魔王38951歳の夜
魔王は呟く。
また一つ歳をとってしまった、と。
彼は本日38951回目の誕生日を迎えたところだ。
随分長く生きているのに一つ歳をとるのがそんなに気になるものなのかと疑問に思う。人間みたいな感性を持っている…というか随分と俗っぽい魔王だ。
そんな俗っぽい魔王が側近に話しかける。
「俺も38951歳だ、そろそろ王位を譲って隠居でもしようかと思うんだが。」
「そうですね、あと300年ほどしたらそうされてもいいかと。」
側近は慣れた様子でさらりと流す。おそらく毎年のことなのだろう。
「…その頃には王子様方も立派に成長なさっているのでは?」と側近が続けると魔王は深いため息をひとつ。
「あいつらも立派に育って俺は嬉しい限りだ。
だがなー、やっぱり王位を譲るとなると不安が残る…か。」
魔王には息子が三人。
長男のカリル、次男のユーリ、三男のアレク。皆それぞれ自慢の息子たちだ。
「カリルはしっかりしているし常識的だ。一番安心できる。しかしどうも常識的すぎてこの魔界の王になるというのは…荷が重いだろうな…。それにあいつは…」
そこまで言いかけてやめる。
その様子を側近は何も言わずに見つめるのだった。
「ユーリはそうゆう意味では一番魔王に向いているのであろうな。力もある。戦争になったとしてもあいつがいればなんとでもなるだろう。ただあいつバカだからな…。政治とかなんにもできないだろうな。バカだから。」
酷い言われようだ。しかし側近も頷いているところを見るとほんとにバカなのだろう。
「アレクは政治はできるだろう。頭もいい。他国との駆け引きもそつなくやるだろう。
しかしあいつは性格がな、悪い。ひねくれてるどころかねじれまくってメビウスの帯状態だ。信用できるものが一人でもいてくれればいいのだが…まあ無理だろうな。あいつ友達とか出来たことないし。」
どうやら魔王の息子たちはそれぞれに大なり小なり難があるらしくそのせいで魔王は隠居ができないようだ。
ちなみに魔王は38951歳とゆう高齢でありながら見た目はまだ40代半ばくらいだろうとゆうダンディなおじさまだ。
魔族だから歳と見た目が比例しないのだろう。とゆうか見た目の成長が遅いのか。
そんな感じで魔王38951歳の夜は過ぎてゆくのであった。