表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/18

7

翌日。


 社内は、妙に静かだった。


 騒がしいわけではない。

 むしろ普段通りに見える。

 電話も鳴るし、キーボードも鳴るし、営業は営業の顔をして歩いている。


 なのに、静かだ。


 皆、口には出さないが、昨日の続きを待っている。


 そういう静けさだった。


 恒一が出社すると、いくつかの視線が刺さった。

 あからさまではない。

 だが、昨日までの“背景扱い”ではない。


 少しだけ見られている。


 そのことに、胃が縮む。

 嬉しいわけではない。

 注目なんて、ろくなものじゃないからだ。


 PCを開く。


 メールは増えていた。

 人事から、午後にヒアリング。

 件名は無機質。

 “確認面談のご案内”。


 くそくらえ、と思った。


 この会社が“確認”という言葉を使うとき、大抵は火消しだ。

 真相究明ではない。

 被害の最小化。

 会社にとっての。


『警戒していますね』

 ルイゼの声がする。


「そりゃするだろ」

『合理的です』

「褒めてんのか?」

『はい』


 この女、本当に淡々と人を変な気分にさせる。


 その午前中だけで、二件、妙なことが起きた。


 一件目。

 堂本が恒一に直接話しかけてこない。


 露骨だった。

 昨日までなら朝一で何か言ってきたはずなのに、それがない。

 代わりに、別の若手を経由して資料修正を投げてくる。


 避けている。


 あるいは、記録される状況を嫌っている。


 二件目。

 社内チャットのいくつかのスレッドが、朝のうちにまとめて非表示化されていた。


「……分かりやす」


 自席で小さく呟く。


 昨日の外注関連の会話。

 承認差戻し。

 経理からの催促。

 それらが入っていたらしいスレッドが、権限不足扱いで見えなくなっている。


 恒一には確証がない。

 だが、タイミングは露骨すぎた。


 そこへ、篠崎が通りがかる。

 歩みを止めず、小さく言った。


「消えたでしょ」

「……はい」

「なら、消されたってこと」

「断定していいんですか」

「よくない。だから私は“そう見える”って言ってる」


 その言い方に、恒一は少しだけ安堵した。


 この人は雑に決めつけない。

 少なくとも、今は。


「午後、人事?」

「来てます」

「録音できる?」

「……一応」

「しな」


 短い。


 だが、重い。


「あと、堂本さん、たぶん一人で落ちないから」

「……どういう意味ですか」

「そのまま。じゃ」


 去っていく。


 一人で落ちない。

 その言葉は、嫌な意味しか持たなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ