17
午後。
堂本がついに恒一の前に立った。
直接接触停止はまだ有効なはずだ。
だが、フロア中央、周囲に人がいる状況なら“会話”はできる。
その抜け道を使ってきたのだろう。
「相馬」
「……はい」
恒一は椅子に座ったまま見上げる。
堂本の顔は、二、三日でひどく老けて見えた。
目の下が暗い。
頬がこけている。
怒りと焦りが、人をここまで分かりやすく削るのかと思う。
「お前、やりすぎ」
「何のことでしょう」
「とぼけんなよ」
声は抑えている。
だが、その抑え方が逆に生々しい。
「会社相手にここまでやって、お前も無事で済むと思うなよ」
「脅しですか」
「忠告」
「録音しますよ」
「……」
その一言で、堂本の顎が固まる。
効く。
証拠を持たれる怖さが、今はこいつの枷だ。
「お前みたいなやつ、どこ行っても同じだぞ」
堂本が低く言う。
「結局、誰かに使われるしかない人間なんだから」
その瞬間、恒一の中で何かがすっと冷えた。
前なら刺さっていた。
深く。
でも、今は違う。
「そうかもしれません」
恒一は言う。
「でも、少なくともあなたにはもう使われません」
堂本の目が見開かれる。
たぶん、予想外だったのだろう。
怯えるか、黙るか、せいぜい言い返して空回りすると思っていたのかもしれない。
だが、今の恒一は、もう少し違う場所に立っていた。
「……っ」
堂本は何か言い返しかけたが、結局、舌打ちだけして去っていった。
フロアの何人かが、それを見ていた。
でも、誰も何も言わない。
それでいい。
この会社に、もう承認は求めていない。
『今のは良い返答でした』
ルイゼが言う。
「珍しく褒めるな」
『本当に良かったので』
「……そっか」
胸の奥に、じわりと何かが広がる。
勝利感ではない。
解放感に近い。
たぶん、あの一言は堂本に向けたものではなかった。
自分自身に向けて言ったのだ。
もう使われない。
少なくとも、あの男には。




