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パーティメンバーと出発

 いよいよ旅立ちの朝。


 宿を出ると、パーティメンバーの戦士と僧侶とヒロインが待っていた。


 ちなみに魔法使いは、昨日から腰を痛めているから後から追ってくるって。……腰痛じゃなくて、ふんぞり返りすぎて背筋を痛めたんじゃないかなあ。


「これから長い旅になると思うけど、よろしく頼む」

 長くならないといいなと思いつつ、私は三人にあいさつをした。

 昨日は紹介されただけだから、正面から話すのはこれが初めて。


 すると、僧侶が一歩近づいてきた。

 神に仕える敬虔な僧侶。立場が似てるからか王女さまと少し雰囲気が似てるけど、立派な男の人。そして攻略対象キャラの一人。――私の大本命!


「どうしたんです、勇者どの。少々お疲れのようですが。昨晩はよく眠れなかったんですか?」

「僧侶……」

 うわあ、画面越しにしか見られないはずの僧侶が目の前にいるよ……。手を伸ばしたら触れるよ……触ってみたいよぉ……!


「私にできることならなんでもしますよ。……おや。顔に傷がありますね。昨日は気づきませんでしたが」

 傷? 最初に思いっきりつねったところかな。


「これぐらいならすぐに治せます。じっとしていてください」

 僧侶の手が顔に近づいてきた。直接は触れてないけど、つねったところがほんのりと暖かく感じる。


「……はい。きれいになりましたよ」

 僧侶は手を引っ込めるとにっこりと笑った。


 優しい。攻略キャラの中で一番好きなんだ。美形で、いつも優しくて、同じ回復系だけど弱すぎるヒロインのことをいつも気遣ってくれるの。もう、ほんっとうに癒しキャラ。仕事に疲れた時は、僧侶との思い出アルバムを見て癒されてたんだ……。


 でも今の私の姿だと、僧侶に甘えると禁断になっちゃうのかあ……。せっかく目の前にいるのに残念。もしヒロインに転生してたら、エンディングみたいに思いっきり彼の胸に飛び込んでみたかった……っ。


「——おらあ、勇者! 冒険に出る前からへたばってるんじゃないぞ!」

 イタっ。


「……戦士……」

「ぼーっとしてんなよ」

 僧侶をぼーっと見つめてたら、戦士が背中を叩いてきた。痛いよ、呼吸が一瞬止まったじゃない。

 でも、強く叩かれたのに体が吹っ飛ばなかったわね、私。やっぱりこの体って頑丈だね。


「魔王城は遠いぞ。一晩ろくに寝られなかったからってへたばってたら、魔王城までたどり着けないぞ」

 戦士が私の肩を抱いて顔を覗き込んでくる。


「いや、ちゃんと寝たよ」

 寝る直前に疲れが増しただけで。

「そうか? だったらもっとシャンとしろ、シャンと」

 掴んだ肩をぐいぐい揺らしてくる。痛いってば。


 やっぱり戦士は元気だね。ゲーム越しに見ていた時はいいけど、リアルに接している今は、この元気はちょっときついかな……。友人としてなら頼もしく思えるかもしれないけど。……ああそうだ、仲間としても頼もしいかな。魔法使いがしばらく来ないから、どうしても攻撃は戦士に頼ることになるし。


 ……あのおじいさん、冒険で求められるのは魔法使いの火力だって言ってたくせに……。


 攻略対象である僧侶と戦士とは、旅先でサブイベントを拾っていくと親密度が上がっていくの。一緒に酒場に行ったり、釣りしたり、ジョブアップのお祝いしたり。仲良くなると、家族のこととか、どうして勇者のパーティに志願したのかとか教えてくれるようにもなったり。


 基本的に、この二人とのイベントはほのぼのばかり。パーティメンバーとケンカした状態で一緒に旅を続けるのなんてつらいから、この辺はよかったと思う。


 肩を掴んで離してくれない戦士に困っていると、小さな影が近づいてきた。


「勇者さま。私、せいいっぱい頑張りますので、よろしくお願いします!」

 わあ、ヒロインだ。ゲームを遊ぶ時は自分の分身になるキャラだけど、それをこうして目の前にするって不思議だなあ。


 それにしてもヒロインがちっちゃいなあ。現実だと私が小柄な方だったけど、男の人の目から小柄な女の子を見るとこんな感じなんだ。なんだか、ギュッてしたくなっちゃう。会ったばかりの相手にそんなことしないけどね。


 ヒロインは前向きな子。お母さんのために勇者の仲間に志願して、採用されたから足を引っ張らないように頑張るの。……まあ、どうしても引っ張っちゃうけどね。弱すぎるのよ、ヒロイン……。


 よくよく考えると、勇者である私とヒロインが結ばれる可能性もあるのね。普通に冒険してたら彼女と勇者のルートに入ることは絶対にないと思うけど……ちょっと怖い。ヒロインは可愛いけど、そういう意味で感じている可愛いじゃないから。


 ヒロインが戦闘で一回でも倒れたら、もう可能性はなくなるのよね……。そこが、一週目の勇者攻略なんてムリだっって言われてる最大の理由。


 ――ああ、ダメダメ! 女の子をわざわざ倒れさせるなんて。ゲームとしてプレイ中ならともかく、今はこの世界の一人なのに、仲間が倒れないかななんてひどいこと考えちゃった。


 「かばう」のスキルはありかな。本当は好感度が一定以上上がったキャラがヒロインに対してするものだけど、勇者だし、いいよね、仲間だからって理由で発動しまくっても。この屈強な体をそういうところで活かさないとね。か弱い女の子は守ってあげないと。

 ……本当なら、私が守られる立場だったのに、ね……。


 ううん、頭を切り換えなきゃ。

 今の私は勇者きらら。この世界の希望の星として、魔王を倒してこの世界を救うの。必ずやりとげてみせるから!


 現実世界のことは、その後でね。

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