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昼過ぎ。


 人事から再度呼び出し。


 会議室には村瀬と、法務担当が一人増えていた。

 堂本はいない。

 それだけで、前回よりはましだ。


「アサイン変更の件ですが」

 村瀬が言う。

「業務上の必要性に基づくもので、報復意図はありません」

「そうですか」

「ただ、相馬さんが不利益と感じるのであれば、その認識は受け止めます」

「認識ではなく、比較可能な事実として見てください」

「……具体的には?」


 恒一は事前にまとめていたメモを出した。


「変更前、私が担当していた案件のうち、継続率・顧客評価・進行安定度の高いものが集中して外れています」

「はい」

「変更後は、短納期・責任範囲不明瞭・過去トラブル履歴ありの案件が集中的に入っています」

「……」

「さらに、堂本部長からの直接接触停止と同日の変更です」

「偶然の可能性も」

「あります」


 先に言う。


 村瀬の口が一瞬止まる。


「偶然の可能性はあります。ただ、現時点では“偶然と言い切れる材料もない”です」

「……」

「だから私は、断定ではなく、調査対象として扱ってほしいと求めています」


 法務担当の男が初めて口を開いた。


「資料、見せてもらえますか」

「どうぞ」


 紙を渡す。

 メールの時系列。

 案件難易度の比較。

 業務引き継ぎの雑さ。

 堂本経由の間接指示の増加。


 どれも、単体なら弱い。

 だが、並べると輪郭が出る。


「……なるほど」

 法務担当が言う。

「少なくとも、放置していい見え方ではないですね」


 村瀬が嫌そうな顔をした。


 その顔だけで、少し溜飲が下がる。

 火消しではなく、検討の土俵に乗せざるを得なくなった顔。


「分かりました」

 村瀬が言う。

「アサインの妥当性も含めて確認します」

「いつまでに」

「……明日中に一次回答を」

「文書でお願いします」

「分かりました」


 言質。

 今日も一つ、残す。


 会議室を出たあと、恒一は廊下の端でしばらく壁にもたれた。


 疲れる。


 本当に疲れる。


 殴られるのとは別の意味で疲れる。

 言葉を選ぶこと。

 断定を避けること。

 向こうの曖昧さを、そのまま曖昧で返さないこと。


 でも、必要だ。


 感情だけで突っ込んだら負ける。

 この手の場所では、それが一番よく分かった。


『消耗していますね』

 ルイゼの声。


「してる」

『緩和端末を使いますか』

「……会社で使えるのか?」

『個室なら』

「トイレで異星技術使うの、絵面終わってるな」

『状況は既にだいぶ終わっています』

「否定できねぇ……」


 恒一は苦笑し、給湯室横の小さな休憩スペースへ向かった。

 人のいないタイミングを見て、リングを手首に滑らせる。


 微振動。

 数秒。

 頭の奥の熱が引く。

 肩が少し落ちる。


 この“少し”が本当に大きい。


「……助かる」

『それは良かった』

「お前さ」

『はい』

「向こうじゃ艦長なんだよな」

『はい』

「なのにやってること、だいぶ生活支援だな」

『艦長は乗員の生存率を上げるのが仕事です』

「……」

『あなたは今、私の接触対象です。なら、ある程度は同じです』


 恒一は何も言えなかった。


 こういうことを、平然と言う。

 しかも、たぶん本人には変な口説き文句の自覚が一切ない。


『今、また少し黙りましたね』

「うるさい」

『面白いので許してください』

「艦長が言う台詞じゃねぇんだよ」


 だが、そのやりとりのおかげで、心拍はだいぶ落ち着いた。

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