オープニング
女の子と仲良くなるゲーム(いわゆるギャルゲー)の原作として作成しました。楽しんでいただければ幸いです。
本編に入る前にこの世界のことを話しておきましょう。この世界は自然が地を覆う、緑と実りの多い世界。人はその中に生きるいくつかの種族の一つにすぎません。人の他、亜人種や精霊、魔物といった種族が存在しています。その者たちは多くの自然の力を吸収し、形に変えて使う…この世界では魔法と呼んでいますが、それを使うことができました。そしてそれを使う、使えることが人の資格とされ、そのための学校を出て様々な職に就くという人生が当たり前になっています。その者たちは剣という武器を持ち、魔法という力で自らが敵とみなした者たちと戦って自分たちを生かしてきました。この世界は生活の根底に剣と魔法がある…そんな世界なのです。
そしてここ、アスタルの町にある魔法学校では卒業を間近に控えた生徒たちに遠くの町や国まで旅をさせ、それをレポートに書かせるという卒業試験がありました。この魔法学校には魔法科と剣技科があり、この二つの生徒同士がコンビを組んで旅に行くことになっています。
主人公は剣技科に通う生徒。剣術の腕はピカイチ。名前はアイン。彼は今旅立つ日を前に控えてパートナーを捜していました。
Magic School
〜魔法学校卒業レポート〜
アインは授業もほとんどないその学校にいます。今日から三十日間はパートナーを見つけてそれを先生に報告するという準備期間です。
どうせなら女の子と一緒に行くべきだろう。と彼は考えます。魔法科と剣技科の生徒はそれぞれ三十人ほど。男女の比率は六対四です。剣技科は男の子が多いですが、何せ魔法の資格が将来にも影響しかねない世の中ですので魔法科の方は約半々の男女比率がありました。
これといって仲のいい友達が魔法科に多いというわけでもなかったアインはこれを機にかわいい子と仲良しになろうと考えたわけでした。その方が自分自身にとっても得があると考えたようです。
しかしただ歩いているだけではどうにもなりません。
「どんな子にすっかね」
すれ違う時にちらっと顔を見てはを繰り返します。学校内を適当に歩いて、決める根拠でも探しているようです。
「ん? 何のとりまきだ?」
廊下を曲がるとたくさんの人だかりが見えました。その中にはクラスメイトもいます。アインはそこに近づきました。そしてそのクラスメイトに声をかけてみました。
「よお、何があるんだ?」
「ああ、アインか。おまえもユン姫にパートナーを申し込みに来たのか?」
「ユン姫? ああ、この国の姫か」
ユンはこの国の姫です。いずれ女王となる彼女は今のうちにふつうの女の子としての生活をしておきたいと望み、この魔法学校に来ました。成績優秀で男女の隔たりなく友人が多いようです。
「俺には合わないな。遠慮するよ」
アインは人だかりの隙間にユンの顔を見てそこから立ち去りました。
それからいろいろと歩き回ってパートナーを捜します。アインは魔法が上手い子とか、いざというときの戦闘に慣れた子を探しているわけではありません。魔物との戦いは彼が幼い頃から父親に教え込まれてきたことがあるので得意ではありました。ですから戦いに関してはどうでもいいのです。要するに女の子であれば、と言うことなのでしょうか。
そしてその日の終業時間が来ます。この時期は午前中だけなのでそろそろ人もいなくなる頃です。
アインはまた明日にしようかと考えて学校から出ました。そして家に帰ります。
その前に晩御飯の材料でも買おうかと商店街へ向かいました。彼の家族は最強の剣術者と謳われる父しかいません。ですがその父も旅から帰ってきません。母は彼が幼いころに亡くなったようですが、父に聞こうとも思いませんでした。それは父から話さないためとアインは思っていました。
「ども。まだある?」
行きつけの店に入ってそこの叔母さんに声をかけました。
「おや、アイン。学校はもう終わったのかい?」
「ああ。そろそろ卒業試験だからね」
「そうかい。…っと、まだこの時間だからいいのがあるよ」
店の叔母さんは適当に野菜を袋詰めにしてくれました。
「ども。…じゃあ」
アインはお金を払って店を出ました。手には野菜や肉の入った袋を持っています。
見慣れた道を歩き、家に帰ります。そしてある角を曲がろうとしたとき、そこから人が出てきました。
「おっと」
アインはぶつかりそうになって退きます。
「あ、ごめんなさい」
「なんだ、ネイじゃないか」
アインはその人の顔を見て言いました。
ネイと呼ばれたその子はアインの近所の女の子です。彼女も魔法学校に通う生徒でした。
アインをみてネイはほっとしたように口を開きます。
「アイン…大丈夫だった?」
「ああ」
「これから帰るの?」
「そうだけど」
アインはいつものように言います。ネイは何か聞きたがっているようにアインのことをじっとみていました。
「どした?」
そのネイの視線に気づいてアインは言いました。
「ううん、なんでもない…」
「ネイはパートナーは決まったのか?」
「えっ、…う、うん」
「そうか。これで俺が考えていた候補は一人へっちまったってわけか」
アインはそう言って歩き出しました。
そしてネイはそのアインの言葉を聞いて彼をじっとみて、それを追うように走り出しました。
「待ってアイン。一緒に帰ろう?」
「ん、ああ。でもおまえはどこかへ行こうとしてたんじゃないのか?」
「いいの」
ネイはアインに並んで歩き出しました。ネイの家はアインのすぐそばにありました。彼女とは近所で、幼馴染みの女の子と言うことになります。
「今日の晩御飯?」
「ああ」
「一人で大変でしょ」
「そうでもないさ。何せ一人分しかつくらないんだからな。それに好きな味付けができるし」
「あたし、てつだってあげようか?」
ネイは肩口までの髪を風に流しながらアインに言いました。
「…うれしいけど、そのお返しが俺にはできそうにないしなぁ」
「お返しなんて、アインらしくない言葉じゃない」
「そうか?」
「ね? いいでしょ?」
ネイはアインに迫るように顔を近づけました。
「じゃあ、頼もうかな」
「うん!」
そして二人はアインの家へと向かいました。
日が落ちた頃です。アインは学校のある日しか昼食を取らないのでこれから晩御飯の準備をしようということになります。
アインとネイは台所で調理を始めました。
「大丈夫なの?」
「食えりゃあいいんだって」
「そうかもしれないけど」
ネイが切った野菜をアインは適当に焼きます。
「アインは、朝御飯はどうしてるの?」
「食べないさ」
「…じゃあ今日は晩御飯だけってことなの?」
「そうだな」
ネイは包丁を持つ手を止めてアインを丸い目で見ました。
「お腹減らない?」
「そりゃあ、少しは。でも体動かさなきゃあなんとかなるさ」
「あたしは動かさなくても減るわよ?」
「それが普通だろ? よっと。俺は一人だし、働くにも学校のない時じゃないと出来ないから。無駄な金を使うわけにはいかないのさ」
アインはできあがった炒めものを皿にあけました。香ばしい香りが暖かい湯気を立てています。
「そうだったの…」
「ま、今はもう慣れたからな」
ネイはそれを聞いてせめて今だけはと思い、料理を続けました。
アインとネイは十五年ほど前に会ったのが最初でした。アインはこの町で生まれたのですが、幼少の頃から父に付いて旅をしていたので町にいることがほとんどありませんでした。そして、アインが成長すると父は剣術者らしい台詞を吐いてアインを一人立ちさせることにしたのでした。
アインは何かやりたいことを見つけるまではとこの町に住んで人並みに学校に通っています。
「もうすぐできるわよ」
「すまないな」
アインはそう言いながらフライパンを洗っています。
「ネイ、食べていくか?」
「え、でも、アインの貴重なご飯をもらうわけにはいかないでしょ」
「かまわないよ。そのかわりピンチの時にご馳走してくれれば」
「ふふ、いいわよ。じゃあご馳走になろうかな」
「作ったのはネイだって」
そして料理が終わりました。アインは食器の用意をしています。いつも一人なので普段開けない戸棚からも皿を出しました。それをテーブルに置きます。するとネイが座りました。
「結構片づけてあるんだ」
ネイはアインの家を見回しながらいいました。
「散らかそうにも、物がないからな」
「…もしかして、あたしって嫌なことばっかり聞いてる?」
「そんなことないさ。それにネイなら許してやるって」
「…ありがとう、アイン」
そして二人は晩御飯を食べます。アインは一人じゃない食事に多少の嬉しさを感じました。
「旨いじゃないか」
「本当に?」
「ああ。…自分でそう思わないのか?」
「自分で作ったものは何だって美味しく感じるじゃない」
「そんなもんか? 俺は不味いと思うこともあるぞ」
二人は話をしながら食事を続けます。ネイはアインに遠慮しているのか、あまり取らずに出されたライスを食べていました。
「ネイはどんな魔法が得意なんだ?」
「あたし? 攻撃系かな」
「そうか。たのもしいな」
「でも旅に出ても使わないでしょうね」
「そう? まあ、それは行く場所にもよるけどね」
「…そっか、アインは魔物と戦ったことあるんだよね」
「ああ」
アインは食べながらネイと話をしています。
「あたしはアインと一緒の方がたのもしいと思うけど」
「剣は親父の影響だし、他に取り柄がないからね、俺は。魔法を覚える頭も」
「魔法なんて面白い物じゃないわよ。…女の子は特にね。精神に影響するから、体の調子が悪いときにはほとんど使えないもん」
「…そんなもんなのか」
そして、二人とも食事を終えてお腹を落ちつけるようにしばらく話を続けました。もう夜も深まり、人通りのある路地からの人の声もしなくなった頃でした。
「俺も早くパートナーを見つけないとな」
「…女の子目当てなんでしょ?」
「まあ、ね。はははは」
「試験なんだから」
「分かってるって。変なこと考えるなよ」
「…もう! そんな意味で言ったんじゃないのに!」
「はははは。……ん、もうそろそろ帰った方がいいんじゃないのか?」
「あ、もうそんな時間なんだ」
アインが立ち上がるとネイもつられるように立ち上がりました。そして玄関へ向かいます。
「送ってこうか」
「すぐそこなのに。いいわよ」
「すぐそこだからさ」
アインはネイと家を出ました。そして数件隣のネイの家に向かいます。
「久々に旨いものを食わしてもらったよ」
「そんな、大袈裟よ」
と、話しているとすぐにネイの家の前につきました。
「じゃあな」
「うん。また手伝うから、いつでも言ってね」
「ああ、そのときは頼むよ」
そしてネイはアインに軽く手を振って家に入っていきました。
アインはネイと旅に出ようともっと早く気づいていればよかったと感じていました。彼女は学校の中で一番自分を知っている子ですし、アインもまた彼女のことを他の子よりも良く知っています。友達というお互いではありますが、アインはそれ以上でもいいだろうとも感じていました。ですが、彼女ははっきりとした子なのでそのそぶりこそ無いと言うことはそれ以上でなくても、今のままでもいいと思っているのだろうと感じました。たった一つの彼女の行動ですべてを知ることは出来ません。今日のことも彼女の性格がそうさせたのでしょうか。
アインはこれ以上考えるとよくない方に向かいそうだと感じて、家に戻りました。
翌日です。今日もパートナーを見つけようと構内を歩くアインがいました。そして、ユンの取り巻きがまたいるのをみました。
「あの姫さんもまだ旅に行かないところをみると決めかねてるってことなのか?」
その横を通り過ぎて、中庭に行くことにしました。階段を下りてそこに向かいます。
と、階段を下りていると先の角から本が滑ってきました。
「何だ?」
アインはそれを手に取りました。そして角を曲がります。そこには廊下にいろいろな本を落としたと見える女の子がいました。その本の数は十数冊はあります。
「…」
彼女は黙ってそれを集めています。アインが前にいるのに気づいているのか、アイン自身には分かりません。
「これも、君のかい?」
「…はい、すみません」
本を差し出すとその女の子はそれを積み上げた本の一番上に重ねました。そしてそれを持ち上げようと言うのか、最下段の本に手をかけています。
「…あっ」
案の定、本は再び廊下に散らばりました。アインはそれをみて少し笑いそうになりながら本を拾います。
「手伝うよ。その数じゃ持ちきれないでしょうに」
「はい、すみません」
アインは本を拾いながら、それらが他の国の地図や町の経歴を表した物であることに気づきました。
「図書室かい?」
「はい。すみません、手伝っていただいて」
「いいさ。…君はどこへ向かうか決めてる段階なんだ」
「はい」
「俺はまだパートナーが見つからなくてね」
「私もいません」
「…一人で行くの?」
「ええ、そのつもりです」
一応、決まりでは二人一組が原則ですが、何分剣技科と魔法科の人数が合わないので一人で行くことも可能ではありました。
「まあ、危険な所にいかなきゃ一人でも大丈夫だろうけどね」
アインは本をかついで図書室へその子と向かいました。
「危険じゃないところ、知ってますか? よかったら教えてください」
「そうだな…セントネイルに向かう道なら、おそらくね。あの道は商人の荷馬車がよく通るから、乗せて行ってもくれるし」
「そうですか。ありがとうございます」
その子はあっさりと礼を返しました。アインはその言葉に信じていないか適当に時間をつぶすため話しかけてきたのかと思いましたが、あまり重要でもなさそうと感じ、図書室への足を早めました。
そして図書室に本を返してそこを出ました。
「ありがとうございました」
「いや、かまわないよ。…よかったら、名前聞かせてくれる?」
「私、テスといいます」
「俺はアイン。じゃあ、実り多き旅を。ね」
「ありがとうございました」
アインは事務的に話をするテスを不思議に思いながら彼女と別れました。
人と話すことが嫌なようには感じませんでしたし、男が嫌いといった雰囲気もありませんでした。彼女から事務的ではありますが話しかけてきたこともあります。アインはそう考えながら人の集まる中庭にいってみました。
普段も人がよく来るところでしたので、授業のないいまはほとんどの人がここにいるのではと思うほどの人です。
アインは辺りを見回します。急いでパートナーを見つけることもありませんが、お気に入りの子が遅れることにより減るわけです。
しかし、そのお気に入りの子も見つからないのではどうしようもありませんでした。
木にもたれて行き交う人を見ているアインでした。
「よお、アイン」
と、そこへクラスメイトが声をかけてきました。
「おう」
アインは声を返してその彼の横にいる子をみました。
「決まったんだな」
「ああ。西に行ってみることにしたよ。大丈夫だろ? あっちの方なら」
「そうだな。おまえの腕なら大したことないと思うぜ」
「アインに言ってもらえっと安心するぜ。じゃあな」
魔法を使う者と剣を振るう者同士でコンビを組み、お互い無くしては旅をなし得ない、共存の教えがこの試験のモットーではありましたが、年頃の生徒にとっては異性を知り合う機会となっていました。普段から思いを寄せていた人と旅をする。これはその思いを持つ人にとって、もしくはお互いにいい影響を与えるようでもありました。
「アイン」
アインは声の方をみました。
「ネイか。出発はまだなのか?」
「う、うん」
ネイはアインの横に座りました。
「アインはまだ見つからないの?」
「ああ。長いと半年は一緒にいることになるからな。簡単には決められないよ」
ネイはちらりとアインの顔を伺いました。
「そうよね…」
「どうした? 別にすぐに決まった奴に言ってるわけじゃないぞ。ただ俺はそう思うだけだから」
「うん、わかってる」
アインはネイがいるとパートナーを探すことに引けを感じました。そしてそう感じた自分に笑いました。
「今日はやめとくか」
そう言ってアインは木から離れます。それをみてネイも立ち上がりました。
「焦ってもしょうがないしな」
「帰る?」
「ああ」
「そう…じゃああたしは準備があるから」
「ん、じゃな」
アインはネイに手を振って学校を出ます。そして学校の門に来たところでユンがいるのをみました。回りには何人かの剣技科の生徒がいました。それは男子だけでなく、何人かの女の子もいます。
「すみません、みなさん。わたくし本日は所用がありますのでこれから帰りませんと」
アインはユンの声を初めて聞きました。その取り巻きを通り過ぎるとき、彼女の顔を見ます。ゆくゆくは女王となる彼女は自分よりも一段上に立っているような雰囲気がある、アインはそう感じました。
そこへ城からの馬車が到着します。取り巻きはまだあきらめずにユンに話しかけています。
「みなさん、姫はこれより大事な用がありますので…」
馬車から降りてきた初老の男がとりまきの連中に言います。
「すみません、みなさん」
ユンは頭を下げてその取り巻きの中から出ました。
この国の姫に頭を下げさせるとはこいつらはいったい何様と、アインは思いましたが、自分には愛国心はこれといってないことを思いだしながら馬車に乗るユンを見ていました。
「まだユン姫はパートナーを見つけてないのか」
「ん? ああ、アイン。そうさ。だからこうして頼み込んでるってわけだ」
「どうして彼女なんだ? やっぱり姫君だからか」
「それも、あるか。だが、俺たち庶民にはまたとないチャンスだろ。姫君と旅が出来るなんてな。しかもこっちは同じ生徒として、だ。彼女がここの生徒じゃなくなったら衛兵にでもならない限りこんなことは出来ないからな」
「……」
そういう言い方もあるのか。と、アインは感じました。
「まあ、がんばってくれ」
「おう。旅から帰ったらお前にも、おもひで話を聞かせてやるよ」
「そんなことは旅に出ると決まってから言うもんだって」
アインはあきれながら学校を後にしました。商店街で買い物をし、家に戻りました。いつもより多めに買った食事の材料を台所のテーブルに置いて家を出ます。今日はいつも行っている修行場に行こうと思っていました。そこは町の外にあり、よく父と来たところでした。
回りは木々に覆われ、風がざわめく以外の音は何もありません。夕方近くになるまで、アインは剣技を振るいました。
一通りの型を振るいながらアインは考えていました。パートナーが見つからないのは自分がどこへ行こうか決めていないからだろうか? と思いました。しかし、決めておいても見つかるとも思えません。そしてこの国ならどこも一度は訪れたことがありますので、もしいいレポートを書くとなれば他の国まで行かなければならないことになります。
ですが、やはり自分よりパートナーが行きたいところへ行くのがいいだろうと思いました。多少危険でも自信と腕があるのでその辺のことは気にしなくてもいいのです。そして、その方が父から受け継いだ剣技も生かせることになります。
気が付くと日が落ちていました。アインは辺りが暗くなって気づきます。そして町へ戻ることにしました。道のはずれにあるその修行場から出て、町へ向かいました。
「…ん?」
そのとき、後ろで何かの音が聞こえて振り向きました。それは遠く、馬の嘶きとともに聞こえました。
アインはその音が剣戟の音であると理解し、そこに向かいました。どこかの商人の荷馬車が夜盗に襲われていると予測します。
軽く走ってそこへと急ぎました。やがて馬車が見えると同時にそれが何に襲われているのかも分かりました。
「オーガか」
棍棒を持った魔物が何人かの兵士と戦っていました。
「早く町の中へ!!」
兵士は叫びながら剣を振り回しています。アインはその三人の兵を見てまだ新兵であることを理解しました。そして、城の者の誰かが乗っているとも考えます。
馬車は馬が魔物におののいて走ることが出来ずにいます。アインはそんなときにそこにつきました。
「助太刀するよ」
「うわ! き、君は!?」
新兵はアインにも驚いて声を上げました。アインは笑いそうになりながら剣を引き抜きます。
「仲間からはぐれたんだな。オーガは群で生活するからな」
魔物が兵よりも前に出たアインに棍棒を振り下ろしました。が、アインはそれを軽く避け、その魔物の腹に剣を突き刺しました。
「はぁあ!!」
そして切り上げます。魔物は声を出さずに倒れました。アインは動かなくなったのを見て剣から血を払い、鞘に収めました。
「すまない…我々は魔物を見るのも初めてで…」
アインは三人の新兵が情けなく言うのに半ばあきれた顔で聞いていました。そして、馬が落ちついたとき、馬車から人が顔を出しました。
「終わったんですか?」
それはユンでした。アインはその姫の顔を見て大変な国に生まれたものだと言おうかと思いました。
「は、こちらの方が魔物を倒してくださいました」
兵たちは跪いて言います。アインは立ってそれを見ていました。
「…大変だね。これなら君が魔法を使った方がよかったんじゃない?」
アインはユンに言いました。ユンはアインが同級生だと言うことに気づいていません。
「君! 姫に対して無礼だぞ!」
「なにが? 俺は同級生を助けただけだよ」
兵はアインに言いました。魔物がいなくなると兵はもはやアインよりも上になります。
「あなたは剣技科の方ですか?」
「そうだよ」
アインは兵たちにあきれてもはや話をするのも鬱陶しく感じていました。
「ありがとうございました。何か褒美を…」
「…いいよ。…代わりに兵の教育費にでもあてて」
そういってアインは町へと戻ります。しばらく馬車は動きませんでした。そしてアインは家に帰る道で、兵にあのようなことを言って傷つくのは兵だけじゃないかもしれないと少し後悔しました。
家に着くと、鳴るお腹の音を聞きながら晩御飯を作り、それを食べてその日は休みました。
翌日になりました。アインはいつものように学校の中庭にいました。今日は誰かに声をかけてみようかと思っています。それは自分自身のどこかであせりがあるのかと思ってもいました。パートナーがいなくても旅に出るのは不可能ではないからです。
「おはようございます」
アインは聞いた声に振り向きました。するとそこにはテスがいました。
「やあ。おはよう」
笑顔でもなく、かといって怒っているわけでもない彼女の顔を見ました。
「どこへ行くか決まった?」
「はい。セントネイルに行くつもりです」
「そう、がんばってね」
「ありがとうございます。アインさんも実り多き旅を」
事務的な言葉を残して彼女は校舎に入っていきました。そしてアインは再び行き交う人を見ました。自分と同じようにパートナーを捜しているような子を何人か見かけます。その子に声をかければきっと一緒に行くことになれるでしょう。ですが、アインの中の何かがそれを止めます。
その何かは、何かのままで表現や理解できる域まで達しませんでした。
「失礼ですがあなたは…」
声のする横を見ます。その声の主はユンでした。彼女は頭を下げて続けます。
「先日は、ありがとうございました…」
「いいよ、お互い無事だったんだから」
アインはそっけなくなる自分を不思議に感じます。別にユンが嫌いなわけではないのですが、やはり「助けた=褒美」という決まった台詞に自分の剣技の価値を崩されたと少なからず感じたからでしょうか。昨日、アインはそう感じたと思い出しました。
そしてそのユンに目を合わせずにいると、ユンは再びアインに頭を下げてからしぶしぶと校舎の方へと向かいました。
「…ふぅ」
アインは自分にため息をつきます。いまのままでパートナーを見つてもいい旅は出来そうにありません。それはユンのせいではありませんでしたが、アインはそう感じています。おそらく自分の精神状態が何かによって揺らいでいるのでしょう。
一人で行くか、と考えます。人の噂もあまり聞かない遠くの国に行ってみようかと考えました。
「アイン?」
そこにネイの声がして、アインは振り返りました。
「ネイ。どした?」
「ううん、なんだかアインが元気なさそうだったから。ご飯食べてる?」
「ああ。大丈夫さ」
アインはネイの声を聞いて少し落ちつきました。そして剣術を扱う者が精神の乱れを覚えたことに情けなくも感じました。
「なあ、ネイ。俺と旅に行こうぜ」
「えっ?」
「なんてな。ネイはもう決まってるからな」
「…」
ネイはうつむいて黙っていました。アインは木によりかかって言います。
「…すまないな。ちょっと一人で考えたいんだ」
「う、うん…。じゃあね…」
ネイは遠くを見るアインにそういって校舎へ入っていきました。回りは人の声が聞こえていましたが、アインは自分の考えの中に入ります。
誰と行くかを今日決めよう、そう思いました。ですが、いまパートナーの候補をあげるとユンかテスになります。ユンにはあのような態度をとったので了解は得られないと考えます、するとテスになりますが、彼女は一人で旅に行くことにしています。
ネイはもうパートナーが決まっているようですし、残るは二人に声をかけて決めるか一人で行くことです。
アインは長い時間それを考えました。それぞれの子に少なからず興味はあります。ユンはその自らの地位と生徒である差をどう捉えているか知りたい気もしますし、テスは何を目標に魔法を勉強しているのか知りたいと思います。ネイはただ単純に一人の女の子として彼女を知りたいと思います。
※あなたの気になる女の子を選んで、各編を読み進めてください。