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魔王の正体はあの人

 そしてとうとうやって来たの、異次元にある魔王城に。


 なぜか城内をほとんど素通りで魔王の間まで来ちゃって、目の前には、無駄に大きな椅子に座った魔王がいる。


 私たちに魔王を倒せるかな……。


 ううん、大丈夫。ここまで延々とレベル上げしてきて、村娘の薬師スキルだけじゃなく、他のパーティメンバー全員もスキルレベルがマックスになっているぐらい経験値を稼いで強くなってるし。……それでもこのゲームはラスボスがヌルゲーにならないぐらいの難易度だけど、きっと勝てる。

 魔王に勝って世界が平和になったら、現実世界に戻る方法を探しに行くんだから!


「——とうとうここまで来たか、勇者たちよ……」

 魔王の声が魔王の間に響き渡る。すごい威圧感。

 でもこんなプレッシャー、初めてステージに立った時に比べたら、たいしたことないんだから。

 ここは勇者らしく決めないとね。新人女優賞を取った演技力を発揮する時!


「魔王! 俺たちが貴様を倒す! ——覚悟しろ!!」

 伝説の剣の切っ先を魔王に向けて力強く宣言する。

 よし、決まったかな。


「…………」

 ムッ……。なによ魔王、その心底呆れたと言う目は。


「きらら。セリフを言う時にやたら身振り手振りが激しくなるくせは直しなさいと言ったでしょう」

 えっ……。もしかして、魔王も現実から来た人?

 それにこの話し方、なんだかすごく懐かしい。……まさか。

「あなたならヒロインに転生しているかと思ったけど、まさか、勇者の方だったなんてね」


「――プロデューサー! あなた、プロデューサーなの!?」

「そのとおりよ、きらら」

 私と令嬢以外にも転生者はいるのかなって思ってたけど、まさかプロデューサーが魔王になってたなんて。


「……勇者と魔王は知り合いだったのか……?」

 私たちの会話を聞いて、戦士が驚いてる。間違ってはいないけど、なんか話が面倒な方に向かいそう。

 でも今はパーティのみんなにかまっている場合じゃないの。ごめんね、大事なところなの。


「プロデューサー、このゲームのこと知ってたの?」

「私も遊んでいたわよ」

 プロデューサーも乙女ゲームやるんだ……。


「いいじゃない。ゲームぐらい、やりたかったらなにをやっても」

 ハッ!? 心を読まれた!?


「顔に出てるわよ、きらら」

「顔に……って、プロデューサーって別に勘はよくない方だったよね?」

「こっちに来てから、表情を読むのが得意になったのよ」

 長い髪を掻きあげて、かっこいい魔王がオネエ言葉で話してる。今の私も側から見るとこんな感じなのかな。


「プロデューサーもいろいろあった?」

「まあね」

 うなずいて、プロデューサーがちょっと疲れた顔を見せた。

 魔王だもんね、きっと大変だったよね、プロデューサー。


 ……あ、背後から視線がチクチクする。私たち、魔王を倒しに来たんだもんね。どうして仲良くお話してるんだって思うよね。


 でも、魔王がプロデューサーなら話が早いわ。

「ねえ、プロデューサー。世界征服なんてやめて、私と一緒に元の世界に戻る方法を探しましょう!」

「お断りよ」

 あっさりと断られてびっくりした。


 でも、プロデューサーは落ち着いた声で私に言った。

「だって、世界征服は……現実世界に戻るための手段ですもの」


「どういうこと?」

「魔王になってから、モンスターを駆使して情報を集めて少しだけわかったの。戻るための方法が」

「本当に? 戻る方法はちゃんとあるのね!?」

 よかったあ。冒険中になにも手がかりがなかったから、もしかしてダメかと思ってた。でも戻れるんだ。よかったあ……。


「……勇者さま、さっきからしゃべり方がおかしくないですか?」

 ヒロインが後ろで他のメンバーに話しかけてる。


「あれがあやつの素じゃ」

「そうなのですか、魔法使いどの」

「放っておくとくねくねし出すぞ、あやつ」

「今までずっと一緒にいたけど、普通に見えたぞ?」

「ま、男らしく振る舞おうと努力はしておったようじゃな」

「勇者さまって、そういう人だったんですか……」


 なんか好き放題言われてる。事実だから仕方ないけど。

 でも、もうなんでもいいの。戻ることができるなら。


「プロデューサー」

「きらら」

 目と目が合って、私たちはお互いの思いを確信したわ。そうよね、私たちの取るべき道はただ一つ!


「私……あなたと一緒に世界征服を目指すわ、プロデューサー!」


「よく言ったわ、きらら」

「——勇者さま!?」

 私の言葉に驚いて、魔法使い以外の三人が駆け寄ってきた。


「正気ですか、勇者どの」

「勇者おまえ、魔王と手を組もうだなんて、どういうつもりだ!」

 イタイイタイ。怒った戦士に肩をガッシガッシ揺さぶられて首がもげそう。


「安心して! この世界をどうこうするつもりはないわ!」

 戻るための手段にもよるけどね。ずっと一緒にいた三人と敵にならないといけないとか、ゲームの世界を滅ぼさないと帰れないって話になったら、さすがに悩むけど。


「どうこうされては困ります。あなたは勇者なのですよ」

「正気に戻れ、勇者!」

「魔法使いさま、あなたも勇者さまを説得してください!」

「む、むう……」

 ヒロインにお願いされて、魔法使いが渋い顔してる。でもなにかしようとはしない。

 私を勇者として召帰した結果がこの状況だもの、魔法使いは私に強く言える立場じゃないもんね。


「プロデューサー。どうすれば戻れるの?」

「まだ手順のすべてはわかっていないけど、とりあえず、この世界に来ているすべての転生者を見つけ出す必要があるわ」

 そうなんだ。……ってうなずきたいところだけど、すべて、という言葉にすごく嫌な予感がするんだけど……。


「それって、どのくらいの人数?」

「おそらく、ドームコンサートの時に会場にいた人全員よ」

 ……ドームコンサートの時に会場にいた人全員……。

 確かに、令嬢になってたあの人も観に来てくれてたって話だけど、全員って。


「ドームに来てた人って数万人いるよね? この世界の住民がもし全員そうだとしても、何百人もいないけど……」

「そうね」

 ……まさか。


「モンスターになってる人もいるとか……?」

 遭遇した時、レベルに差があるわけじゃないのに逃げていくモンスターがやけに多かったのは……。


 プロデューサーは私の疑問にきっぱりと答えてくれた。

「そのとおりよ。少なくとも、今現在この城にいるモンスターたちはみんな、私たちと同じく転生してきた人たちよ」

 本当に!? 私もしかして、これまでにファンの人を倒しちゃってたかもしれないわけ!?


「みんなごめんなさいー!!」

「大丈夫よ。この世界のモンスターは”倒された”だけだから。……たぶん」

 プロデューサーが中途半端に慰めてくれる。

 たぶん……たぶん大丈夫だと私も思いたい。でないと私もう、みんなの前でステージに立てないわ。


「転生ってなんのことですか?」

「じいさん、勇者のことを前から知ってたんなら、勇者がああして魔王と親しげに話している理由も知ってるんだろ。教えてくれよ」

「わ……、わしは、勇者以外のことまでは知らんぞ」

「では、勇者どのの事情はご存じなのですね。それだけでも教えてください」

「それは……」


 私がみんなをおいて魔王と話をしてるから、三人は魔法使いから話を聞き出そうとしている。でも魔法使いは頑なに話そうとしないのはなんだろ、自分に責任があるのを認めたくないからとかかな?

 もうここまでみんなの前で喋っちゃったら、後で私から説明するつもりでいるからいいけどね。


「とにかく、この世界に来ている人をみんな集めればいいのね?」

 私はプロデューサーと一緒にこれからの予定を立てていく。

「そうよ。私も手を尽くして集めてきたけど、なにしろ魔王の身だからね。自分から探しに行くには制限があって」

「いいわ。これからは私が探してくる」


 転生者には少しだけ心当たりがあるの。冒険の間に声をかけた住民の中にちらほらいた、どこか態度がビクビクしていた人たち。きっとあの人たちは転生者だったんだわ。そうでもなかったけど転生者の可能性のある人は……一人一人に訊いて回るしかないわね、「あなたは転生者ですか?」って。うん、ちょっと恥ずかしいけど、見落とすよりはぜんぜんマシね。


 問題は、モンスターになっている人たち。


「モンスターになった人なんて、どうやって見分ければ……」

「彼らは人間の言葉を喋ることはできないけど、理解はしているわ。だから話しかけてそうなら反応するわよ」

「そうじゃなかった場合は?」

「普通に襲ってくるでしょうね、あなたは勇者だから。モンスターになっている人は私が探すから、きららは人里を巡ってきてくれればいいわよ」

 うーん。そうすると、プロデューサーの負担が大きいよね。


 あ、そうだ。


「言葉がわかるなら、私の歌もわかるのかな?」

「わかるでしょうね。会場にいた人たちなら、みんなあなたのファンなわけだし」

 以前に魔法使いが、モンスターは歌やダンスといった情緒を理解しないって言ってたわ。なら、理解するモンスターがいたら、それは転生した人たちなんだ!


「だったら私、歌とダンスの力で、モンスターになっている人たちも探し出すわ」

 私はプロデューサーとしっかりと手を取り合った。


「みんなを集めて、一緒に戻ろうね、プロデューサー!」


「ええそうね、きらら。……まあ、私はあなたをプロデュースできればそれでいいから、この世界で魔王が裏から勇者をプロデュースするなんてのも面白そうだけど」

 ふっと笑みを浮かべて、プロデューサーがとんでもないことを言い出した!


「勇者の姿じゃアイドルできないじゃない! 私はまだまだ可愛い衣装をいっぱい着たいんだから、変なこと言わないで」

「その見た目で可愛い衣装をなんて言わないでちょうだい、怖いわ。でも、女装勇者なんか新しいかも?」

 プロデューサーの顔になってあれこれ考え始めたのはいいけど、内容がひどいよ。


「新しくなーい! 私は女の子に戻って、アイドルしながら僧侶との思い出アルバムを振り返りたいの! この姿じゃ僧侶とほのぼのもできないし」

「おい、僧侶。勇者から愛の告白っぽいぞ」


 ……あ、聞かれちゃった。今まで必死に隠してたのに。僧侶の優しさに甘えたくなっても必死に我慢してきたのに。

「私は……世界を救う勇者どのが望まれるなら、彼に奉仕するのも私の務め……!」

 戦士につつかれて、僧侶が一大決心を固めてくれた。

 う……嬉しいけど、勇者のまま受け入れられても嬉しくないよー!


「今の勇者に世界を救う気はあるのか?」

「よくわからんが、揉めているのはわしのせいか? いやしかし、わしは勇者しか召喚しておらんしの」


「勇者さまは、これからどうなさるおつもりなんでしょうか……」

 ヒロインが不安そうに言う。

 私も不安。

 でも、私は絶対にやりとげてみせる。


 絶対にみんなを見つけて、現実の世界に戻るんだから!

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