真夏の夢
その日は、暑かった。ジリジリ照りつける太陽のもと、雅人とあつみは、出会った。
あまりの暑さにに、何人かの人が、大きな大木の木陰で、涼んでいたのだ。そこに、2人は、偶然、隣同士になって、立っていた。どちらからともなく、世間話をして、時間をつぶしていた。
話を聞いたら、同じ会社の違う部署で働いていることが、わかったのだ。2人共、ビックリした。
同じ会社ということもあり、警戒心もなく、連絡先を、交換した。
それからは、毎日の様に、会社の帰りに、待ち合わせをして、2人は、デートをした。雅人は、平日は、毎日の様に、あつみのマンションに、寄っていくようになっていた。あつみは、とても、幸せを、感じていた。
あつみは、24歳で、適齢期だったので、早く、結婚したいと、思っていた。お見合いの話も、たくさん来ていた。社内の同僚からも、言い寄られたりもしていた。
雅人に、結婚の話を持ちかけても、雅人は、のらりくらり、はぐらかすだけだった。
雅人は、そろそろ、あつみとの、別れを考えはじめていた。そんな矢先、あつみが、妊娠したことがわかった。雅人は、あつみに、「今回は、おろしてくれ。」そう、冷たい言葉を投げかけた。
あつみは、産むつもりだった。雅人と結婚して、産みたかったのだ。なぜ、雅人が、おろすように、言ったのか、不信感で、いっぱいになっていた。
雅人は、大変なことになってしまったと、後悔していた。あつみとは、付き合うべきでは、なかった、と。
あつみは、泣いた。せっかくできた、2人の赤ちゃんを、おろせだなんて、無責任にも、程がある、と、思っていたのだ。
2人で、話しあうことにした。雅人は、何度も、「すまないが、今回は、あきらめてくれ。」としか、言わなかった。結婚も、考えていない、とのことだった。
あつみは、納得できなかった。あつみは、たとえ、雅人が、結婚を、先のばしにしても、子どもは、産むつもりでいた。生まれてくる、子どもに、罪はないのだから。
その旨、雅人に伝えたが、雅人は、反対した。一人で、育てるのは、並大抵ではないから、やめた方がいいと言い張っている。
あつみは、雅人という人間が、こんな人だったのかと、がっかりしていた。
話は、平行線のまま、終わった。
ある日の昼下がり、あつみは、散歩に出かけた。ちょうど、公園があったので、ベンチに腰かけて、座ろうかと思って、公園の中に、目をやると、そこには、家族連れの4人で、楽しそうに、子どもが、遊具で、遊んでいた。いずれ、私も、あんなふうに…そう思った瞬間だった。その中に、紛れもなく、雅人がいたのだ。あつみは、頭が、真っ白になった。どういうこと?
雅人には、家族がいたの?雅人は、結婚してるの?頭の中が、ぐるぐるしていた。そそくさと、その場を通り過ぎ、足早に、マンションに戻った。心臓は、バクバクしていた。
家庭があったから、雅人は、私に、産むな、と、言ったのだ。あつみは、だんだん、冷静になってきていた。ヒドイ話だとおもった。悔し涙が、頬をつたった。雅人との関係は、終わりをつげたことが、理解できた。
雅人は、そんなことは、何も知らずに、平然と、あつみのマンションに、やってきた。あつみは、冷静を装っていた。そして、雅人に言った。「私、この子を産むわ。」雅人は、「俺は、何もしてやれないから。」あつみは、思い切って言った。「そうだね、あなたには、奥さんも、子どもも、いるもんね。」雅人は、ビックリしたように、あつみを見た。観念したかのように、「俺が悪かった。」そう、言った。「養育費は、出すよ。」雅人は、ポツリと言った。「どうしても、産むのか?」そう言って、あつみを見た。あつみは、コクリと、うなずいた。修羅場にこそ、ならなかったが、2人は、心情、穏やかではなかった。
あつみは、1言だけ、付け加えた。「私は、あなたの家庭を壊す気は、全くないから、安心して。」そう言うと、あつみは、雅人に、「もう、用がないなら、帰って。」と、言った。雅人は、うなだれて、帰っていった。
あつみは、これから、一人で、産んで育てるのは、大変だけど、頑張って行こうと思っていた。
あつみは、なんとなく、雅人とはじめて会った、大木の木陰に、行ってみたくなった。あの時が、雅人とのはじまりだった場所へ。
暑さは、薄らいで、涼しくなっていた。
あつみが大木についた時、そこに、人影が見えた。誰かと思った。同僚の正樹だった。正樹は、「あつみさんが、たぶん、ここに、来ると思ってたよ。いつも、ここに来るの、知ってたから。」と、優しく、言った。あつみは、胸にグッときた。
同僚の正樹に、打ち明けた。子どもができたこと。結婚はしないで、一人で育てて行こうと思っていることなど。大木の木陰で、話してしまった。
正樹は、「そうなんだね。」と、黙って聞いてくれた。そして、しばらく考えたあと、あつみに、「もう、結婚は、考えないの?」と、聞いた。あつみは、「うん。」と、答えた。正樹は、「オレじゃダメかな?」あつみは、目をまるくして、驚いた。「何を言ってるの!赤ちゃんもいるのよ!」正樹は、「うん、わかってる。おれ、前から、あつみさんのことを、ずっと好きだったから。」そう、言った。
あつみは、正樹に、甘えるわけにはいかないと思っていた。正樹は、「僕と結婚してください。」そう言って、あつみを、抱きしめた。あつみは、だきしめられながら、いろいろ考えた。この子には、父親が、必要かもしれないと。
あつみは、正樹に、「少し、考えさせて。」と言って、正樹と、別れた。あつみは、大木が、正樹と、引き合わせてくれたのかもしれないと、かってに、思っていた。
そんな時、マンションに、また、雅人が、やってきた。妻と別れて、お前と、やり直したいと、言ってきたのだ。あつみは、ずいぶん、身勝手な話だと思った。その時、頭に浮かんだのは、正樹のことだった。あつみは、雅人に言った。「私、結婚することにしたの。だから、もう、やり直せない。」毅然として、言った。雅人は、小さな声で、「わかった。」と言った。
あつみは、正樹に、この子の父親に、なってもらいたかった。包容力のある正樹に。会社で、正樹に、今日、話しがあるから、どこかで会いましょう、と、いった。正樹は、じゃあ、あの大木の木の下で、会おう、と言った。
約束の時間、あつみが、大木の木の下にいくと、正樹は、もう、来ていた。
あつみは、正樹に言った。「これから、いろいろ、あると思うけど、私と子どものことを、よろしくお願いします。」正樹は、喜んで、「ありがとう。よろしくお願いします。」と、言った。
最後まで、大木が、見届けてくれたように思えた。




