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「君には期待したんだけどねぇ」


 目の前には、アテナがいた。

 目覚めた場所は真っ白で、アテナ以外、自分の姿すら見えない。

 初めてアテナと会った場所か。


「そうそう。魂の故郷、とか? あはは」


 笑ってんな。

 それより、何? 俺、死んだの?


「いーや、死んじゃいないよ。コアはまだ健在だからね」


 そうか。

 だったら、なんで俺はこんなところにいるんだ?


「わからないかい?」


 わからないから聞いているんだろ。

 それとも、何か? 人形の体を酷使し続けた結果、魂が定着しなくなってはじき出されたとか?

 ……そんなアホな理由――


「大正解だよ! あと、人形としてあるまじき感情のせいだね!」


 ――……そうかよ。

 だったらもっと強力に接着しやがれ。


「そうはいっても、ボクだって魂の定着なんて初めてのことでさぁ。もしかしたら、君が元の世界で生き返りたいって言ったら、困るじゃない?」


 はぁ。確かにそうだな。


「それで、どうする?」


 どうする、とは?

 もう一度、人形の体に戻るか、元の世界で生き返るか、か?


「そうそう。まぁ、後者の場合は記憶も全部真っ新になるけどね」


 なるほど。普通の生まれ変わりってことか。

 それも悪くないな。


「へぇ。君なら、頼まれたことはやり遂げないと、っていうタイプだと思ったよ」


 ああ。俺もそう思ってたんだけどな。

 どうしたんだろうな? 疲れてるのかな。

 なんか、今は全部放り出したい気もする。

 だって、俺はクラウスを殺したも同然だ。それなのに、それを知って、自覚してなお、彼の家族と暮らせっていうのは、なかなか酷だと思わないか?


「……随分と弱気だねぇ。そんな君に、最後のチャンスを与えよう!」


 チャンス?


「今、この時。君が守るべき少女は、どういう状況なのか。それを見て聞いてから、判断してもらおうってね」


 なるほど。

 確かにいいかもな。

 だけど、記憶が残らないなら見る必要もないだろ。


「まあまあ。見るだけならタダだし、見てから決めたって遅くはないだろう?」


 ……まぁ、そうだけど。


「じゃ! 決まりね。さぁ、始まるよ」


 アテナが手を横に振ると、画面のようなものが現れた。

 そして、その画面はマオリ鉱山の崩落した入り口付近を映し出した。



☆☆☆



 自動修復を終えたフュンフが、落盤で塞がってしまった鉱山の入り口を掘り起こしていた。

 ズィーベンとヴェイグも、それを手伝っている。


 別にシャーレンと仲良くなったわけではない。

 ただ目的が同じなだけだ。


 ヴェイグは響がヒメユキを守っていると信じ、早く掘り起こそうとしている。

 ズィーベンは何となく、そうするべきだと思ったから。

 フュンフはシャーレンに命じられたからだ。

 シャーレンはその作業には参加していない。ただ遠巻きに眺めているだけだ。


 シャーレンの任務は第11番『エルフ』を回収することだ。

 届け出のされていない迷宮の財産はすべて国のものなのだ。だからこそ、国から回収の命が下っている。


 フュンフの頭の自爆で負った怪我はすでに応急処置を済ませてある。

 あとはエルフを拾って帰るだけだ。

 連れてきていた騎士たちは、木に縛り付けられていたハインツの保護で全員帰してしまっていた。

 それもそのはず、もしもフュンフの固有スキル【大爆発】を行うならば、邪魔になるからだ。


 マオリ鉱山で採掘しようと思っていた者たちは全員引き揚げてしまっている。落盤が二度も起きたのだ、帰って当然だろう。

 それに騎士団長が怪我を負って出てきたのだ。普通なら逃げるようにして帰ってしまうだろう。


 落盤が起きた入り口付近から、少女の声が聞こえ始めた。

 それを聞いて、ヴェイグは作業の手を早め、シャーレンは剣を持って立ち上がった。


「ヒビキ、ヒメ! 無事か?」


 ようやく響とヒメユキの居場所を掘り当てたヴェイグが声をかける。

 ヴェイグから見えるのは、地面に手をついてヒメユキを覆うようにしているエルフの背中だけだ。


「ヒビキが、ヒビキが返事しないです……!」


 ズィーベンがエルフの体を持ち上げるが、とても動いているような気配はない。

 ヴェイグがヒメユキを抱え上げて穴から出してやり、同じようにしてエルフの方へ向く。


「ヒビキ……」


 エルフの目に、生気はない。

 アテナの十傑作のような光もなければ、それこそ本物の人形のようにただ暗い目をしていた。


 ヒメが近づいて、エルフの胸部を開く。そこには確かにコアが健在していた。

 コアは無事だ。が、エルフが喋り出す気配はない。

 元人間の魂が入っているというのは聞いていたが、話半分程度にしか信用していなかった。

 だが、この姿を見てしまえば本当なのかと思い始めた。


「アテナ様の人形だな。それをこちらに渡せ」


 剣を持ったシャーレンが、彼らに近づいていきながら言う。


「やらねえです! ヒビキはお父さんのものです!」


「お父さん? ……クラウスのことか。奴は死んだ。そして届け出のされていない迷宮の財宝は、すべて国のものだ」


「そんなん知らねえです! ヒビキはお父さんの代わりをしてくれるっていったです!」


「……本気で言っているのか? クラウスは、その人形のせいで死んだも同然だぞ?」


 シャーレンは迷宮でエルフを見ることはなかった。

 だが、迷宮が崩れるまで死にかけのクラウスを前にしていたのだ。


「クラウスの仇を、お前は本当に代わりにできるのか?」


「できるに決まってんです! お父さんがそういったんだから、ヒビキはヒメのお父さん代わりです!」


「……本当に、渡す気はないのだな?」


「とっとと消え失せろです!」


 シャーレンは無言で剣を構えた。

 ヒメユキとシャーレンの間に、阻むようにヴェイグとズィーベンが立ち塞がった。


「……ズィーベン。貴様の契約者はここにはいないはずだ」


「はい。ですが、ズィーベンはエルフに屈服しましたゆえ、エルフを守るのが道理かと」


「なるほど。貴様もコアにだけしなければならぬというわけか」


 フュンフがシャーレンのそばに移動し、2対2の状況になった。

 だが、対等の状況というわけではない。

 片や鍛冶師と契約者のいない人形、片や騎士団長と戦闘タイプの人形だ。

 どちらが有利かなど、訊くまでもない。


「邪魔立てするならば、反逆罪と見做し、処分する」


 シャーレンが、フュンフが、剣を構えて襲いかかった。



☆☆☆



「さて、どうする? あ、安心していいよ。今この時間は、地上世界では止まっているから」


 便利な効果があるもんだな。

 それに、どうする、って言ったって。


「この窮地を救いに降りるか、見て見ぬフリして生まれ変わるか。もう一度降りる場合は、今度は剥がれないよう強力に定着させるよ」


 それ、どうなるんだ?


「君が死んだ場合、生まれ変わりはこの世界で行われる。つまり元の世界に戻れない」


 それ、どうせ記憶も残らないんだろ? 別にどっちでも一緒だろ。


「そうかもしれないね。……まぁ、生まれ変わるのを選んだところで、記憶はなくって罪悪感も一切ないんだけどね」


 そうだよなぁ。これ、エルフに戻ったらまたシャーレンとフュンフに立ち向かわないといけないし、もしかしたら負けるかもしれない。

 その点、生まれ変わるのを選択しちまえば、この瞬間だけの罪悪感を耐えきれば、あとは全部忘れられる。


「そうそう。クラウスのことやヒメユキのこと、ヴェイグのこともシャルロッテのこともズィーベンのこともハインツのこともシャーレンのこともフュンフのことも。これまで蓄積してきたマニュアルの情報も何もかも、真っ新さ。しかも少しくらいなら設定を弄ってくれるように直談判してあげる」


 嫌味にうまい話か。

 でも、そんなもので流されるような奴じゃないさ。


「君は生まれてこの方自分の意志を持ったことがないんだろ?」


 ああ。

 ――だけど、それは前世の話で。


「なるほど。じゃ、君はこの選択を君の意志を持って判断するんだね?」


 そうだな。

 俺の意志で、彼らを助けるか、見捨てるか。

 ははっ、あいつらの命全部俺が握っているって言っても過言じゃないこの状況、すごいぞくぞくするな。


「嫌な性格してるね。で、どうするの? どうせ答えは決まっているんだろ?」


 ああ、決まってる。

 このまま戻ればシャーレンとフュンフに立ち向かい、下手すれば負けて捕縛、そのあとはどうなるかわからない。

 生まれ変わりを選んだなら、罪悪感はあるかもしれないがそれすらすべて忘れて新しい人生を歩むことが可能。パシリをさせられていたことも、転生があったことも、全部きれいさっぱり忘れて、少しは思い通りの設定で生まれられる。

 どちらを選べばいいかなんて、訊くまでもないだろう?


「そうだね。じゃ、少し惜しいけど生まれ変わりだね」

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