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誠心誠意

 新たな乱入者は人形だった。

 そいつは俺とシャーレン、両方に武器を向けていた。

 俺へは頭に手を、シャーレンへは心臓に剣を。

 俺とシャーレンは、うかつに動けない状態になってしまった。


「退け。お互いにだ」


 それを聞いて、先に俺が退く。

 どちらにせよ、頭にコアがあることがばれているなら、あまり逆らわないほうが良いだろう。

 ここに来るまで感知できなかったし、こいつは一体なんだ? 十傑作だろうとは思うが。


「シャーレンも退きなさいよ。始末書書くの、わたしなのよ?」


 また新しい女の声だ。

 声の主はシャーレンの背後の森から出てきた。

 赤髪の美女だ。が、格好はシャーレンと同じ騎士団のもの。


 俺はヒメを庇うようにしながら、ズィーベンとヴェイグさんがいる場所まで移動する。

 騎士団ってことは、少なくともこちらの味方ではないだろう。警戒しておいた方がいい。


「……」


 俺が離れるのを、睨むように見てくるシャーレン。

 だが、やがて気が済んだのか剣を引いて下がっていく。


「ツヴァイ、ありがと。もういいわ」


 赤髪美女がそう人形に言うと、人形が頷いて彼女のもとへ行く。

 ……ツヴァイか。クラウスが追い掛け回された相手、だっけ。赤髪の方も、どことなくヒメに似ている。

 だとすれば、あの赤髪はクレアの親類だろうか?


「ヴェイグさん」


「彼女は騎士団副団長のメルヴィという。クレアの姉じゃ」


「……姉」


 とすれば、ヒメの伯母か。

 まぁ、おばさんって言ったら怒られそうだし、普通にお姉さんで通るような美貌だけど。


「貴方がクラウスくんの置き土産?」


 メルヴィさんは俺に視線を向けてきながら、そう聞いてきた。


「……だったら、何ですか?」


「んーとねぇ……」


 メルヴィさんがゆっくりと俺に近づいてくる。

 そのあとをツヴァイが追従している。

 これは逃げた方がいいのだろうか? しかしここまで近づかれては、ツヴァイの固有スキル【シーカー】から逃げ切れるか。

 しかもツヴァイは気配を消して俺とシャーレンの間に割って入った。あれでは接近に気付けない。


 逃げるかどうか迷っている間に、メルヴィさんがもう目の前に迫っていた。

 そして、ゆっくりと俺へと手を伸ばし――


「あーやばい! すごいかわいいわ!!」


 抱き着いてきやがった。

 しかもかわいいかよ。全然嬉しくねえよ。中身男なんだよ。

 って、違う。そうじゃない。なんでさっきまで騎士団長と争っていた俺に抱き着けるような胆力があるんだよ、尊敬するわ。

 ……そうでもないッ。


 俺が突然の出来事に困惑していると、メルヴィさんの目が俺の後ろのヒメへと移った。

 そして俺から離れると今度はヒメに抱き着いた。


「ヒメユキちゃんもかわいいわ! うちに来なさいよ!」


「ぎゃー! 離せです! この淫乱! 売女! 尻軽女!!」


 ヒメちゃん、すっげぇ下品です。

 ていうかそんな言葉どこで覚えた。クラウスか? クラウスなのか?


「冷たいヒメユキちゃんもいいわ!」


「このドM! 離しやがれです!!」


 よし、とりあえず死んだらクラウスに一発正拳だな。


「メルヴィ、その辺にせい。ヒメに嫌われるぞ」


「……あー、わたし、ドワーフはちょっと」


「わしからも願い下げじゃアホ」


 すげぇ、ヴェイグさん全く怯まねえ!

 たぶん俺なら、あんな美人に真っ向から拒絶されたら毎晩枕濡らすな。


「……えっと、メルヴィさん、なんか用があるんじゃないですか?」


 このままではらちが明かないので、話を進める。


「また国として回収するとかいうんですか?」


 そうなったら、全力で抵抗するけど。

 大丈夫だ、いざとなったら大爆発がある。これで時間稼ぎくらいはできるだろう。

 それに、ツヴァイにさえ気を付けておけば、副団長ってことはシャーレンほど強くないってことだろうし。


「えー? 違う違う。君はもう国に届け出したから、もうヒメユキちゃんのものよ」


「……へ?」


「メルヴィ! いつそんな勝手なことをした!?」


 しかし、これにはシャーレンの方が先に反応していた。


「さっきよ。ハインツとかいう燕尾服の変態を送って事情聴取した後、アテナ様の最終番個体として第11番『エルフ』を、ヒメユキちゃんを所有者に届け出したわ」


「そんなこと……!」


「シャーレン、もっとよく考えなさい。あなたは彼に負けたのよ。しかもアテナ様の最終番個体であり最高傑作の彼に、他の十傑作が敵うわけないじゃない」


「ぐ、く……!」


「それとも本気でヒメユキちゃんを人質にとって強行するつもり? それはわたしが許さないわよ」


 ……どうやら、騎士団内も一枚岩というわけではないようだ。

 メルヴィの本気の目に、シャーレンは大人しく引き下がった。


「さ、これでいいわね。今日のところは帰るわ。これ以上戦力を奪われるのも嫌だしね」


 メルヴィの目がフュンフへと向く。

 その目に、フュンフは居心地悪そうに俯いてしまう。


「フュンフ、もう一回シャーレンと契約をするっていうなら、別に許すけど?」


 少しフュンフを試してみる。


「……」


 フュンフは俯いたまま、視線だけでシャーレンを見る。

 だが、シャーレンは鼻息一つ、


「裏切る人形などいらん。契約などこちらから願い下げだ」


「……フュンフも、あなたとはもう縁を切らせてもらいます」


 ふむ、人形にも譲れない一線というものがあるらしい。

 フュンフもまたシャーレンから視線を外し、俺のもとにやってくる。


「ついて行ってもいいですか、エルフ?」


「俺は構わないけど……」


 結局泊まるところはヴェイグさんの家になっちゃいそうだしな。

 視線でヴェイグさんに聞いてみるが、やれやれと言った感じで首を振られた。


「人形なぞ二体も三体も同じじゃ。好きにするがええ」


「ありがとうございます」


 ヴェイグさんに頭を下げる。


「決まったようね。手狭になったら、わたしの家に来ればいいわ。もちろん、ヒメユキちゃんを連れてね!」


「絶対行かねえです!」


 メルヴィさんのありがたい申し出だが、ヒメがこんな様子では行けそうもないな。

 俺は苦笑を返しながら、メルヴィさんに告げる。


「ヒメはわかりませんが、俺は個人的に向かわせてください」


「クラウスくんのこと? 別にいいわよ。クレアも、一応は納得しているようだし」


「いえ。それでも一応は」


「……ま、わかったわ。うちは親がうるさいから気を付けてね」


 そう忠告を残し、メルヴィさんとツヴァイは去って行く。

 シャーレンも、一度俺をきつく睨んでから、彼女らの後を追った。


 残された俺たちは、ヴェイグさんたちが乗ってきたという馬車に乗り込み、マリオネの町を目指した。

 御者台にヴェイグさんとズィーベン。後ろに俺、ヒメ、フュンフ。

 馬車が走り出したころには、昨日からずっと寝ていなかったらしいヒメが、俺の膝を枕にして眠ってしまった。

 人形の脚だから堅いだろうに、その寝息はとても穏やかなものだった。



☆☆☆



 翌日。

 日が頂点に達しようとしたころに起きたヒメは、朝食もそこそこに、工房に入ると言ってきた。

 俺の砕けた方の、アテナが作ったコアを修理するらしい。

 成功するかわからないとのことだが、今はスペアのコアが十分代わりになっているので、時間がかかっても構わない。


 だが、それよりも。

 俺はしなければいけないことがある。

 鍛冶に熱中される前に、今のうちにどうしても済ませておかなければいけないことがある。

 なぜかあれ以来、俺に付きまとってくるズィーベンとフュンフを引き連れ、ヒメ用の工房に入る。


「ヒビキ、どうしたです?」


 小首をかしげて聞いてくるヒメに対し、俺はまず正座した。

 そして、手を地面について頭を下げる。

 土下座だ。

 初めてみるポーズに、人形どもが感嘆のような息を吐いてくる。ヒメは、少し戸惑っているようだ。


「な、何ですその恰好?」


「ヒメ、本当にごめんな。クラウス、お前のお父さんを守れなくって」


「……それは、もういいです」


「いや、俺としてはちゃんと一度謝っておこうと思って。これからは、クラウスの代わりに俺が絶対に守るから」


「……なら、ヒメからも一つ、いいです?」


「何かな?」


 俺は顔を上げて、ヒメに訊く。


「今後、ヒメを守るためでも、ヒビキが命を捨てる必要はないです」


「え、いや、それは……」


「ヒビキはお父さんの代わりです。ヒメの成長をしっかりと見守る義務があるです」


「まぁ、それは……」


「わかったら返事です!」


「はい! わかりました!」


 思わず背筋を伸ばしながら返事をしてしまった。

 いや、別に俺のことを心配してくれるのは嬉しいんだけど……守れずにヒメが死んだら、元も子もないし。

 それだけ危険なときは、悪いけど命を捨てて守ろう。説教ならそのあとに訊けばいい。生きていれば。


「よろしいです。話が終わったなら、出ていくです」


「ああ。邪魔して悪かったな」


 俺は立ち上がって、ズィーベンとフュンフを引き連れて部屋を出て行こうとする。


「ヒビキ」


 出る直前、ヒメに呼び止められる。

 振り返ると、ヒメが間近にいた。


「何?」


「ちょっとしゃがむです」


 言われたとおりに膝を突く。

 ヒメと同じ目線になり、ヒメが真っ直ぐに目を見据えてくる。


 そして一瞬、俺の口に唇を押し付けてきた。


 ……は?


「大好きです」


 そういって、少し顔を赤くしながら笑顔を浮かべるヒメに。

 いろいろと沸いてくる疑問や感情を押さえつけ。

 俺も一言、笑顔で返す。


「俺もだ」

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