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帰還の時

「転生者さーん、転生者さーん、いらっしゃいませんかー?」

 ヒロインが草むらに向かって呼びかけてる。


 ちょっと気が緩んでる感じだけど、世界中を回っている間にレベルがさらに上がって、今はみんなカンストしてる。ヒロインは体力が戦士の半分しかないけど、さすがにもう、巨人族が襲ってこようがドラゴンが火を吹いてこようがへっちゃらだ。

 その後ろから戦士が近づいて、呆れた感じで声をかけた。


「なんだその呼びかけ方は」

「だって、転生者さんは人間の言葉がわかるじゃないですか」

「そうじゃなくて、言い方が気が抜けるんだよ」

「いいじゃないですか、言い方ぐらいなんでも」


 ヒロインと戦士が軽く言い合いになってる。二人ともちょっと気が強いから、会話がこんな風になることはしょっちゅう。でもすぐにまた仲良くなるけどね。

 いいよね、ケンカしつつも仲が良い関係って。兄妹みたい。


 サブイベントは勇者の婚約破棄までのイベント以外通ってこなかったからか、ヒロインは戦士とも僧侶とも恋人になっていない。もちろん、私とも。でも、ヒロインのお母さんは薬のおかげでまだ元気にしてるから、少しだけホッとしてる。


 ヒロインと戦士の様子を微笑ましく眺めていると、僧侶が落ち着いた声で私に話しかけてきた。


「勇者どの。最近、転生者はさっぱり見つからなくなりましたね」

「そうね。ここ一ヶ月、まったく当たりがないね」

 私は僧侶と一緒に、遠くの山まで見える広い平原を見回した。ところどころにモンスターが見えるけど、みんな動きは獣らしくて、私が歌っても反応する感じじゃない。


 私たちは今、四人で転生者を探して廻っている。


 みんなの前で普通に魔王と話すところを見せちゃったから、三人には事情を話したの。この世界はゲームの中だということを隠して。


 プロデューサーに会った時に勇者らしさとか、男らしさとか吹っ飛んじゃった私のありのままを、三人は受け入れてくれた。そして、転生者探しを手伝うと言ってくれたの。私は魔王を退治するわけにもいかなくなって勇者を名乗る資格もなくなったし、これは転生者の問題だからみんなを巻き込めないと遠慮したんだけど、「俺たちは勇者のパーティだから」って、問題が解決するまで一緒にいてくれると言ってくれたの。


 大好きなキャラたちだけど、でもここはゲームの中の世界だからゲームの中の人たちでしかないと思っていたけど、三人の気持ちがすごく嬉しかった。冒険中にも私が知っているゲームとは違うやりとりはたくさんしたけど、素のままでいいと三人が言ってくれた時に初めて、この世界もまた一つの本当の世界かも……なんて感じられた。


 だから、転生者を集めた後にやることが、この世界の破壊みたいなバッドエンドじゃなければいいなと思っている。


 詳しい方法についてはプロデューサーと魔法使いが協力して調べているんだけど、そっちもそろそろ結果が出てないかな。


「一度、魔王城に戻りますか?」

 僧侶がそう提案してきた。


 いつも一歩引いて他の仲間の気持ちを優先にするけど、ここぞという時には意見をくれる、優しくて真面目な僧侶。彼との乙女ゲー的な展開は諦めているけれど、こうして二人になると、まだ時々もやもやするの。


 私は僧侶から気持ちを振り切って、うなずいた。

「そうね、戻って確認してみましょう」


 実はもう全員見つけられてるならいいし、ダメならそれからまた念入りに探し直せばいいし。

 既に集まってる人たちをあまり待たせたくないしね。






 魔王城に戻ると、この世界にいる転生者は全員発見済みと確認できたことと、帰還の方法がわかったことをプロデューサーと魔法使いが教えてくれた。


「どっちもわしのおかげじゃぞ」

 踏ん反り返っている胸をつつきたい衝動に駆られたけど、背中がポッキリいって話を聞けなくなったら困るからやめておくわ。


「して、帰還の方法じゃが。転生者たちをお主の歌で心を一つにすることが必要じゃ」

 魔法使いは重々しく、とうとう判明した方法を教えてくれた。

 でも、私は拍子抜けしちゃった。


「それだけ?」

「それだけと言うが、歌であれだけ大勢の心を一つにするなぞ、難しくないか?」

「転生者たちは元々、きららのファンとして集まった人たちですから、きららの歌でというのはそう難しいことではないと思いますよ」


 プロデューサーが説明すると、魔法使いは「そんなもんか?」と不思議そうにしていた。必要なのは、私の歌を聴きながら元の世界に帰りたい願うことだろうから、だからきっと、そんなに難しい話じゃないの。

 とにかく、この世界や仲間と戦わないといけないような方法じゃなくてよかった。


 一つ気になるのは、転生者でも少なくない数の人がこの世界に残ると決めていること。戻れないんじゃなくて戻らないと本人が決めたならそっとしておいてあげたいけど、全員集まらないと戻れないとしたら。


「やるだけやってみればいいじゃろう。それで帰還できれば残りたいという者たちはそのままにできるし、やはり全員でないといかんようなら、その時に対策を考えればいい」

 私が心配していると、魔法使いがアドバイスしてくれた。


 そうね、条件は一応整っているみたいだから、やってダメだった時にまた考えよう。






「とうとう帰るんですね、勇者さま」

 元の世界に帰れそうだという話を三人にしに行くと、ヒロインがそう言って黙り込んじゃった。

 僧侶と戦士はなにも言わない。


 みんなに寂しそうな顔をされて、しんみりする。

 三人とももうすぐお別れだね。帰ったらゲーム画面越しに私から見つめてもこうして話すことはできないと思うと、寂しくなるね……。


「今まで本当にありがとう、みんな」

 私は三人の手を順番にギュッと握った。

「一緒にいられる時間も残り少ないけど、最後までよろしくね」


「もちろんです」

「最後まで付き合うぜ」

 僧侶が微笑んで、戦士は力強く手を握り返してくれた。

 ヒロインはやっぱり寂しそうだけど、ムリに笑顔を作ってくれた。




 それからは、帰還の準備を整えるに忙しかった。


 残ると言っていた人も気持ちが変わらないか聞いて回ったり、魔王城にいる人にも説明して、準備をしておくように伝言して回ったり。

 帰りたい人たちは近いうちにその日が来そうだとわかるとみんな喜んで、城内が明るい雰囲気にあふれるようになった。

 私は……忙しくて、自分のことを考える余裕はなかった。


 そして、転生者が帰還できる日がとうとうやってきたの。

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