婚約者と自己紹介
召喚陣のある部屋を出ると少女に話しかけられた。
「あの、明日からよろしくお願いします。
あ、まだちゃんと名乗ってなかったですね
私、茜です。」
婚約者の名前を婚約してから知るなんて全くおかしな話だ。
そういえば俺も名乗ってなかったな。
「おう、俺はユーリ・リヒテンベルガーだ。
よろしくな、姫さん。」
「姫さん?」
「魔界に生まれてたら間違いなくお姫様だし四ノ宮財閥?だっけか?大企業なんだろ?世が世なら立派に姫様じゃん。だから姫さん。」
姫さんはなんだかほうけたような顔で止まってしまった。
「姫さん?どーした?」
「な、なんでもないです!
あ、ここをユーリさんのお部屋として使ってください!中に制服とか用意してありますから!じゃあおやすみなさい!」
やけに早口でそう言うと姫さんは行ってしまった。
「お、おう、おやすみー」
とりあえず部屋に入ると確かに服が用意してある。
ふむ、なかなかいい部屋だ。
それにしても昨日の今日ならぬ今日の今日で転入の手続きやら制服の手配やらができてるなんてすごい手際の良さだな。
素直に感心する。
流石この国有数の財閥っていうだけのことはあるな。
なんてことを考えながら用意された制服に袖を通しているとドアが開きムカつく男が現われる。
「お前は明日から茜の従兄弟の四ノ宮有理として櫻沢学園に転入することになっている。
クラスも茜と一緒だ。ボディガードなのだから当然だがな。
いいか、間違っても婚約者とか言いふらすなよ。わかったな。」
婚約者うんぬんはいいとして…
「え、名前も変えんの?」
「一応な。」
「ふーん」
まぁさっさと犯人捕まえて魔界に帰ればいいだけか。
婚約もそん時に解消すればいいや。
「ところで、お前のそのツノはどうにかできないのか」
男が俺のツノを睨みながら言う
睨むことないじゃんか。ツノの大きさは魔力の大きさに比例する。俺の立派なツノはそれだけ魔力が高い証ってことだ。
それを否定されたようでちょっとムッとしつつも答える
「適当に姿惑わしのまじないでもかけとけば大丈夫だろ。
ごく稀にお前たちみたいな魔力の高い人間には見えちまうかもしれないがそん時はコスプレですぅとかなんとか言っときゃいい。」
「そうか。まぁ頼んだぞ。」
そう言って男は部屋から出て行った。
なんだか最後にあの男にしては殊勝な態度をしていった気がするがおそらく気のせいだろう。
何はともあれ明日からは学園生活がはじまる。
少し、ほんの少しだけ楽しみにしている自分に気づいて恥ずかしくなった。