ある忠犬の話。 ーある帝大生の告白ー
突然ひらめきました。なにかあるかも。
明治時代のはじめ頃。私は東京で大学生だった。
下宿で読書に倦んで外に出てみることにした。
真夏の炎天下に私はある屋敷町を歩いた。
ある屋敷の前まで来たとき、この屋敷の門は開け放してあったのだが、イヌとネコが屋敷の前庭で話をしているところを見た。
イヌ「お前はいいな、自由で」
ネコ「そのかわり餌が不自由だ、おれは野良だからな。お前はいいな毎日餌が貰えて、しかも犬小屋という住まいがあって」
イヌ「ああ、それはありがたいことだ、すべてご主人さまのおかげだ」
ネコ「だが、気を付けろよ。この屋敷の主人は二日後に死ぬぞ」
イヌ「なぜだ」
ネコ「死神から聞いた」
私は門の前で立ち止まって彼らの会話を聞いていたのだが、また歩いて下宿屋に帰ることにした。
静かな夏の昼下がりだった。このような時には『魔』が現れるものだ。
蝉しぐれのなかを歩いた。
やはりすごく暑い。
イヌやネコが人語を話すはずはない。これはやはりこの暑さのせいで幻覚を見たのだろう。つまり文字どうりの『白昼夢』なのだ。
私は本当に『白昼夢』にするために、安下宿に帰って部屋で昼寝をした。
二日後、やはり私は気になってならないので午後にまた屋敷まで行ってみた。
門はあいかわらず開け放してあった。
この家の主人とおぼしき初老の男が前庭の犬小屋の前で泣いていた。
犬小屋の前にムシロがあって何者かを覆っていた。
ムシロと地面のすき間からイヌの足のようなものがわずかに見えた。
どうやら主人の身代わりにイヌが死んだようだ。
彼はまさしく忠犬である。
「いい気になるなよ。次はおまえの番だ」
私の足元でネコが言った。
私は恐怖を感じ走って逃げた。
蝉しぐれの中を走った。
ここは屋敷町裏通りです。
このようなところは真夏ということもあって、道の両側は庭木が鬱蒼と茂っていて気持ちが悪い。
私は表通りをめざして走った。
人の多いところなら安心ができる。
―裏道を抜けて大通りへ出た。
勢いあまって、当時流行ってい鉄道馬車の線路にまで走ってしまった。
線路の上を箱型の客車を轢いたウマが走るのです。
馬車がせまってくる。
馬車の御者は必死になってウマを止めようとするが間に合わない。
ウマが叫ぶ。
「馬ッ鹿か野郎!」
-私は馬車に轢かれて死にました。
これが私の死の原因です。
ハイ。次はあなたです。
なんとか話として纏まりました。
ちかごろ本当に暑いですね。