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 急な事だったので、結局ゆう兄ちゃんの部屋から荷物を廊下に出して、ゆう兄ちゃんのベッドを雅美のためにおばさんは整えてくれていた。


 この部屋が一番広く使い勝手がいいので、私もここで休むようにといわれる。突然病人連れで押しかけたのだから部屋に文句なんて付けようがない。母に電話で岩淵家に泊る事を伝え、おばさんに母から電話口でお礼を言ってもらう。朝にはすぐに帰るからと、母に言う。


 薬を飲ませベッドで楽な姿勢にさせると、雅美も少しは落ち着いてきたらしい。おばさんが用意してくれていた冷却まくらで頭を冷やしてやると、うとうとと眠り始める。私もホッとして下のリビングに降りて行った。


「どう? 雅ちゃんの様子は」おばさんが聞いてくる。


「横になって落ち着いたみたいです。今眠ってます」


「熱が高いみたいだけど、大丈夫かしら?」


「大丈夫です。今日は興奮させたり歩きまわったりしたから、疲れが出たんだと思います。薬も飲んだし、時期下がると思います。それより突然押し掛けてご迷惑おかけしちゃって」


「それはいいけど、今日はウチの人も出張だから、夕食、本当に簡単に済ませるつもりだったの。雅ちゃんはおかゆでいいとして、久美ちゃん、お腹がすいたでしょう? いっそ何か取りましょうか?」


「とんでもないです。おじさんがいらっしゃらない時だったなんて。恵次、何にも言わないんだもの」


「言ったら遠慮するだろう? わざと言わなかったんだよ」



 なんてタイミングの悪い。いや、そもそも恵次に甘え過ぎたのが原因だ。恵次に当たる訳にもいかない。


 私はありあわせで十分だからとおばさんに言って、台所を手伝った。そのあいだも恵次が時折雅美の様子を見てくれた。


「落ち着いて寝てるよ。薬、効いたみたいだ」


 やはり疲れだったのだろう。大事にはならずに済みそうだ。良かった。



 夕食を一緒に取らせてもらい、片付けて雅美におかゆを持っていく。あまり食欲はなさそうだったが、薬だけでは胃に悪そうなので、少しでも食べさせた。急な高熱で消耗しているようだけれど、一時ほど熱は高くない。一晩経てばおそらく下がる。


 着替えをさせ十分な水分を取らせると、身体が少しは楽になったのか、気持ちが落ち着いたのか、雅美はさっきよりも深い眠りについた。


 私も安堵して下に降りようかと思った時、下から電話の音が聞こえた。おばさんが出ている気配がして、その後何やらバタバタしている感じがする。何かあったんだろうか?


 下に降りて行くと、おばさんが出かける支度をしてすでに玄関に出ていた。恵次もリビングから顔を出した。


「ああ、久美。今声をかけようと思ったんだ。悪いけど母さんをちょっと送って来る。妊娠中の知人が急に入院したらしい。まだ、だいぶ早いはずなんだけどな。すぐに戻るから留守番していてくれ」


「え? ええ、分かったわ」



 何だかよく分からない内に二人はあわただしく出かけてしまった。雅美が目を覚ました様子はない。とりあえず私は恵次が帰って来るのを待った。


 おじさんは留守だし、おばさんも何か大変そうだ。とんでもない時にお邪魔しちゃったな。恵次が戻ったら雅美を起こしてやっぱり帰ろうかしら?


 そんな事を考えて雅美の使った食器を洗い、待っていると、三十分ほどで恵次は戻ってきた。


「悪かったな、バタバタしてて。雅ちゃんは?」


「あのまま眠ってるわ。だいぶ熱も下がったから。私達、やっぱり帰った方がいいんじゃない?」


 宿のキャンセルをするんじゃなかった。そうは思うが、今更仕方がない。


「雅ちゃん、無理に動かす事無いだろう? このまま寝かせてやれよ。それに用があるのは母さんだけ。俺なんか何の役にも立たないよ。大体母さんも何でも安請け合いしすぎるんだ。ちょっとした知人でさえも、身内が遠いのなら自分を頼るようになんて言うから。今度だって入院する時は必ず知らせるようにって、母さんの方が言ったんだ。お節介がすぎて、こんな事がしょっちゅうなんだよ」


「フフッ、おばさんらしい」


 この世話好きのおかげで、私達はここに通って来れたんだわ。


「向こうにいたって病院に任せるしかないのにな。産婆じゃあるまいし。まあ、趣味みたいなもんだろうから好きにさせるさ。どうせ半分はお喋りに行ってるようなもんだ。二、三時間くらいすれば迎えに来てくれって言って来るさ」


「それに付き合っちゃう恵次もいい勝負よ。やっぱり親子ね」


「母さんに馴らされたんだよ。すっかり手懐けられた」


「ご苦労様ね。お茶でも入れる?」そう言って台所に向かいかけたが、


「いや、久美の布団まではまだ用意してないだろう? 二階に持って行かないと、床に転がってもらわなきゃならなくなる。雅ちゃんの隣にいないと久美も心配だろう」


「手伝うわ。ホント、ごめんね。こんな時に何から何まで」


「そこまで恐縮されるほどの事、してないけどな」


 二人で恵次が出してくれた布団を二階に持っていくと、雅美が気配に気づいて目を覚ました。恵次が苦しくないかと尋ねたが、雅美は「大丈夫、楽になった」と答えた。とりあえず熱も引いた様だ。


 私も隣で寝るからというと、雅美も安心したようにまた、眠りに落ちて行く。穏やかな寝息が聞こえる。


 私も安心したが、恵次もホッとしたらしい。恵次は雅美が大病した後のことは知らないのだから不安があったのだろう。


「恵次、ありがとう。やっぱり宿じゃこうはいかなかったと思う。助かったわ」


「いいよ。それより本当にこの部屋に姉妹で泊る事になったな」





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