操られた者
力を入れて書いていません。
が、楽しんでいただければ幸いです。
どんな世界にも、操る者と操られる者が必ず存在する。
俺がそのことに気付いたのは、とうの昔、小学校時代だ。
俺は小学校時代、クラスの数人からパシリをさせられていた。それがパシリだと気付いたのは、中学に上がってからなのだが。
ともかく、俺は小学校時代から去年入学した高校まで、ずっと誰かのパシリをさせられていたのだ。
俺はどうも、頼まれては断れない性質のようで。それは親譲りなのはよくわかる。
父さんは会社の後輩の頼まれごとでも何でもこなすし、母さんも町内会やらの面倒事を頼まれては断れないような人だ。
だけど、人間、環境に慣れてしまえばそれを疑問にも思わなくなる。
つまり俺は、操られることに慣れてしまったのだ。
小学生時代にパシリをさせられ、中学時代にパシリのスキルを高め、高校時代になればもう極めたといってもいい。
高校入学から一週間ほど経ったころのことだ。
その高校は特に賢いというわけでもないので、不良のような生徒も入学していた。
そしてクラスの不良に、いつも通りパシリを言いつけられた。
そこで俺が取った行動は?
「あ、じゃあ、皆も何か欲しいものある?」
――これがどういう意味か。
いじめとは、いじめる方にもいじめられる方にも責任がある。
パシリもいじめのうちに入るのかどうか知らないが、まあギリギリ違うとして。
俺の金でパシリをさせて、それを不良に渡せば犯罪だろう。
俺のせいで犯罪者を生み出すなんてとんでもない!
そんな無駄な精神で、俺はこれまでに培ったパシリ根性を発揮する。
つまり、俺はクラスのパシリになったというわけだ。
こうすれば、他の奴が金を渡して買ってきてもらう中、数人だけ金を払わないなんてことは罷り通らない。第一、俺にはそこまでの金はない。
不良はパシリの独占ができず、だけど金さえ払えば俺は誰からでもどんなパシリでも受ける。
時には、購買でクラス全員分のパンを買い。
時には、自販機で注文された飲み物を買い。
時には、クラスの打ち上げの幹事をしたり。
とりあえず、俺は、俺の家系は頼まれては断れない星のもとに生まれてしまった。
高校二年になった俺は、今日も今日とてパシリをさせられていた。
学年が変わろうとも、有名人になってしまった俺はパシリをさせられたままだ。そりゃ、毎日毎日昼休みになると両手いっぱいに何かを持って校内を駆け回っていれば、有名にもなる。
教室にいる全員分の注文を聞き終え、俺はさっそく購買部へと向かう。
俺のモットーは迅速かつ丁寧に、だ。いつものように二段飛ばしの勢いで階段を駆け下りていた。
階段の踊り場をターンしたところで、目の前に人が急に現れた。
「えっ」
「え――?」
俺とその子の目が合う。が、一瞬後には体全身に軽い衝撃とともに後ろに倒れ込みそうになる。
しかし、倒れ込んでもいいのは俺だけである。
相手は、階段のすぐそば。そこから後ろに倒れ込めば、転がり落ちてしまう。
それを理解したのか、相手の子はか細く、無意識のうちに、つぶやいていた。
――「たすけて」と。
頼まれた。
そう思わずとも、今のは俺の不注意だし、相手に責任はないわけで。
俺は倒れ込みそうになる体で、無理矢理腕を伸ばしてその子の手を取る。
そして、半回転。
俺が、階段の方へ。
つまり――?
「あっ」
まともな受け身も取れず、そのまま階段に真っ逆さま。
見事に頭から入った。
俺の意識は、そこで途絶えた。
☆☆☆
「あっはははは! 人に『たすけて』と頼まれたから、命張って助けるなんてばかみたい!」
……なんだ? このうるさい声は。
「お! こっちの声が聞こえたか。よかったよかった。せっかく拾った魂だ、無駄にならなくてよかったよ」
目の前には……何とも奇抜な衣装を着た幼女がいた。
「奇抜とは失礼な。芸術だと言って欲しいね!」
……この幼女が言うには、派手な布一枚で上半身を覆い、下半身をパンツ一枚、頭に変な被り物をすることが芸術らしい。
えてして芸術者の感性は凡人には理解できない。そういうことだろう。
「失礼だなぁ。ボクはこれでも、芸術神なんだぜ?」
げいじゅつしん? アテナのことか?
「あれ? なんでボクの名前を知ってるの?」
……いや。俺の黒歴史だ。触るんじゃない。
「ふぅん。まあいいけど。さて、まあそんなことはどうでもいいんだ。偶然の一致っていう可能性もあるしね」
それより、ここはどこなんだ? 俺の体も、なんかないみたいだし。
「だから、最初に言ったろ? 魂だって」
……宗教勧誘ならお断りで。うち、すでに仏教に入ってるんで。
「違う違う! 大体、君はすでに死んでいるんだってのに!」
……死んでいる? 俺が?
あ、だから体がないのか。
死因って、やっぱり墜落死?
「そうそう。女の子とぶつかった際、その位置を反転させて転げ落ち、階段の角に頭を数回打ち付け、挙句に首の骨折。ま、そのおかげで相手の女の子は助かったけどね」
おお、それはよかった。
そして俺は女の子を守って死んだ、と。マンガの主人公みたい――
「まぁ、女の子の方が落ちていた場合、打ち身程度で済んで死にはしなかったんだけど」
えぇー……ここでそのカミングアウト必要? 俺をどん底に落としたいの?
「あえて君の行いを英雄的にするならば、女の子が落ちていた場合、顔に一生消えない傷ができちゃう、ってところかな。だから、かわいい顔のまま、彼女はこの先生きていけるぜ」
……よかったー。ブサイクのために死んだんじゃなくて。
かわいい子を守れたなら、本望だな。はっはっは。
「……君、随分と軽いね? 自分の死を悲しんだりしないの?」
悲しむ? なんで?
俺は生まれてこの方、今の今までで一度も、自分の意志を抱いた覚えはないけど?
「……悲しい子。でも、だからこそ引っ掛かったのかな」
引っ掛かった? 何に?
「ボクの魂を掬い上げに、さ」
はぁ……。いや、意味わからんけども。
「まぁいいや! んなこたぁどうだっていいんだ!」
……随分と張り切りだしたな。
あれか? 情緒不安定なのか? 心障?
「君ぃ、ボクは神なんだって、言ったろ?」
それを信じる確証がないな。
「……まぁいいか。君も、次目覚めればわかるさ、真田響くん」
は? 俺の名前、なんで……?
「君にはボクの最高傑作に入ってもらう! 個体番号11番『エルフ』、最終番個体にね!」
個体番号? 『エルフ』? 最終番個体?
なんだそれ? 意味わから――
「それじゃ! よい第二の人生をッ!!」
おぉい!? なんだそりゃぁぁああああ!?
☆☆☆
目覚めると、そこは薄暗い空間だった。
体は自由に動かない。どうやら、鎖で壁に縛り付けられているようだ。自分ではどうしようもできそうにない。
かろうじて動く首だけを振って、周囲の状況を把握する。
そこはどこかの遺跡の中のようだ。ピラミッドの中、とでも言えばいいのだろうか?
光源は壁にかけられている松明の明かりだけ。正面に入り口らしきものがある。
「つぅ……!」
周りの状況を把握していると、いきなり頭痛がした。
そして、声が脳内に直接響いてくる。
『やぁ! 真田響くん。君の体はどうかな?』
……胡散臭い神様のアテナ様か。
体と訊かれても、鎖のせいで調子なんて確かめようがない。
『魂は上手く定着したようだから、あとは契約者が現れるのを気長に待つだけだよ』
契約者? というか、こんな場所に来る物好きがいるのかよ。
『それがね、この世界にはいるのさ。初めに現れるのが、いい人だといいね』
ああ。お前のような奴は絶対に来てほしくない。
『ひっどいなぁ。これでもボク、君の生みの親になるのに』
……生みの親?
なにそれ、あんなほそっこい体で俺を生んだとでもいうのかよ。
『そっちの生むじゃなくて……作成者って言ったらいいのか』
作成者?
『君の体については、一応マニュアルを入れてある。契約者が来るまで当分かかるだろうから、それを読んで暇つぶししておいてよ』
マニュアル、ねぇ……。
『それと、サービスでヘルプ機能を付けておくよ。君の方から、ボクを呼び出すことが三回だけ可能にしてあげる』
お前なんか呼び出して、どうするってんだよ。
『この世界について、君よりは知っているはずだよ?』
……おい待て。いや、あの空間で最後の言葉から推測はできるが、まさか。
『そのまさか! 君は今、異世界に来ている!』
……帰れるの?
『帰っても、死んでるよ?』
あ、そっすか。生き返らしてはくれないのね。
世界違うんだから、そりゃ無理なんだろうけど……。
『理解が早くて助かるよ! それじゃ、頑張ってね!!』
何を頑張れというのか。
しかし、アテナの声はそれを最後に聞こえなくなってしまった。
それにしても……することがないなぁ。
アテナに言われたとおり、マニュアルでも呼んでおくか。
……マニュアル、どこ? 念じれば出てくるのか?
そんな思考する中、いきなり目の前にマニュアルと書かれた本が浮かび上がった。
なるほど。そうやって操作すればいいのね。
俺は目の前に浮かび上がったマニュアルを、隈なく読み始めた。
☆☆☆
マニュアルを読めば読むほど、アテナの言葉から推測していた最悪な体に転生したことを認めさせられる。
しかし、俺はそのマニュアルの抜け道というか、救済措置を求めて何度も何度もマニュアルを読み返していた。
俺が転生してどれだけの時間が経ったか計り知れない……いや、時計機能の付いたこの体だとすぐわかる。俺が転生してから約1年が経過しようとしていた。
その間、契約者なるものは現れず、俺はただひたすらにマニュアルを穴が開くまで見ていた。
マニュアルの量は半端なく、ちょいちょい休憩を挟んでいるとはいえ、まだ読み終わらない。
「……ふぅー」
転生してから、3年ほどが経とうとしていた。
俺はこの体で初めて、大きな息を吐いた。
「あーあー、ンンッ!」
五年目。
ちょっとした発声練習を開始した。
「すぅー、はぁー……」
7年目。
深呼吸を繰り返した。
「よしッ!」
九年目。
俺は、気合を入れた。
「すぅー、はぁー……。あーあー、ンンッ! よし、行くか」
十年目。
俺は、叫んだ。
「こンのクソ女神があああああああ!!
転生は許そう! 望んだものとは違うが、まあ許そう!! だが、俺は生き物すら許されないのかッ!?」
俺のこの体。
アテナに言われてからなんとなく察していたことではあるが。
転生体は、なんと人形だ。
関節を見れば、球体間接という証明がある。
さらに俺は、前方の扉が開くのも構わずに続けた。
「人形だったら俺は……俺はッ!
二度目の人生でさえ一生童貞じゃねえかあああああああああああ!!」
この体に肺なんてものがあるかは知らないが、俺は声の続く限り叫んだ。
そう、魂の叫びだ。漢の叫びといっても過言ではない。
だが、しかし。
魂の叫びとはいえ、漢の叫びとはいえ、言っている内容は下劣極まりない。
誰かに訊かれでもしたら、かなり恥ずかしいものだ。
俺は叫び終わり、荒く息を吐く。
「え、っと……お前さん、大丈夫か……?」
誰かの声に、絶望した。