが。

「ハッハー、宇宙人を捕まえたぜ」

「何体か殺しちまったけどな」

「宇宙人だぜ。死体でも十分だろうさ」

 カウボーイたちは懸賞金を求め、捕まえた宇宙人と死体を研究所に引き渡した。後に生き残った宇宙人が、研究所内でひと騒動を起こすことになるが、それはまた別の話である。





「ハッ」

 中国の地に降り立った宇宙人は、一瞬にして地獄に突き落とされた。レーザー銃の嵐をかいくぐる一人の人間の手によって。

「かかれ、かかれ、なんとしてもあの男を止めろー!」

 隊長は部下に指示を出し、男を止めようとした。止めなければならないと思った。この男を止めないと、我々は地球を侵略できないと本能が訴えていたのだ。

「ふんっ」

 男の拳が、宇宙人の体を捉える。天高く舞う宇宙人の群れ。誰も男の勢いを止めることができなかった。

「ありえない。ありえない。俺たちは何度も星を侵略してきたんだぞ。なのになんて様だ。こんなことってあるかよ」

 残るは隊長だけだった。もはや戦意はない。目前に迫る死の気配に怯えるほかなかった。

「――発勁」

 男の拳による衝撃が、隊長の体を貫く。全身に生じる衝撃に耐え切れず、隊長は血を吐いた。意識が朦朧とする中、隊長は男の凍てついた目を見た。その冷たい目が、隊長が最後に見た光景だった。

「弱いな。思ったよりも」

 男は拳を拭い、つまらなそうな目で宇宙人の死体を見渡した。

「どこかに強者はいないものか」

 そう中国には彼がいる。――中国拳法の達人が。





「ええい、どうなってるんだ? なぜ通信が途絶える?」

 地球に送り込んだ侵略部隊の通信が次々と途絶えたことに、全部隊を統括する男は焦っていた。

 男にとって初めての事態だった。今までの侵略で、部下との通信が途絶えたことは一度としてなかった。だからこそ男は焦りに焦っている。いったい何が起きているのか、彼には見当もつかなかった。

「司令! と、とんでもないことが分かりました!」

 部下の一人が驚きの声を上げた。彼は侵略部隊の通信が途絶えたことを受け、地球についての情報を片っ端から調べた。その結果、衝撃の事実が浮かび上がったのである。

「我々だけではないのです」

 部下はそう言って、データをモニターに出した。

「こ、これは!?」

 モニターには、地球を侵略しようとした勢力の情報が映し出されていた。彼ら宇宙人がやってくる前に、すでに地球を侵略しようとした奴らがいたのだ。

「バ、バカな? そんなことがあってたまるか」

 彼らの前にも侵略者がいた。だが地球の支配者は今でも地球人である。その事実が示しているのはただ一つ。

「誰も成功しなかったのか?」

 地球を侵略できた勢力はいないということ。男は恐怖した。モニターに映し出されている勢力は、どれも宇宙で名を馳せている猛者たちだったからだ。宇宙に勇名を轟かせる猛者でさえ、地球の侵略に成功していない。

 男の自信は打ち砕かれた。無論、男だけではない。宇宙船に残っていた宇宙人すべてが、地球に対して恐怖心を抱きつつあった。

「いったい地球には何がいるというのだ?」





 誰かが言った。過去にタイムスリップしようと。地球の()は征服できなくても()()なら支配できるかもしれないと。進化する前の地球ならたいしたことがないだろうと。今地球にいる何かが脅威になるなら、その何かが生まれる前に行こうと。その意見に司令は賛成した。

 彼ら、宇宙人は太古の昔、一億年前へとタイムスリップする。


「うひょー、これが一億年前の地球か。なんもねえなぁ」

「これから我々が作るのだ。新しい時代を。新たな文明を。これより、地球は我々のものとなる」

 散っていった友のためにも、我々は地球を必ず侵略しなければならないと司令は燃えていた。

「――嘘でしょ?」

 唖然とした声が響いた。その声に司令は振り向く。彼の目には予想外のものが映った。

「なんだ、あれは?」

 彼ら宇宙人を巨大な生物が見下ろしていた。鋭い牙と爪を持つ生物はヨダレをたらりと流し、宇宙人に襲い掛かる。

「うわああああ」

 むしゃりむしゃりと一人の宇宙人にかぶりつき、巨大な生物はニタリと笑った。

「ああああああ」

 宇宙人はパニックに陥った。一人一人、また一人と食われていく。司令はなすすべもなく、ただ見ている他なかった。

「そ、そんなぁ」

 絶望の声が響く。彼らはいつの間にか巨大な生物に囲まれていた。

 そう太古の時代には奴らがいる。――かつての地球の支配者、恐竜が。





「はぁはぁ」

 恐竜の襲撃から生き延びたのはたった一人だけ。命からがら逃げ出せた彼は、もはや虫の息だった。

「つ、たえ、なければ」

 最後の力を振り絞り、彼はまだ見ぬ宇宙の同志に向けてメッセージを送った。

 ――地球はヤバいと。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こういうネタ好き [一言] 恐竜までを何とかして侵略できたとしても 地球側は日曜朝の人達とか アメリカのヒーローとか 放射能黒トカゲとか、それと殴り合ってるゴリラとか 挙句はパシフィックな…
[良い点] 超面白かったです。 地球ヤバいっ!!!
[一言] 笑わしてもらいました!
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