第零話 おはよう
名瀬川市名瀬川町。
それが、この街の名前。
…と言っても、日本列島から少し離れた場所に位置している島で、諸島に戻るには船か飛行船が必要である。
だから、交通として自動車が使用される事はなく、皆自転車や徒歩で行動している。
この島は、大きさは約2200メートルとされている。
意外と広いが、森や田んぼがその5,6割を占めているため、あまり目立つ事のない話題である。
街と言うべき場所としては、港町がある。
魚介類が豊富にとれ、また移動機関でもある船が使える。
港町の形は空から見下ろせば高いところから海に掛けて三角形状の傾斜のようになっている。
人口は、約2000人。
伊達に人工島ってわけだ。
ちなみに、2000人住めるかと言うと、無理だ。
なぜなら、土地が今の街では狭すぎるからだ。
そこで、とったその市の行動…それが
ユメノミ計画
だ。
ユメノミってのは、漢字で表すと【夢の海】と書く。
なぜ夢の海かと言うと、その市全体を覆う海に夢を乗せるというつまりは、当たりくじを引けますように…と祈った事らしい。
昔、この島にいた一人の男が、将にそれをして、街を作ったんだそうだ。
‐‐‐ 前田家 ‐‐‐
そして、現在…深夜1:15。
俺は、自室で一番の解放空間にて身体を伸ばしつつ、パソコンでアニメの鑑賞かつポテチを食っていた。
…姉貴をどうにかして追い出そうとしていた。
「おい、そろそろ出てくれないか…?」
なんで?と言わんばかりに疑問の顔をこちらへ見せる姉貴。ちょ、それじゃあ今俺の言った事がおかしいみたいになるだろう…。
姉貴は、ほとんど喋らない。口を開くのはご飯を口にする時と深呼吸をする時意外に見た事がない。
なんでも、人と話す事が苦手だそうで、いつもメモ用紙を取りペンでメッセージを書いて会話をしている。
どうしたものか…。
「なんで?って、ここは俺の部屋でもう夜遅いから寝たいんだが…?」
{拒否}
俺の理由を聞くと同時にササッとメモ用紙に書かれたメモを見せられる。
片手でつかんでそれをそのまま突きだす形だ。
「いやいや、拒否すんなって!第一、ここでパソコン開かなくても、そっちの部屋にもあるだろう?」
{一緒に居ちゃダメ?}
「ダメだ」
姉貴の目が鋭くなり、俺を睨む。
こうみると、意外と美人だ。
腰と肩の間まで長い髪に、カチューシャを付けて、前髪を頭部の天辺よりもやや顔に近い所でとめている。
また、一本だけ長く伸びた髪がピコンと電波を受け取っているかのように立っている。
まあ、アホ毛って奴だ。
さらに、クリクリとした猫のような瞳に、18歳とは思えないA級の胸。
今は、パンダの絵柄で、所々に水玉模様が描かれたパジャマを着ている。
{ケチ}
「なんで、そうなるんだよ…それじゃあ俺が姉貴の部屋に行けばいいのか?」
{うん}
冗談で言ったんだが、どうやら向こうはその気が十分にあったらしい。
吃驚だ。
しかし、こうなると…姉貴の部屋に行かないといけなくなるわけだが…、なあ姉貴よ…なぜすぐに俺の後ろに回り込んで肩を掴むのだ…?
{行け}
「…おんぶしてほしいのか…?」
{行け}
二度目のそのメモは、一度目と同じメモを使い、ただ使いまわしただけのようだ。
「…わかったよ…」
俺は渋々と急に体重がかかった身体を動かして、姉貴の部屋を目指した。
この家の構造状、俺の部屋から姉貴の部屋までは一部屋の親の寝室を挟んで隣にある。
ちなみに、ここは二階だ。
「それで、着いたのだが…、俺もう自分の部屋に戻っていいか?早く寝たい」
{どうして?}
「いや、どうしてって…姉貴の部屋に入って得はないからだが?」
{入ってほしい。はい、用事ができた}
「強制送還!?ふざけんなよ!」
{しぃー、ママとパパが起きちゃう}
「…チィ…」
俺は、今のやり取りの間姉貴の部屋の前に仁王立ちしていた。
無論姉貴をおぶってだ。
ガチャ・・・とドアノブを回すと音が鳴る。
そして、中にある部屋が姿を現した…。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
「起きて、もう朝」
「…、成程な…やはり、夢か…」
サァァァ…。
突如として、部屋に光が侵入してきた。
俺はただ眩しくて、手を瞑って、手で顔を覆った。
「兄さん、早く起きて 朝ごはん」
「後5分…」
俺は、布団を胎児の如く姿で包まった。
「ダメ、兄さん…」
この先程から俺の就寝を妨げる少女は、前田 安寿。
要するに、俺の妹である。
そんな俺は、前田 俊成。
安寿は、首と肩の間程度ぐらいのショートヘアーで黒。
また、今は既に制服である。
制服は、ブレザーで、色は青と黒が混ざったような黒い青色。
瞳は、どこからの血か知らないが、紫のような色をしている。
そして、何よりも可愛く、まるで子猫のように大人しい。
いや、主人とではあるが・・・。
子猫は、やはり下に降りた。
この家は、2階建てになっていて、階段を降りる必要があるのは、俺と子猫が2階の部屋だからだ。
これ、いつかこけるんじゃないかと親に言われた。
俺はその時、全然平気だ。 とでも言っていたと思う。
…しばらく日にちがたって、案の定こけた。
階段からゴロゴロと転がって下の階に下りたのはやはり初めてなので、そのまま気絶したそうだ。
まあ、慣れもくそもないわけなんだが・・・。
ともかく、一階につくと、匂いがした。
「シチューか?」
甘い匂い。
一言で表す事の出来ない香りは確かに、俺の鼻を躍らせた。