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【日刊上位ランクイン】チャネリングしたら宇宙船の美少女艦長に繋がったので、ブラック企業を辞めて人生を取り戻すことにした  作者: ハイカラな人


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週明け。


 恒一は、正式な退職日と有休消化スケジュールが確定した状態で出社した。


 残り出社日は、あと六日。


 六日。


 たったそれだけ。

 それだけなのに、六日もあるとも思った。

 人が嫌な場所にいる時間は、少ないほど長い。


 だが、以前と決定的に違うことが一つある。


 もう、終わる日付が見えている。


 その違いは大きかった。


 堂本は来ていない。

 “体調不良”は継続中。

 フロアでは誰も名前を大きく出さないが、皆知っている顔をしている。


 三島が前に立って短い朝会を回す。

 ぎこちない。

 でも、少なくとも怒鳴らない。

 それだけで文明度が上がったみたいに感じるのが悲しい。


 朝会のあと、恒一は自席で社外向けの短い文面を打っていた。


 営業文面だ。


 短い自己紹介。

 退職予定であること。

 小規模な業務整理や資料構成支援を個人で受け始めること。

 もし困りごとがあれば相談ベースで対応可能であること。


 何度も書き直す。


 押し売りっぽい。

 卑屈すぎる。

 曖昧すぎる。

 また書き直す。


「……無理だろこれ」

『営業としては弱いですね』

 ルイゼが言う。

「分かってるよ」

『遠慮が強い』

「押しつけがましいの嫌なんだよ」

『その気質は分かります。ですが、今は伝わることが優先です』

「だよなぁ……」


 恒一は画面を見つめながら、もう一度文章を組み替えた。


 “もしお困りごとがあれば”

 をやめる。


 “現在、小規模事業者向けに、業務整理・資料整備・軽い自動化支援を試験的に受けています”

 に変える。


 ぼやけたお願いではなく、何をやるのかを先に置く。


『改善しました』

「珍しく褒めるな」

『本当に改善したので』

「なら受け取っとく」


 送る相手は三人に絞った。


 一人は、前職で関わった小さな製造業の担当者。

 もう一人は、大学時代に少しだけ繋がっていた先輩で、今は個人事業主をしている男。

 最後の一人は、昔のバイト先つながりで、小規模ECを回している女。


 三人だけ。


 情けないくらい少ない。

 だが、今の恒一にはそれが現実だ。


 送信。


 その瞬間、妙に手が汗ばんだ。


「……うわ」

『今、かなり緊張しましたね』

「見れば分かるだろ」

『見ていません。輪郭です』

「便利すぎるんだよそれ」


 でも、送った。

 それだけで十分だ。

 最初の一歩は、だいたい格好悪い。

 でも、格好悪くても踏んだ方が前だ。


     ◇


 午前中は引き継ぎ資料作成。


 どの案件がどこで詰まりやすいか。

 誰に何を確認すべきか。

 顧客の癖。

 社内のボトルネック。

 そして、堂本を経由しない方が早いルート。


「最後のやつ、書いていいのか……?」

『事実なら』

 ルイゼが言う。

「地味に煽ってるよな、それ」

『事実は時に煽りになります』


 こいつ、本当に最近ちょっと楽しんでるだろう。

 でも、言っていることは正しい。


 恒一は文面を調整しつつ、丁寧に書いた。


 “承認遅延を避けるため、関係部署へ直接確認の上、チームリーダーへ共有する運用が望ましい場合あり”


 だいぶ丸めた。

 だが意味は通る。


 昼前、三島がその資料を見て、少しだけ笑った。


「……お前、やっぱ仕事できるよな」

「どういう文脈ですか、それ」

「いや、普通に」

「今さらですね」

「それはそう」


 軽い会話。

 でも、その軽さが奇妙だった。

 この会社で、仕事の話を殴られずにできることが、こんなに異常な回復に感じるなんて。


 そこへ、スマホが震えた。


 私用の通知。


 送った営業メッセージのうち、一件に返信。


 相手は、大学時代の先輩だった。


ちょうど今、事務処理まわりが破綻気味。

何できるか一回話す?


「……」


 恒一は画面を二度見した。


「返ってきた」

『良かったですね』

「いや、ちょっと待て」

『何を』

「本当に?」

『返信は現実です』

「分かってるよ! でも心の準備が」

『それは送る前にやるべきでした』

「うるさい!」


 それでも、口元が勝手に緩む。


 最初の一件かもしれない。


 まだ確定じゃない。

 話すだけだ。

 それでも大きい。


「……なんて返す」

『自然に』

「それが難しいんだよ」

『では、事実整理します』

「頼む」

『相手は“話す?”と言っている。つまり、現時点では見積もりではなく相談段階』

「うん」

『なので、いきなり盛るな。できる範囲と確認したいことを簡潔に返す』

「……そのままだな」

『はい。あなたは余計な色をつけると失敗しやすいので』

「地味に刺すなぁお前」


 恒一は深呼吸して返信を書く。


ありがとう。

まず状況を聞かせてもらえたら、整理や資料整備、作業フロー見直しあたりで手伝えるか見ます。

今日か明日の夜なら少し時間取れます。


 送信。


 今度は少し、前より素直に送れた。


『良いです』

「ほんとか?」

『盛っていない。卑屈すぎない。範囲も明示した。十分です』

「……ならいいか」


 数分後、日程が返ってくる。

 今夜二十一時、オンライン。


「決まった」

『最初の接触ですね』

「うわ、そう言うと急に緊張する」

『もう緊張しています』

「やめろ!」

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