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翌日。
社内は、妙に静かだった。
騒がしいわけではない。
むしろ普段通りに見える。
電話も鳴るし、キーボードも鳴るし、営業は営業の顔をして歩いている。
なのに、静かだ。
皆、口には出さないが、昨日の続きを待っている。
そういう静けさだった。
恒一が出社すると、いくつかの視線が刺さった。
あからさまではない。
だが、昨日までの“背景扱い”ではない。
少しだけ見られている。
そのことに、胃が縮む。
嬉しいわけではない。
注目なんて、ろくなものじゃないからだ。
PCを開く。
メールは増えていた。
人事から、午後にヒアリング。
件名は無機質。
“確認面談のご案内”。
くそくらえ、と思った。
この会社が“確認”という言葉を使うとき、大抵は火消しだ。
真相究明ではない。
被害の最小化。
会社にとっての。
『警戒していますね』
ルイゼの声がする。
「そりゃするだろ」
『合理的です』
「褒めてんのか?」
『はい』
この女、本当に淡々と人を変な気分にさせる。
その午前中だけで、二件、妙なことが起きた。
一件目。
堂本が恒一に直接話しかけてこない。
露骨だった。
昨日までなら朝一で何か言ってきたはずなのに、それがない。
代わりに、別の若手を経由して資料修正を投げてくる。
避けている。
あるいは、記録される状況を嫌っている。
二件目。
社内チャットのいくつかのスレッドが、朝のうちにまとめて非表示化されていた。
「……分かりやす」
自席で小さく呟く。
昨日の外注関連の会話。
承認差戻し。
経理からの催促。
それらが入っていたらしいスレッドが、権限不足扱いで見えなくなっている。
恒一には確証がない。
だが、タイミングは露骨すぎた。
そこへ、篠崎が通りがかる。
歩みを止めず、小さく言った。
「消えたでしょ」
「……はい」
「なら、消されたってこと」
「断定していいんですか」
「よくない。だから私は“そう見える”って言ってる」
その言い方に、恒一は少しだけ安堵した。
この人は雑に決めつけない。
少なくとも、今は。
「午後、人事?」
「来てます」
「録音できる?」
「……一応」
「しな」
短い。
だが、重い。
「あと、堂本さん、たぶん一人で落ちないから」
「……どういう意味ですか」
「そのまま。じゃ」
去っていく。
一人で落ちない。
その言葉は、嫌な意味しか持たなかった。




